過酷なスポーツと言われる「トライアスロン」の魅力とは?3児の母でありトライアスリート「二コラ・スピリグ選手」が追求する“チャレンジ精神”と“メンタル力”

  • 2020/09/23 (水)
  • 2023/07/20 (木)

トライアスロンは、1974年にアメリカ・カリフォルニア州サンディエゴで誕生して以来、着々と競技人口を増やしている競技。

連続して行う3つの種目「スイム」「バイク」「ラン」、それぞれのルールを理解したうえで、自然に囲まれて楽しむトライアスロンならではの魅力をひも解いていきましょう。

さらに、3児の母となった現在も世界の舞台で活躍を続ける女性トライアスリート、二コラ・スピリグ選手にインタビュー。

子育てと競技の二足の草鞋を履き続け、過酷なスポーツとも言われるトライアスロンを続ける醍醐味やその原動力に迫ります。

知っておくと面白さが広がる!トライアスロンの正式ルール

トライアスロン(バイク)競技中の写真

世界大会の主流種目でもある、トライアスロン。「名前は知っているけれど、ルールまではよく知らない」という人も、決して少なくないはずです。

ここでは、参加選手や応援する観客が守らなければならないさまざまなルールやマナーを解説。

「スイム」「バイク」「ラン」それぞれのルールを正しく理解することで、トライアスロンをより楽しむことができるでしょう。

「スイム」の主なルールとは?

トライアスロン(スイム)競技中の写真

スイムではウェットスーツの着用が推奨されており、水温や波の状態、距離などの競技環境によって必須及び禁止となる場合があります。大会によって着用ルールも異なるため、出場前には入念な確認が必要です。

競技中はコースブイの外側を泳ぎ、他選手を妨害しないように注意しなくてはなりません。意図的に他選手の泳ぎを妨害した場合、ペナルティまたは失格となります。

また、競技中はブイやコースロープをつかんで休むこともできますが、ブイをつかんだまま泳ぐことは禁止されています。

何らかのトラブルで競技中に救助を求める際は、「腕を頭の上に挙げて」救助を呼ぶようにジェスチャーを行います。一度救助されるとレースに戻ることができないため、注意が必要です。しかし、水上での救助には時間がかかることも念頭に置いておきましょう。

「バイク」「ラン」の主なルールや共通ルールとは?

トライアスロン(バイクとラン)競技中の写真

2013年、日本トライアスロン連合(JTU)が「前空き及び前ファスナー付きの競技ウェアの使用禁止の競技ルールの適用」を公式に発表。一般のエイジレースでもこのルールが採用されています。JTU主催の公認後援大会では着用が禁止されていますが、そのほかの大会はレースによって規定が異なるため確認が必要。

「バイク」ではレースや試走、トレーニングなど公式の場での「ヘルメット着用」が義務付けられています。スタート時は「バイクをラックから取り外すときから」、フィニッシュ時は「バイクをラックに掛けるまで」を厳守し、顎ひもを締めてしっかり頭にフィットさせるようにしましょう。

さらに「バイク」では、先行している選手の後ろを走行することで風よけとし、空気抵抗を軽減する「ドラフティング」という戦術があります。一方で、大会によってドラフティングが禁止されている場合があるため、ルールを確認しておかないとペナルティを受けてしまいます。

なお、許可されている大会でも、周回の異なる選手や車両・モーターバイクなどへのドラフティング行為は禁止となります。

「バイク」「ラン」共通のルールとして、追い越し以外は「キープレフト(左側走行)」が原則。追い越す際は前走者の右側から。ひと声かけてから追い越せば、ぶつかる不安なく走行できます。追い越した後も、距離を十分に取ってから左側に寄りましょう。

意外な落とし穴!観客が絶対にやってはいけないこと

トライアスロンの大会では、競技中に大会スタッフや審判による選手への支援(飲み物・栄養物支援、メカニック支援、医療支援)は許可されています。

しかし、コーチや観客による個人的援助は許可されておらず、選手と併走または追走し、拡声器を使うなど過度な助言を行うと、選手を失格にさせてしまうことも。

観客として競技を楽しむ際には、適切な応援を心掛けるようにしましょう。

自然や観光名所を巡る非日常体験。トライアスロンの魅力は無限大

自然や観光名所を巡る非日常体験。トライアスロンの魅力は無限大

トライアスロンの魅力は、その会場となるのが海や山などの自然に囲まれた場所で、常に自然と一体化しているような感覚になれるということ。

さらに近年では観光名所をコースにすることも多く、“スポーツツーリズム”という楽しみ方もできるという点を紹介します。

大自然に囲まれたコースで、地域環境の特色を感じられる!

トライアスリート(トライアスロンの選手)がよく競技の魅力として語るのが、自然に囲まれたコースが舞台となっていること。

「スイム」のレースがあるため、会場は必然的に海の近くになり、競技中は常に自然を感じることができます。

選手にとっては、会場近辺の自然環境に気を配り、予想外の気候変動に対応しなくてはいけない難しさもあるでしょう。一方で、大会ごとに環境がガラッと変わるため、その新鮮さを醍醐味にトライアスロンを楽しんでいる選手も多いそうです。

観光と競技が同時に!「スポーツツーリズム」でトライアスロンを楽しもう

トライアスロンの楽しみ方として、「スポーツツーリズム」という言葉があります。

これは、観光名所をコースにすることで同時に観光もできるという一石二鳥の楽しみ方。トライアスロンを通して観光客を誘致することで、地域活性化の後押しにもつながっています。

毎年、世界各国で大会が開かれるため、競技とともに世界旅行を楽しむのも良いでしょう。選手としても観客としても楽しめるのが「スポーツツーリズム」の魅力の一つです。

スイストライアスロンの二コラ・スピリグ選手に聞く。3児の母として、過酷なトライアスロン競技で活躍し続ける理由とは

声援に手を振る二コラ・スピリグ選手の写真

トライアスロンの基本的なルールや競技の魅力が分かったところで、世界で活躍中のベテラントライアスロン選手にインタビューを実施。過酷なトライアスロン競技を勝ち抜く、精神力の保ち方やトレーニングのコツを教えていただきました。

スイストライアスロンの選手として活躍している二コラ・スピリグ選手は、20年以上にわたりトライアスロン競技に携わり、3児の子を持つ現在も挑戦を続けています。

出産の12週間後には本格的にレースに復帰したという、その強さとメンタル力の秘訣はどこにあるのでしょうか。インタビューを通してひも解きます。

――アスリート生活のなかで、一番苦労したことは何ですか?

やはり、怪我をしたときが一番苦労しました。ストレス症状が出たり、足を故障することもありました。リオデジャネイロでの世界大会前に手を骨折していたのですが、そういうときは目標に向かって前向きな気持ちになれませんでした。やりたくても、完全に回復するまでかなりの時間がかかります。

オフの期間ではないので、気持ちもナーバスになり、メンタル的にもつらかったです。でも、アスリートにとって常にレースや競技のことだけを考えるのではなく、ほかのことを考える時間があっても良いと思っています。例えば、家族との時間を有意義に過ごすことです。私にはスポーツだけでなく、日常生活があるのです。

――トライアスロン競技に打ち込んでいる方に向けて、何かトレーニングのアドバイスはありますか?

可能であれば、一度に長いトレーニングをするのではなく、1週間のなかで数回に分けてトレーニングすることをおすすめします。プロだけでなく、アマチュアの方にも良いと思うのが、ペースを変えてインターバルトレーニングをすることが一番効果的だと思います。

例えば、2分走って、1分歩いて、また2分走る。競技を長く続けている方は4分間速いぺースで走った後、30秒ゆっくり走るという感じです。こうすることで、トレーニングに面白味(おもしろみ)が出て、徐々に体がハードなトレーニングに慣れてきます。

「スポーツへの愛」が、二コラ選手を突き動かすモチベーションに

スイムを終える二コラ・スピリグ選手の写真

――日々、どうやってモチベーションを高めていますか?

私はスポーツをすることや動くことが大好きです。いつも何かをしているのが好きでアクティブでいたいタイプなので、モチベーションを無理に上げる必要はありませんでした。一方で、厳しいトレーニングを乗り越えるには、大きな目標を持つことがモチベーションアップにつながっています。

重要な大会前は気持ちも高まるため、つらいトレーニングも取り組みやすくなります。なぜなら、そのトレーニングの目的が明確で、毎日何のためにトレーニングを積んでいるのか、はっきりと分かっているからです。ゴール設定をすることが私のモチベーションであり、チャレンジです。

――過去を振り返って、10代の二コラ選手はどういった子ども時代でしたか?

21年前のローザンヌでの大会の写真をちょうど見つけたので、思わず笑ってしまいました。

当時、16歳で初めてのジュニア世界チャンピオンシップに参加しました。その当時からスポーツがずっと好きでした。トライアスロンだけではなく、バスケットボールやスキー、スノーボードなどもしていました。

私の両親は2人とも体育教師で、日曜日にはいつも体育館に行きトランポリンをしたりして、活発な子どもでした。私はスポーツに夢中だったので、同世代の友だちが思春期で悩むなか、私は明るい子ども時代を過ごしていたと思います。

育児とトライアスロンの両立。夢を追う背中を見せる、アスリート流の子育て

バイク競技中の二コラ・スピリグ選手の写真

――育児と仕事のバランスに苦労するお母さんたちに、何かメッセージをいただけますか。

私にとっても、育児と仕事のバランスを上手に調整することは、とても大変です…。競技生活を続けていると、育児をする時間は十分にありません。本来は子どもたちと1日を一緒に過ごし、仕事も充実させながら、トレーニングをしたいです。

忙しい生活を送るお母さんたちに伝えたいことは、子どもや家族との時間を最優先することは良いことですし、そうであるべきだと思います。

加えて、良いお母さんになるには女性として野心や夢を満たす何か別のことを持つことも大切かもしれません。ずっと子どもと一緒にいられないこともあるかもしれませんが、お母さん自身が幸せで、子どもといられる時間に感謝していれば、そういった親のほうが私は良いと思います。

要するに、すべてのお母さんが自分自身のWORKとLIFEのバランスを見つける必要があると思います。

――“Design that moves”というデサントのタグラインがありますが、二コラ選手をmoveするもの(動かすもの)は何ですか?

難しい質問ですね!私は自分を奮い立たすために、動機付けをすることを考えます。なぜなら、アクティブ(活発的)に動くことで、その後気分が良くなるからです。

また、素敵なウェアを着たりすると、もっと楽しくなりますね。アマチュアで活躍する選手を見るのも面白くて、みんな自分たちのトライアスロンで使用するバイクやスーツをとても誇りに思っています。素敵な商品にはほかとは違う価値があり、大きな役割を果たしていると思います。

――私たちとの長年にわたるトライスーツの開発において、特に重要視した機能やデザインは何ですか?

今年ローザンヌで受け取ったトライスーツは、快適でとても気に入っています。サイズも自分にぴったりだと思います。この先、遮熱の研究など深くできたら、もっと面白いものになると思っています。

 

<プロフィール>

二コラ・スピリグ選手プロフィール画像

二コラ・スピリグ選手(Nicola Spirig)
スイストライアスロン所属
1982年 2月7日生まれ

【主な戦績】
2012年 ロンドンオリンピック 個人 優勝
2016年 リオデジャネイロオリンピック 個人 準優勝
2018年 ETU トライアスロンヨーロッパチャンピオンシップ 個人 優勝
2018年 ITU トライアスロンワールドカップ ローザンヌ 個人 優勝

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