夏になると、子どものスポーツや運動、遊びといったシーンで心配になるのが熱中症。
熱中症対策は水分をとる・適度に休む・涼む、といったことがよく知られていますよね。でも、ほかにも良い予防対策があるとしたら知りたいところです。
そこで今回、「子どもの熱中症を減らしたい」という想いから、新たな熱中症予防として有用性を実証する事業※に取り組まれた株式会社ウィンゲート(以下、ウィンゲート)の遠山健太氏、シャープ株式会社(以下、シャープ)の内海夕香氏、国際武道大学の笠原政志教授にお話を伺いました。
子どもたちをサポートする保護者、指導者のみなさんの毎日にも、すぐに取り入れられる熱中症予防対策のノウハウをお届けします!
※環境省「令和2年度熱中症予防対策ガイダンス策定にかかる実証事業」に採択された「児童のスポーツ活動における熱中症予防対策実証事業」
遠山健太
株式会社ウィンゲート代表取締役。東海大学男子バスケットボール部、国立スポーツ科学センター非常勤トレーニング指導員、全日本スキー連盟フリースタイルチームSCコーチを歴任。現在は子どもの運動教室を都内近郊で展開しながら、体力・体格を分析して楽しくできるスポーツを子どもから大人まで提案する「マイスポ」を全国的に展開している。著書に『スポーツ子育て論』『体育のずかん』など。
内海夕香
博士(工学)
シャープ株式会社 SAS事業本部 国内SA事業部 スマート事業推進部 TEKION 課長 兼 研究開発事業本部 スマートライフ開発センター所長。液晶材料技術のスペシャリストで、液晶ディスプレイでは化学、物理、光学、人間工学の知見を駆使したボーダレス開発。液晶材料開発技術に着想を得た新規蓄冷材料を開発し、市場ニーズに合わせた新商品コンセプト開発など要素技術から商品化技術まで一気通貫の開発をけん引。
笠原政志
国際武道大学 体育学科および同大学院 武道・スポーツ研究科 教授。博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー。大学にて学生トレーナー教育を行いながら、スポーツ現場活動と研究活動に取り組んでいる。2015年にはAustralian Institute of Sport客員研究員としてスポーツ選手のリカバリー研究に従事し、現在は社会課題解決に向けて関係諸機関や企業と連携した活動を行っている。『スポーツ現場における暑熱対策』(分担)など著書多数、TOKYO2020野球・ソフトボール会場 アスリートケアアシスタントなど指導実績も豊富。本日の座談会はリモートでの参加!
熱中症とは?症状や発症メカニズムを知って効果的な予防対策を
――夏が近付くにつれて、各地で「子どもが熱中症で病院へ運ばれた」というニュースが相次ぎますね。熱中症予防を万全にしたいところですが、ネットを中心にさまざまな情報が飛び交っています。まずは、笠原教授より熱中症そのものについてご解説いただけますでしょうか?
笠原:熱中症とは、暑熱環境によって発症する疾病の総称で、めまい・立ちくらみ・吐き気・頭痛・倦怠感などいろいろな症状があります。
主な原因は、一定時間暑熱環境にいることで体内に熱がこもってしまい、体温調整機能が破綻してしまうことです。その結果、血管が急拡張して血圧が低下し、脳の血流量が少なくなることによってめまい、立ちくらみが発生します。
また、汗を大量にかいてミネラルが一緒に排出されると、体内の水分バランスが崩れて吐き気や頭痛、倦怠感が起こります。もし体温が40℃以上にもなってしまうと脳の異常や多臓器不全を起こして死に至ってしまうこともあるのです。
――熱中症を引き起こすのは、どういった環境下が原因となるのでしょうか?
笠原:やはり、気温・湿度のどちらも高い環境には注意が必要です。例えば気温が低い場合であっても、湿度が高いと汗による体の放熱を妨げてしまうことになります。そのため気温だけではなく、湿度が高い環境も熱中症が起こりやすい条件に含まれます。
そのほか、体調管理として意識したいのが、睡眠不足や朝食の欠食など不摂生な生活にならないことです。例えば脳の疲労回復を促すために睡眠は欠かせません。睡眠不足によって脳がうまく機能していないと、熱中症を引き起こしてしまう可能性が高くなるでしょう。
また、体脂肪が多い方や熱中症経験者の方、暑熱環境に慣れていない方も熱中症にかかりやすいというデータがあります。
熱中症の一般的な予防、放熱する力が弱い子どもにはどのような注意が必要?
――熱中症は気温・湿度が高いかどうかに加えて、その日の体調にも気を配る必要がありますね。一般的にはどのような予防が正しいとされているのでしょうか?
笠原:熱中症の予防・対策は大きく分けると2つで、1つは体温を下げることです。これまでは「首や脇、そけい部(太ももの付け根にある溝の内側部分)を氷などで冷やすと良い」と紹介されてきました。しかしながら、この方法は冷却効率が悪いことがさまざまな研究から分かってきたのです。
今では諸外国において、いち早く体温を下げる方法として冷水浴が推奨されています。しかしながら、これを実施するには、大量の氷や全身をつけるための浴槽などそれなりの用意が必要なのですが現場ではなかなか難しいのが現状です。
また、長時間冷水浴につかっていると、逆に低体温症になってしまう危険性があるので、実施には注意が必要です。そこで現場では水を体にかけて、うちわや扇風機などで風を送ることが望ましいでしょう。水分が風で飛ぶとき、同時に体の熱も奪ってくれます。また、帽子をかぶって日差しを遮ることも、体温上昇を抑えるのに有効です。
もう1つの予防は水分摂取です。体内のミネラルバランスを保つため、ミネラルを含んだ水を飲むことが推奨されています。
――特に子どもの熱中症予防について、気を付けたいことは何でしょうか?
笠原:例えば、子どもは遊んでいると顔を真っ赤にすることがありますよね。実は、子どもは大人よりも汗をかく能力が40%ほど低いと言われています。つまり、子どもは汗で放熱する力が弱いということになるでしょう。
また、10~13歳を対象にしたある実験では、水分を定期的に飲む「計画摂取(ex:30分ごとに水分摂取)」と、喉が渇いたら飲む「自由摂取」の2パターンを比較しました。
その結果、「自由摂取」のほうが体内水分量の低下が激しかったのです。つまり、子どもの喉が渇く前に水分を補給させる「計画摂取」をしないと脱水していくということが、この実験結果から分かったということですね。
以上のことから、子どもの熱中症予防としては次のようなことが大切です。
子どもの熱中症の新たな予防対策が実証!手のひらを冷やして深部体温のプレクーリングを
子どもの手のひらを冷やして暑熱対策効果を検証する「熱中症予防対策実証事業」がスタート
――熱中症の一般的な予防方法についてはよく分かりました。そして直近では、ウィンゲート様、シャープ様、国際武道大学様にて子どものスポーツ活動における熱中症予防対策実証事業を実施されたそうですね。詳しく聞かせていただけますか?
内海:熱中症予防対策実証事業は、環境省から暑熱対策に関する実証事業を募集しているという話をいただいたことがきっかけでした。
熱中症に関する研究を進めるためには、運動・トレーニングといった身体動作のスペシャリストの知見も欠かせません。そこで、少年野球をはじめとする児童スポーツの暑熱対策研究を熱心に研究されていた、ウィンゲート・遠山さんに事業リーダーを務めていただくことになりました。
遠山:シャープ様が研究されている「適温蓄冷材」の存在は以前から知っていました。手のひらにある、体温を調節する動静脈吻合(AVA)と呼ばれる血管を適温蓄冷材で冷やすことで、冷えた血液が体内を巡り、体の中心部の温度である「深部体温」を下げるというものですね。
また、この「適温蓄冷材」を使い、運動前に手のひらを15~30分ほど冷やす「プレクーリング」という暑熱対策をトップアスリートが活用していると、何度かメディアに取り上げられていました。
「大人に効果があるのであれば、子どもにも有用ではないか」という仮説を立て、熱中症予防対策実証事業の計画に盛り込むことに。そして、実際に子どもの手のひらを事前に冷やして、暑熱環境下における検証を進めることになりました。
実験中に子どもからは「走るのが楽に感じた」とポジティブな意見も
――子どもを対象にした熱中症対策の実証実験はとても希少だそうですね。
遠山:倫理的な観点から、未成年を暑熱環境に置く実験は実現が難しいです。私たちの場合は、暑熱研究に詳しい笠原教授と相談し、江戸川病院の岩本航先生にも医学監修をしていただくなど万全の環境を整えたうえで、被験者の子どもや保護者のみなさまへしっかり説明をすることでようやく実現することになりました。
実験環境としては、暑さ指数(WBGT)が27~28℃になるように室内の温度を調整。プレクーリング後に弊社のランニングマシンで心拍をモニタリングしながら、シャープ様のサーモグラフィも使い、トレーナーが見守って休憩も適切に取ることを重視しました。
――実験では運動する30分前に「手のひらを蓄冷材で冷却」「アイススラリー摂取」「坐位安静」のいずれかを行い、それぞれ比較されていましたね。結果を教えてください。
遠山:運動する30分前に手のひらを蓄冷材で冷却する方法のほか、冷たいスムージー(通常の氷よりも結晶が小さい氷)を飲んでもらう「アイススラリー摂取」、特に何も行わない「坐位安静」を実施しました。
結果を分析すると、運動時の急激な体温上昇を抑えるには、「手のひらを蓄冷材で冷却すること」が最も効果的だということが分かりました。例えば、何も対策を行わない「坐位安静」と比べると、深部体温の上昇が0.5℃ほど抑えられていたのです。
条件間における核心温度の変化
※深部体温は核心温とも呼ばれます。
内海:深部体温は上下変動が少ないので、0.5℃の差はとても大きいそうです。
遠山:アンケートで運動時の感想を聞くと、実に66.6%の子どもがポジティブな意見を答えてくれました。具体的には「走るのが楽に感じた」「涼しかった(暑くならなかった)」という意見が挙がったことからも、子どもの熱中症予防対策への有効性を示すことができたと感じています。
シャープ開発の蓄冷材「TEKION」は12℃を持続して手のひらを冷やす
――改めて、熱中症予防として「手のひら」を冷やすことの重要性をご説明いただけますでしょうか?
内海:まず重要なのは体温を調節する動静脈吻合(AVA)血管を冷やすことです。動静脈吻合(AVA)血管から静脈を通して心臓へクールダウンされた血液が戻り、その血液が再び全身に送り戻されることによって体内の深部体温が下がるという仕組みです。
笠原さんのお話にあったように、子どもの場合は汗で放熱することが苦手なので、深部体温を下げることがなおさら重要になってきます。
――実験では12℃の蓄冷材が使われています。なぜでしょうか?
内海:冷たすぎるものは血管を収縮させ、体内の血流量を減らしてしまいます。蓄冷材を使わない場合、深部体温上昇の抑制に効果的なのは20℃の水に手をつけること。これは、労働安全衛生総合研究所の研究結果から分かっています。しかし屋外・屋内問わず、水を20℃に保ち続けるのは難しいですよね。
そこで、弊社の特殊技術で一定時間12℃をキープできる蓄冷材「TEKION」であれば20℃の水につけるのとほぼ同じ効果が得られることが分かったので、子どもたちが簡単に装着できることからも、今回12℃の「TEKION」を使いました。
――「プレクーリング」の重要性も教えていただけますでしょうか?
内海:事前に手のひらを冷やすプレクーリングをすると、暑熱環境下の運動でも深部体温の上昇抑制効果が期待できることが実証されています。
装着後の蓄冷材の冷却持続時間、プレクーリングの時間は約20~30分なのですが※、上記グラフを見ると、蓄冷材を外した後も深部体温を低く保つ効果はしばらく続くことが分かると思います。
※周囲温度35℃、手のひら温度34℃の場合。
今回の実験で使用された暑さ対策アイテム「CORE COOLER(コアクーラー)」をチェック!
熱中症予防対策実証事業で冷却に使われたのが、シャープが開発した蓄冷材「TEKION」。
その「TEKION」とデサントが開発したアタッチメントを組み合わせたアイテムが、デサントの「CORE COOLER(コアクーラー)」です。
12℃の蓄冷材で手のひらをプレクーリングすることで、深部体温の上昇を抑制できる仕組みに。
熱中症予防声かけプロジェクトが主催する、熱中症予防の啓発を目指す「ひと涼みアワード2021」において、2020年・2021年と2年連続で「スポーツ部門」優秀賞を受賞しています。
子どもの主な使用シーンとして「スポーツシーン」では試合や練習前のウォーミングアップをはじめ、運動中のクーリング、運動後のアフタークーリング、ほかにも遊びに行くときや通学中などにも活用できます。
「ちょっとした合間にもすぐに着用できるのが便利ですね。グローブがあるので蓄冷材を手のひらで握る必要がないため、手軽に使えます。」と遠山さんもおすすめします。
そんな手のひらサイズの蓄冷材には理由があり、「プレクーリングは約15~20分が目安。コアクーラーはそれに適したサイズで設計されており、持ち運びが容易で、違和感なく装着してもらえるかと思います。」と内海さんは教えてくれました。
蓄冷材はあらかじめ氷水で1時間以上、冷凍庫(-18℃以下)で2時間以上、冷蔵庫(5℃以下で)で9時間以上の冷却を。皮膚に当てても痛くならないマイルドな冷え感は、「子どもが嫌がらない」と好評です。
熱中症予防対策実証事業で証明された、「手のひらを冷やすことが熱中症予防対策につながる」という新常識。子どものスポーツシーンや遊び、通学などにコアクーラーを取り入れてみてはいかがでしょうか。
昨年大ヒットしたデサントの「コアクーラー」は、手のひらを冷やすという新発想の暑さ対策グッズ。スポーツ前後の使用を想定した商品でありながら、日常生活にも取り入れられることから好評を得ています。デイリーユーザーのなかでは、特に子育て世代の女性[…]