「立方骨」を支えよ!アンブロがBMZインソールを採用した深いワケ

  • 2020/11/13 (金)
  • 2023/06/09 (金)

アンブロから発売している2020年モデルのサッカースパイクの一部には、インソールの開発を専門としているBMZ社製のインソールが搭載されています。

他社同士の製品がコラボするのは珍しいことですが、今回搭載された「BMZインソール」とはどんな特徴を持つのか?なぜ、共同開発に至ったのか?デサントジャパンのアンブロマーケティング部の杉本亮氏(写真左)と、株式会社BMZ研究担当の山中保氏(写真右)に話を聞いてみました。

(ライター|中村僚、カメラマン|牧野ゆかり)

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「インソールを変えるだけで、こんなに違うのか」

――BMZインソールはどういう経緯でアンブロのスパイクに導入されたのでしょうか?

杉本:サッカー選手にとって相棒とも言えるのがスパイク。表面の質感・重さ・フィット感など、さまざまな要素が絡み合って影響を与えます。選手によっては、1mmの大きさ、1gの重さの違いも敏感に察知するほどです。

なかでも、インソールは重要な役割を持っています。インソールとは中敷きのことで、自分の足の形に合っているか、足を適切に支えることができているかは、選手の感覚に大きな影響を与えます。

経緯としては、私がシューズの企画を担当するようになってから、BMZさんをご紹介いただきました。私自身、フットサルをしているので、感触が良かったら使ってみようと思い、まず自分で試してみました。

いざプレーしてみると、ものすごく良い感触で動くことができて、「インソールを変えるだけで、こんなに足の感覚が違うのか」と実感したんです。

BMZのインソールに変えて感じた一番の変化は、試合中に踏ん張りやすくなったことと、キックがよく飛ぶようになったことです。

――インソール開発でも、そういった効果が出るように狙ったのでしょうか?

山中:そうですね、BMZインソールならではの特徴だと思います。

足の外側には「立方骨(りっぽうこつ)」という骨があり、足の骨は立方骨を支点として石垣のように重なっています。言わば建物の大黒柱のように、体全体を支えている骨です。

BMZインソールには立方骨を支える突起があり、足のアーチ形状を保つことで、足の指をしっかりと使えるようサポートしています。

そうすると、踏ん張ってバランスを取ったり、ボールを強く蹴ったときに反発の力を利用できたりします。

足骨の模型のピンクの部分が「立方骨」。

足は、「衝撃の吸収」「力の反発」「バランス維持」という、3つの動作を同時に行っています。これらを同時に行うためには、足の指を広げて使うことが必要です。

これは、人間が本来持っている能力ですが、それをインソールの形状でさらに発揮しやすくしているというわけです。

「浮き指」という現象をご存じですか?足がアーチを作れておらず、指の付け根が支点になってしまうため、足の指が地面から浮いてしまっている状態のことです。

こういう状態の足の場合は土踏まずがないので、足の裏全体が潰れてしまって、上下に動くスペースがないんです。歩いたり走ったりしたときの衝撃を吸収しきれず、指の付け根を痛めてしまうこともあります。

それを回避するため、今回のインソールは、立方骨を支えて持ち上げることで、土踏まずのスペースを作って足を上下に動かすサポートをしています。

その状態で生活したりサッカーをプレーしたりしていれば、そのうち自然と土踏まずができていきます。

杉本:BMZの導入前も、アンブロのスパイクには衝撃吸収を考慮したインソールを導入していました。しかし、ここまで効果があるものではありませんでした。

実は、ベルギーでプレーする森岡亮太選手(ロワイヤル・シャルルロワSC所属|2020年2月時点)が、BMZインソールが搭載されたスパイクをすでに使用しています。とても気に入ってくれています。後からインソールだけ追加で送ったこともあります。

ヨーロッパはグラウンドが柔らかいことが多く、かつプレーが激しいので、スパイクの消耗も早くなります。ですので、新しいスパイクにインソールだけ付け替えるのも、有効な使い方です。

立方骨を支えて得られた効果

――インソール開発のうえで、「立方骨」に着目したきっかけを教えてください。

山中:今までは足形のサンプルを取り、足の形に合わせたインソールを作っていました。選手たちの感触も悪くはなかったのですが、「良いんだけども…」という言い方でした。その「だけども」の部分が、妙に引っかかっていたんです。

悩んでいたなかで、知人の医者が「立方骨が大事なんだよ」と教えてくれました。アメリカのドクターは、体の調整をした後に立方骨を調整するらしいです。理由を聞くと、「立方骨を調整しないと、体全体が崩れるからだ」と。

当時は意味がよく分からなかったのですが、後に新しいインソールの開発に着手した際に、ふと立方骨の話を思い出し、本格的に調べてみようと思いました。これが一番最初のきっかけですね。

――技術的に苦労した部分はありましたか?

試しに立方骨を支える形のインソールを試作品として作ってみたら、足が速くなりました。一方で、負傷のリスクを抑える必要がありました。

従来のインソールは土踏まずを支える構造になっていたため、そこに立方骨を支える構造も合わせると、足の内側と外側の両方を支えることになり、靴の中で足が上下に動くスペースがなくなってしまったんです。

足の関節は、動く余白があって初めて衝撃を吸収できます。その余白を潰してしまうと、負傷のリスクが高まります。これが最初にぶち当たった壁でした。

何度も研究を重ね、「インソールの内側は削っても構わない」という結論に至り、削っては試し、削っては試し、ということを繰り返していきました。

そして、ようやく理想とするインソールに仕上がり、負傷のリスクを軽減できる製品にすることができました。

――性能が優れていても、他社同士の製品を開発・導入するまでにはさまざまな調整が必要だったのでは?

山中:BMZではこれまでインソールを単体で販売していましたが、スポーツ(スパイク)メーカーと組んで一体の商品を出したのは今回が初めてです。

アンブロさんにもおそらく自社のインソール作成ノウハウがあるなかで、私たちのインソールを導入していただくまでにいろいろな経緯があったかと思います。

杉本:BMZインソールはこれまでに単品でも販売されていて、サッカーのみならず多くのアスリートから支持されているブランドです。それだけ信頼と実績のあるブランドを導入するには、やはり値段がネックになりました。

我々は、これまでのシリーズと販売価格を変えずにインソールを改良するのが目標でした。多くの方のご協力をいただきながら、最終的に据え置きの値段で販売することができました。

さらにこだわったのはインソールのグレードです。モデルによりグリップの有無の差はありますが、すべてにおいて立方骨を支える構造は同じにしています。

日本では、まだインソールの文化が発展していない

――インソールというと、プレイヤー側が重要度に気付いていないことも多い器具だと思います。外見からインソールは見えませんし、言ってしまえばあまり目立たない部分を売りにしたスパイクになっていると思いますが、今後どのようにプロモーションを展開していくのでしょうか?

杉本:まさにそこに力を入れたいと思っており、インソールの重要度を広く認知させたいからこそBMZさんにお願いした面もあります。

トッププレイヤーはインソールを非常に重視しており、少しの違いでプレーの感覚が大幅に狂ってしまうこともあるんです。森岡選手のように、新しいスパイクに自分に合ったインソールを付け替える選手もいます。

山中:日本ではインソールの文化は発展していませんし、まだまだこれから伸びていく分野だと思います。もしかしたら、屋内では靴を脱ぐ文化であることも影響しているかもしれません。

海外では足の問題にフォーカスすることが多く、運動をしない一般の方が普段の靴に自分専用のインソールを使う、という国もあります。

NBAでは、試合後にバッシュをサポーターに投げ入れてプレゼントする場面が見られますが、インソールだけはほぼ必ず抜き取って投げるんです。「マイインソールだけはあげられない」と。

それくらい自分の足とパフォーマンスの相関性と重要性が分かっているんでしょうね。

とはいえ、日本でも徐々にインソールが認知され始めていると思います。約30年前までは、スポーツでインソールを使っているのはスキーしかありませんでしたから。

そこからいろいろな競技に広がり、サッカー・野球・マラソンなど、足元が体に与える影響が見直されてきています。

現在BMZのインソールは多くのプロ選手に使用してもらっていますが、私たちはスパイクメーカーではないので、インソールの認知度を高めることはあまりできません。

そこでアンブロさんに導入していただいて、良いものを提供する代わりに認知を広げてもらっています。

「BMZインソールを履いて怪我が減った」「プレーがうまくなった」「プロになれた」という声が聞けたら、それが一番うれしいですね。

インソールは外から見えないので、選手との契約に「ゴールを決めたら靴を脱いでインソールを見せるパフォーマンスをする」という条項を入れてもらえるとうれしいですね(笑)。

杉本:アンブロの2020年モデルの「アクセレイター」「ACR CT」は、機能や素材のこだわりはもちろんですが、見た目だけでなく「インソール」にも注目していただき、ぜひ自分に合ったスパイクを選んでみてください。

<プロフィール>

山中 保
株式会社BMZ 取締役 靴ホペイロ

1978年東京都出身。Jリーガー、プロ野球選手など多くのアスリートを足から身体のバランスをインソールやスパイクを通して調整し、世界中の人の足から健康を目指す。

杉本 亮
デサントジャパン(株)アンブロマーケテイング部 MD課

1984年東京都出身。(株)デサント入社後は営業業務を経て、日本代表選手や学生とのコミュニケーションを取りながらサッカーシューズの企画業務を担当。サッカーやフットサル Fリーグでの競技経験もあり、選手が競技を長く楽しめるシューズ選びを提案。

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