熱中症対策に服装やシューズ選びが重要!スポーツを安全に楽しむためにできること

熱中症対策に服装やシューズ選びが重要!スポーツを安全に楽しむためにできること

  • 2021/07/16 (金)
  • 2023/06/09 (金)

毎年夏の日最高気温が上昇しつつある日本。若年層の熱中症緊急搬送数は減少傾向にあるとはいえ、熱中症の全年齢患者数は増加傾向にあります。

今回は、暑い夏を迎える前に押さえておきたい、熱中症対策について考えます。

子どもたちが楽しく安全にスポーツに取り組むためにできることは?スポーツ時の熱環境改善や、体操着の快適性に関する研究を行ってきた筑波大学・田神一美名誉教授にお話を伺いました。

熱中症の原因は「熱」にある

――まず、田神教授が取り組まれているスポーツ衛生学とは、どのようなものですか?

スポーツ衛生学について話す田神教授

私は30年以上の間、筑波大学の体育系に籍を置いて衛生学を教え、研究する立場にありました。衛生学は医学の一領域ですが、それぞれの現場、例えば工場には「労働衛生」、調理場には「食品衛生」があって、専門職員が置かれています。

しかし、体育やスポーツは命に関わる現場でありながら、その衛生に携わる人がいないという状況に危うさを感じてきました。

そんななかでスポーツの独自の課題に関わってきた経験から、スポーツ指導に特化した衛生学領域に育てたいと考え「スポーツ衛生学 Athletes Health」をキーワードとした取り組みを進めてきました。

今回のテーマである熱中症も、こうした取り組みの一つです。私は、競技中に熱中症を発症する選手が多いことに注目し、その原因を「熱」に絞って考えています。

――そもそも熱中症とは、どのような状況、状態のときに起こるものなのでしょうか?運動中に熱中症を発症する人が多い理由は?

人間を含む恒温動物は、自分の体の中でつくった熱をすべて外に出したときに、初めて体温が一定になります。熱源は体内でつくるだけでなく、外にもあります。

自分でつくった熱と外から入ってきた熱をすべて放出することができれば、体温は通常の状態に戻るので、どんなに暑かろうが問題なく過ごせます。

しかし、運動中は体内でつくる熱が大きくなり、真夏の屋外での運動では外から入ってくる熱も大きくなります。

その熱を放出するための手段は、実はほぼ1つしかないんです。それが「空冷」です。風、あるいは周辺の空気に熱を乗せて捨てていきます。

それができなくなったときに、いかに体温上昇を防ぐことができるか、ということが運動中の熱中症の中心課題です。

空冷力を確保して安全に運動するには、常に風に向かって移動するように指導者が心掛け、保護者のみなさんには、彼らがそのように心掛けていることを監視してほしいのです。

どんなに注意しても熱中症リスクが高まるときはあります。そんなときにプレイヤーを守って、競技力を維持させる方法は、外の熱源から子どもたちを遮る以外に方法はありません。

シューズ向けの素材だけではなく、スポーツウェア全般に採用していただける遮熱素材の開発を急いでいるところです。

水を飲むだけの熱中症対策の先へ

――教育現場や運動環境における熱中症対策は、ここ数年でどんな変化があったのでしょうか?

熱中症対策について話す田神教授

日本で熱中症対策が行われるようになったのは1990年代の初めです。

学校管理下の熱中症死亡事例が3年間の累積で30人へと急増したことがあり、練習中は水を飲ませないというそれまでのスポーツ指導が問題とされました。

1994年に日本体育協会が「熱中症予防のための運動指針」を発表し、私たちも練習中に水を飲めるようになって、熱中症死亡例は一挙に減少して、先の累積指標が1桁の前半にまで下がりました。

――「水を飲んで熱中症対策を」というのはよく言われますね。

水を飲むことと熱中症の予防について話す田神教授

その後の30年間、学校関連の熱中症死亡事例は年間0~3件を維持しています。30年間ずっとその数字に変化がないんです。

この解釈はいろいろあると思いますが、私個人は、水を飲むことで改善できる範囲の対応はとうに終わっていると思っています。水を飲むことはもちろん大切ですが、熱中症対応の新たなステージに向けてスタートを切るときを迎えているのではないでしょうか。

30年間こんな状態を維持してきたことは、何もしていないという状況に近いんじゃないかなと思っています。今熱中症で亡くなる子どもたちをどうしたら救えるのか。スポーツをする子どもたちが、そういうリスクにさらされているという認識を持ち、熱中症対策はもう一歩前へ踏み出さないといけないと思います。

改めて言いますが、熱中症の真の原因は熱です。熱を制すれば熱中症を制することができます。

政府もメディアも「水を飲んで熱中症を予防してください」と言いますが、これは正しい因果関係を示さず、あたかも水を飲まないことが熱中症の原因であるかのような印象を与えます。

次のステップでは、目に見えない熱という原因をしっかりと捉えることで、競技中や運動中の熱中症予防を実現しなければなりません。

――熱と聞いて、まず最初に気になるのが環境です。子どもたちはどのような環境でスポーツをしているのでしょうか?

夏の環境は東京都内の日中気温が33~35℃くらいと、経験的に多くの人が運動したくないと考えるような気温になっています。

しかも、運動中の体温は40℃くらいまで上がって、皮膚温度もこれにつれて上がるので、実際的な限界は40℃くらいと考えると、厳しい環境だと思います。

また、汗が蒸発しやすいのは湿度が低いときです。雨天や朝晩は、気温が下がるので相対温度が上昇して、汗が蒸発しにくくなるので、激運動は控えたほうが安心です。

次は放射熱です。日差しは強力な放射熱源ですが、競技中にこれを制する手段は限られています。地表面の照り返しも日射に相当する強力な放射熱源です。

屋外の競技場では、グラウンド表面の材質によって温度が変わります。アスファルト・ウレタン・人工芝は表面温度が高く、70℃ぐらいになります。

土のグラウンドでは日差しがあっても、地中の水が蒸発して表面が冷却されるので50℃ぐらいが上限です。

また、屋内なら安心というわけでもありません。体育館で運動をしていて熱中症で亡くなった事例があります。館内は風が弱く、日差しで温められた屋根や壁面が放射熱源となって襲ってくることを承知しておいてください。

暑さ対策に取り入れたいGAINA搭載シューズ

――今、熱中症を防ぐには具体的に何ができるのでしょうか?

アンブロのGAINA搭載シューズ

僕も知りたいですね(笑)。世界中の文献をあたってみても、水を飲みなさいというものはいくらでも出てきますが、熱に関わって研究していらっしゃる先生はゼロです。

競技・運動中に水を飲むことの可否は、日本では30年前に、世界ではもっと以前に終わっている研究課題です。いつまでここに踏みとどまっていれば良いんでしょうね。

誰も「振る袖」を持っていません。すみません、チャレンジはしているのですが、今のところ私にも「振る袖」はありません。

そこに一矢報いようとしているのが、私が所属している日進産業です。

日進産業が開発した特殊セラミック塗材であるGAINAという素材を使って、アンブロさんと私たちは、夏の人工芝用のサッカースパイクを作りました。

このシューズは、人工芝でプレーしているときに足裏に熱的ダメージを負うというサッカー選手の声から生まれたものです。

GAINAは周辺温度に適応する性質を持っていて、熱の移動を抑える働きをします。このGAINAをインソールに塗り込むことで、人工芝など地面の熱から足裏を守ることに役立ちます。

このシリーズにはキッズ用のサッカースパイクやトレーニングシューズもあるので、暑い日中の人工芝でスポーツをする子どもたちには、これを履いて足を熱から守ってもらいたいですね。

このサッカーシューズはユーザーや指導者のみなさんの声から生まれましたが、これは私たちに大きな発想転換を促しました。足裏から侵入する熱が問題になったのは労働分野だけで、スポーツ分野がこれに関わろうとはまったく思いもしませんでした。

対策に適した素材との出会いも衝撃です。これからは、いろいろなスポーツウェアにGAINAが搭載されるようになっていくと考えます。

1日でも早く、「振る袖」をお届けできるように働きかけていきます。

――服装の選び方などでも対策はできないでしょうか?

アンブロGAINA搭載シューズと田神教授

まず、色ですね。最近は帽子などでも黒が流行っているようですが、僕は黒をおすすめしません。白に比べると黒の熱吸収は1.2倍です。ですから、夏の屋外で着る服や帽子は白を選ぶべきですね。もちろん靴も同様で、熱を反射する白が良いと思います。

次は、皮膚を露出するデザインですが、ヒトの皮膚は放射熱をよく吸収するので、マラソンのような長時間の屋外競技種目では避けたほうが安全ですし、競技力維持にも貢献できると考えます。

さらに、日射と走路の照り返しはウェア表面が跳ね返すので、皮膚の露出が少ないほうが熱負荷が軽減されるという両得が期待できます。

また、汗は自由にニット製のウェアを通過できるので、ニット素材のウェアであれば、ウェアの表面から汗が蒸発して放熱されます。

――スポーツ衛生学の観点から、スポーツに取り組む子どもたちのために親御さんができる取り組みがあれば教えてください。

まず、運動する人たちがけがをしたり、命を落としたり、病気になる可能性があるということを、知ってもらいたいですね。スポーツとは、そういうリスクがゼロではないということです。

スポーツ指導評価尺度としてスポーツ衛生学を技能学習に加えて、安全が取り入れられることを願っています。

私を含むスポーツ指導者は、スポーツ活動中の子どもたちのけがや病気をなくす努力を惜しみません。スポーツが関わる熱中症の発生件数は、公表されているわけではありませんが、年に数件程度と見積もられます。

その数件を根絶する努力が、原因を踏まえたうえで、細々ながら続けられています。関心を持って、目を離さないで見守っていただけるよう願っています。

 

テキスト/伊藤伊万里(ライトアウェイ)

<プロフィール>

筑波大学名誉教授(スポーツ衛生学)、(株)日進産業主任研究員
田神一美

1951年、静岡県生まれ。スポーツ衛生学を専攻し、筑波大学名誉教授、また日進産業主任研究員として活躍。1974年に東京教育大学体育学部卒業。1975年、航空自衛隊航空医学実験隊研究員。1984年、筑波大学講師、助教授、教授(体育系)。1995年に埼玉医科大学で博士(医学)取得。2017年より筑波大学名誉教授となり、現在に至る。著書に『スポーツの傷害と障害を無くす』(筑波大学出版会、2009年)などがある。

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