全日本スキー技術選手権大会(通称:技術選)で過去5回優勝を経験しているレジェンド丸山貴雄選手と、2019年にチャンピオンに躍り出た武田竜選手に前編後編にわたってインタビュー。
前編となる今回は、第57回の技術選が中止になってしまった今の率直な気持ちやこれまでの大会のエピソード、今後の注目選手などざっくばらんに伺いました。
(写真左:丸山貴雄選手、右:武田竜選手)
(ライター|デサント編集部、カメラマン|矢田部裕・村本万太郎)
※インタビューは2020年3月2日に実施しました。
——技術選は中止になってしまいましたが、今の率直な思いを聞かせてください。
武田:悲しいです。大会に向けて準備をしてきたので、しょうがないとはいえ悲しいです。
——中止の連絡を聞いたときはどこにいらっしゃったんですか?
武田:もう北海道から八方に入ってて、ずっとこっちで練習してたんです。最初は「ああ、中止になったんだ。」くらいだったけど、タイムラグがあって実感が湧いてきて、やっぱり悲しいですね。お金もかかってるし(笑)。
丸山:今年は、大会があれば「竜が1位だった。」で譲ってあげるから、「(丸山選手は)2位だった。」ということにさせて(笑)。大会の中止に関しては、この状況なので致し方ないですが、竜と同じで悲しいですね。技術選に調子を合わせてくるという生活を19年続けてきましたので。
——今年も全日本があれば、どんな意気込みで臨もうと思っていましたか?
武田:ディフェンディングチャンピオンだし、常に見られてる。でもやってきたことがあるから、自信を持って行くだけ。そんな気持ちで臨もうと思っていました。
丸山:この大会はやっぱり特別。普段の練習では出ないような滑りをできるので。今年も1年に一度の大会で、最高の滑りをできるように準備をしていました。
丸山選手、コブ斜面にて。
——最近の滑りのトレンドを教えてください。
丸山:それは僕からしゃべりますけど、まさに武田竜ですね。いつの時代もそういうチャンピオンというのは生まれてくるんですが、今は竜がテクニカルリーダーです。彼がやることを基準に技術選が動いている。
だけど(「誰かの時代」というのは)なかなか長く続かないんですよ。だから彼も去年の滑りを進化させてきている。そういうチャンピオンは強いですね。
——武田選手の滑りの特徴というのは?
丸山:アルペンレースで培った鋭いカービングというのがずっと彼の代名詞。前は、固いバーンで表現できても柔らかいバーンではミスをしていた。でも今は柔らかいバーンにもタッチを合わせて、鋭いカービングができる技術の幅が広がってきて、本当の意味でのチャンピオンになってきたかなと。
今年もテクニカルリーダーは武田竜で大会が動いていくはずだった。だから大会がなくなったことに関しては彼が一番悔しいと思います。
鋭いカービングを見せる武田選手。
武田:自分で作ってきたものが、今周りの評価も得て完成されてきているっていうのを、感じてはいますよ。でも自分で、これが正解で、ここが100%って決めちゃうと、「そうくるだろうな。」って思われるから、違う意味で引き出しを増やしていきたい。そうしないと自分が飽きちゃう。自分の滑りを見ててもすぐ飽きちゃうんで。
周りに見られてるから余計に、自分で考えて作って進化させていかないと、大会が盛り上がらないし、自分がまず盛り上がらない。今一番にいるから、そういうつもりではやっていました。
武田選手、コブ斜面にて。
——印象に残っている過去の大会はありますか?
丸山:勝ち試合と負け試合があって、勝ったときで印象が強いのはお客さんが盛り上がった種目があるとき。僕でいうと3連覇ができた、ジャンプ台のショートターンがあったときは地鳴りがするような盛り上がりがあったんで、そういうのは思い出します。でも、メンタル的には負け試合がすごくつらいので、(吉岡)大輔に逆転された2回とか、結構心に残っていますね。
武田:僕は、リズム変化という種目ができて、カービングのきっかけになったというか、技術選の方向性が変わるきっかけになった年。そこで、ガラッと変わった。「あ、そろそろ行けるかも。」みたいな、「あと何年か分からないけどもうすぐ行かないとな。」っていうのを感じました。技術選2年目だから31歳のとき。
丸山:その年、レースのスラロームイメージでジャッジする種目ができたんですよ。それまで、僕たちのリズム変化というのはフォールラインを変えるか、細かいターンと深いターン、くらいの変化のイメージだったんです。
でも竜は、スラロームのオープンゲートとアンダーゲート(スルーゲート)という風にアレンジしてきて。そういう意味では、竜のアルペンイメージがきっかけでカービングの技術を見ようかってなったのかもしれないです。
武田:僕はそういう風に捉えて、今自分のショートターンとかを作ってるから、あの演技をやらなかったらどうなってたか分からないですよね。
——大会中は、ライバル選手同士意識したりピリピリしたりしますか?
丸山:そういう時代もありました。大会1週間前くらいからお互い一切口利かないし、目も合わせないっていう選手たちはいました。それは、お互いに集中しているからという良い意味ですけどね。今はそこまでしないけど、もし僕が竜と優勝争いできる立場になったら口は利かないと思います(笑)。
武田:そういうのありますよね。みんな心の底では、勝ちたいという気持ちが絶対あるから。表では「お互い頑張ろうね。」になるんだろうけど、やっぱり想いがないと勝負にならないですからね。
——今後活躍しそうな、注目している選手がいれば教えてください。
武田:レースから入ってくる子が最近多いんですよ。そういうテイストを持った選手たちは、今の基礎にはカービングの技術を評価するスタイルがあるんだから、一緒に今のうちに活躍してほしいと思います。
丸山:僕は、片岡嵩弥くん。同じチームメイトとして頑張ってほしいなと思います。
——ストックは伸縮できるものを使っていますか?それぞれ何cmにしていますか?
コブ斜面を飛ぶように滑り降りてくる武田選手。
武田:整地は一緒で110cm。コブは105cmぐらいにするんだけど、コブだからついていくうちに短くなっちゃいます。
コブに板を当て、雪しぶきを上げながら滑る丸山選手。
丸山:ショート110cmなの?あんまり長く見えないね。あんまりつかないの?僕は常に107cmです。コブでスピード出そうかなってときはもっと短くします。
——こんな種目があったら面白いのに、という種目はありますか?
武田:韓国で経験したんですけど、2人同時にショートターンで降りてくるトーナメント式の種目がありました。速さだったり、ちょっとゆっくりだけどこんなのはできないわっていうターンだったり、っていうのを5人のジャッジが青旗か赤旗か挙げて勝敗をつける。あれはすごく分かりやすくて面白かったです。
丸山:何か分かりやすい基準を技術選のなかに設けるっていうのは良いよね。タイム計測とか、スタートとゴールで切って。目安としてのタイムが出れば、見た目がゆっくりでも「こいつ速かったんだ。」「速いスキーってこうなんだ。」ってお客さんも分かるし。
——丸山選手と武田選手のインタビューは後編に続きます!
<プロフィール>
丸山貴雄
白馬村スキークラブ
1978年11月21日生まれ
2019年 全日本スキー技術選手権大会男子総合 6位
SAJナショナルデモンストレーター
武田竜
ドラゴンワークス株式会社
1984年6月20日生まれ
2019年 全日本スキー技術選手権大会男子総合 1位
SAJナショナルデモンストレーター
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