女性騎手・藤田菜七子さん
#DESCENTE(デサント)

「競馬界のアイドル」藤田菜七子が内に秘める、勝利への飽くなき執念

「男性社会」の文化が色濃い競馬の世界。歴史的に見ても女性騎手は数えられる程度です。

そんななか、16年ぶりに誕生したJRA生え抜きの女性騎手として注目を集め、2018年にJRA女性最多勝利記録を樹立したのが藤田菜七子騎手。翌2019年には女性騎手としては史上2人目、JRA所属の女性騎手としては初のJRA重賞制覇を果たしました。

藤田騎手は騎手としての実績はさることながら、その端麗な容姿から「競馬界のアイドル」として取り上げられることも少なくありません。

しかしその一方で、藤田騎手本人は周りからのイメージに違和感を持っているよう。数少ない女性騎手として応援されることに感謝しつつも、1人の騎手としての姿も見て欲しいと語ります。

今回は、アスリートとしての藤田騎手のストイックな一面、勝負師としての一面を探るためインタビューを行いました。勝負に勝つために、日頃から意識していることは何なのか、どんな思いでレースに望んでいるのか語ってもらいました。

「勝つためにできる努力は全てやる」厳しいトレーニング以外に欠かさず行う準備

インタビューに答える藤田騎手

――男性ばかりの世界で勝つのは大変だと思いますが、普段からどのような想いでトレーニングに励んでいるのか教えてください。

競馬は18頭走るなかで、1位にならなければ勝てないシビアな世界です。日々のトレーニングはトレーナーが私のために考えてくれたメニューで、どれもキツイものばかりですが、過酷な勝負に勝つためだと思えば自然と頑張れます。

レースに負けたときは「次は勝ちたい」という想いが、勝てたときは「この練習のおかげで勝てた」という想いが日々のモチベーションになっていますね。

――「自分って負けず嫌いだな」と思い始めたのはいつ頃からでしょうか。

小さいときから「かわいい」より「かっこいい」が好きな子どもだったので、小さな頃から負けず嫌いだったんだと思います。小学校3年生のときに始めた空手でも、絶対に負けたくないという想いで練習をしていました。空手の練習も厳しいものでしたが、それ以上に勝ちたい気持ちが強かったから頑張ってこれたのだと思います。

――レースに勝つために、練習以外で行っていることがあれば教えてください。

馬の研究は徹底して行っています。木曜日に競馬新聞が発刊されて、どの馬でレースに出るか分かるので、それからレースに向けて自分が乗る馬がどんな馬なのか研究するんです。

レースでは必ずしも慣れた馬に乗れるわけではありません。レースの数十分前にパドックで初めて会った馬と走ることも珍しくなく、短い時間で1頭1頭違う馬のクセや特徴を把握し、心を通わせる必要があります。

そのためには、事前にその馬について知る努力が欠かせません。以前、その馬に乗ったことのある騎手や厩務員の方などに話を聞いて、どんな馬なのかイメージを固めていくんです。

もちろん騎手の感覚も一人ひとり違うので、実際に馬に乗ってみて聞いていた話と違うことも少なくありません。それでも勝つためにできる努力は、全てやってから勝負に臨みたいと思っています。

上手くいかないレースも、切り替えて反省して30分後のレースに活かしていく

藤田菜七子騎士

――尊敬している騎手について教えてください。

ニュージーランドのリサ・オールプレスさんという女性騎手です。彼女は出産してお母さんになった後もレースで勝ち続けた、とてもストイックで強い騎手です。レースのために来日した際にお話させてもらったのですが、トレーニング方法や馬との付き合い方はとても参考になりました。

彼女は馬のことを理解し、心を通わせることにとても力を入れていて、それが強さの根幹になっています。私も彼女の話を聞いてから、馬のことを研究して理解しようとする気持ちがとても強くなりました。

――彼女もとても勝ちに貪欲な方なのですね。

そうですね。日本とニュージーランドでは、競馬のシステムも違い、日本では週末しかレースが行われませんが、ニュージーランドでは平日でもレースが行われています。彼女は勝ち星を上げるために、国内の様々なレースに足を運んで結果を出してきました。

日本で同じことはできませんが、彼女の勝負に対する姿勢は見習いたいと思っています。

――藤田さんも負けず嫌いが故に、勝負に負けたときはとても悔しいと思うのですが、落ち込むこともありますか。

もちろんレースを続けていれば、上手くいかないことや「あのときこうしていれば勝てたのに」と思うことは何度もあります。しかし、30分後には次のレースが控えているので、気持ちを切り替えて次のレースに向かわなければいけません。失敗を振り返って次のレースに活かそうとは考えますが、落ち込んでいる暇はないですね。

しかし、今でこそ気持ちを切り替えて次のレースに臨めていますが、昔はそうでもありませんでした。鼻差で勝負が決まるシビアな世界なので、僅差で負けたときは悔しくて次のレースに引きずってしまったこともあります。何度もレースを繰り返すことで、少しずつ気持ちの切り替えも上手くできるようになってきました。

――レース当日はハードなスケジュールですね。勝負に集中するために行っていることがあれば教えてください。

意識して始めたことではないのですが、レースの日の朝は決まってうどんを食べています。レース当日はレースのことだけ考えていたいので、何を食べるか考えるのに時間や頭を使いたくないんです。普段は栄養バランスを考えて食事をとるようにしていますが、レースの日だけは余計なことを考えずにルーティンにしていますね。

実績と周囲の支えによって築き上げられた「揺るがない自信」

真剣な眼差しの藤田騎手

――デビュー前から注目を浴び、華々しい戦績を上げている藤田さんですが、馬に乗り始めてから挫折したことがあれば教えてください。

デビューしてから挫折したことはありませんが、馬に乗り始めたときは全然乗れなくて苦しんでいた時期もあります。「私はこのまま騎手になれないんじゃないか」と思うほど自信をなくして諦めかけていたのですが、両親からの励ましや、学校の先生たちのサポートのおかげで乗り越えられました。

当時の経験から、自分が周りに支えられていることを強く感じられたので、それからは挫折するほど落ち込むことはないですね。

――女性騎手ならでの苦労などもなかったのでしょうか。

女性が本当に珍しい世界なので、良くも悪くも目立ってしまいます。デビュー前から注目していただき、顔や名前を覚えてもらえるのは嬉しいのですが、その一方で落馬したなどネガティブなニュースも大体的に取り上げられてしまうのです。

デビュー当時は実績もなく、悪いニュースが目立ってプレッシャーに感じていた時期もありました。しかし、周りのサポートのおかげで徐々に勝ち星を重ねられるようになり、それが自信になって周りの声が気にならなくなってきましたね。

――レースやトレーニングの毎日で大変な日々を過ごしていると思いますが、心や身体を休ませるために行っていることはありますか。

最近始めたことなのですが、しっかりお風呂に浸かって身体を温めるようにしています。以前はシャワーで済ませることが多く、お湯に浸かるのは時間がもったいないと思っていたんです。

しかし、先日トレーナーさんと話しているときに、「身体を休ませたいならちゃんとお風呂に浸かったほうが良いよ」と言われて、ぬるめのお湯にゆっくり浸かるようになりました。身体を温めるようになって、疲れも残らなくなったように感じます。

――最後に座右の銘にしている言葉を教えてください。

「人事を尽くして天命を待つ」ですね。競馬は勝負の世界なので、どんな努力をしても運が味方してくれなければ勝利を掴めません。それでも勝つためにできることをしていなければ、運も味方してくれず、勝てる勝負も勝てないものです。できる努力はすべてしたうえで、最後は運に勝負を委ねるようにしています。

この記事を読んでくださっている方々も、それぞれの世界で戦われていることでしょう。戦う世界は違いますが、私も一緒に頑張っていきたいと思います。

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