デサント20-21年モデルスキーウェア 「滑りを美しく魅せるデザインの秘密」編

  • 2020/12/25 (金)
  • 2023/07/10 (月)

第57回の全日本スキー技術選手権大会は中止となってしまいましたが、デサントの選手が着用予定だったゲームウェアのデザインのポイントを、デサントのスキーウェア開発を支えるデザイナー近藤敏雄氏とパタンナー鈴木智香子氏に解説してもらいました。

トップ選手が着ることを意識して作られたウェアにはどんなこだわりが詰まっているのでしょうか。

(写真左:丸山貴雄選手、中央:武田竜選手、右:太谷敏也選手)
(ライター|デサント編集部、カメラマン|矢田部裕・村本万太郎)

滑りを美しく魅せるデザイン性のこだわり

基礎スキーは滑りの美しさを競う競技ですが、ウェアにも滑りを美しく魅せるための工夫が施されています。選手が着用予定だったウェアのデザインには、どのようなこだわりがあるのでしょうか。

――まず、丸山貴雄選手が着用予定だったものからお伺いします。

丸山貴雄選手

【スキー/SKI】S.I.Oインシュレーションジャケット/S.I.O INSULATED JACKET/TECHNICAL
【スキー/SKI】S.I.Oデモンストレータービブパンツ/S.I.O DEMONSTRATOR BIB PANTS

――ジャケットの袖先の色を切り替えているのには理由があるのですか?

近藤:滑走中の上体の構えは、滑りの印象に大きく影響を及ぼします。バランスの取れたスキーヤーの腕の構えは大きく、その腕の位置をしっかりと印象付けることがアピールにつながると考えています。その点を踏まえ選手との話し合いから生まれたのが袖先の視覚的効果でのアクセント。

鈴木:カラーブロックデザイン切り替えは、パターン上での機能を失わないように、ミニマムパターンでの必要最低限の立体処理に必要なダーツを生かしています。

――袖先の形も独特ですが、これにも何か効果があるのでしょうか?

近藤:袖口をラウンド形状に(甲部分を長く)している目的は、その腕の構えをより大きく印象付けるための工夫です。ストックワークのストレスにならないよう注意深く開発を進めました。

鈴木:袖先は、動きがあるのでラウンド形状維持が難しいんです。張りを持たせることで形を保てるようにしました。

――パンツの膝下の内側の色の切り替えの位置にもこだわりがあるのですか?

近藤:内股に切り替えを設けることで、ターン中に脚を長く見せる視覚的な効果を狙っています。ターンポジションを取ったときに重心位置から遠く離れた外脚と、曲げ動作で処理された内脚の切り替えラインがつながることを意識しました。

――形もすっきりとしていてとてもきれいですね、何か秘密があるのでしょうか?

鈴木:ビブパンツに関しては、3シーズン目のモデルになりますが、腰からもも、裾にかけての「S.I.O.」ミニマムパターンと胸部分の動きを一体化するパターンに悩みました。

このモデルの開発途中には、丸山選手がDISCへ来社された際に「胸から脚へつながる部分にほど良いゆとりを持たせて体の運動性を保ちつつ、一方で見た目はすっきりとしたものが良い」という直接コメントをいただきました。その実現のために、素材使いも合わせて工夫をしました。

脚の内側にオレンジの切り替えがあるウェアを着用している丸山貴雄選手

丸山貴雄選手。脚の内側にオレンジの切り替えがある。

――次に、太谷敏也選手が着用予定だったモデルについて教えてください。(※下記画像右のホワイトのウェア)

太谷敏也選手

画像右:S.I.O INSULATED JACKET/RISING
S.I.O INSULATED PANTS/RISING
画像左:【スキー/SKI】S.I.Oインシュレーションジャケット/S.I.O INSULATED JACKET/TECHNICAL
(前述の丸山選手着用ウェアの色違い)

――こちらのモデルのプリントは、何をイメージしたものですか?

近藤:特徴でもある斜傾ラインでのグラフィックパターンは、ブランドアイデア である「KEEP RISING TO THE NEXT CHALLENGE (越え続けろ、通過点を)」という、常に高みを目指して挑戦するデサントブランドの姿勢を表現しています。

デサントではブランドプレゼンス向上を目的に、スキー以外のスポーツカテゴリーのアイテムでもこのブランドアイデアであるグラフィックで統一展開しています。

――いくつかのカラーで左右で無地とプリントで切り替えています。ジャケットとパンツでプリントがあるサイドが違うことは何か理由がありますか?

片岡嵩弥選手

片岡嵩弥選手。

近藤:ジャケットとパンツでグラフィックパターンを交互に使用しているのは、あくまで視覚的バランスです。

アシンメトリー(非対称)デザインに関して説明をすると、本来、歪みのある非対称なものは 、不安感や違和感を感じます。 しかし非対称なものも意識的に対称性を持たせることで違和感が安定感に変わり、見る人の印象に残るものになるんです。心理効果的なものかな。

アシンメトリーのデザインで意識しているのは、アシンメトリーを目的にしないこと。目的をアシンメトリーにしてしまうと結果左右で着心地が違うものになってしまうんです。ゴルフなどの左右スタンスの違うスポーツではそれを機能に置き換えることができるけど、左右のバランスを意識するスキーにとっては致命的。

スキーでのアシンメトリーデザインは、本当に細心の注意が必要で難しいけどやりがいあるデザインです。

――最後に武田竜選手が着用予定だったモデルについてお聞きします。

武田竜選手

【スキー/SKI】S.I.Oインシュレーションジャケット/S.I.O INSULATED JACKET/FREESTYLE
【スキー/SKI】S.I.Oインシュレーションパンツ/S.I.O INSULATED PANTS/FREESTYLE

――パンツのもも上で色を切り替えていることの効果を教えてください。

近藤:ポジションを低く構えたとき、上体の前傾角度が必要になってきます。そのとき、パンツ上部の切り替え部分と、その下の部分との切り替えによる色の変化で、滑走ポジションをよりアグレッシブに見せることを狙っています。

――実は、野球のパンツの開発技術も使われていると聞いたのですが、そのノウハウはどこに使われているのでしょうか?

鈴木:武田選手のものだけではなく、丸山選手・太谷選手のものもそうなのですが、デサントの野球ウェア「ユニフィットパンツ」の開発の考え方を応用しています。

具体的には、生地の動きと、スキーをしているときの動きのどちらも最大限に活かすため、本当に必要なところにのみ縫い目を持ってきました。実際にはいていただければ、動きやすさを実感していただけると思います。

――ジャケットについても伺っていきます。デュアルジップの間にデザインが施されていますが、これはもともとあったものですか?

黄色のスキーウェアを着る武田竜選手

武田竜選手。デュアルジップの上部にブランドロゴ。

近藤:デュアルジップのパーツのグラフィックは、スイスアルパインチームとの開発MTGのなかで出た選手の表彰台やポートレート撮影の話がきっかけで取り入れました。

そのとき感じたのは、胸から上の画像が主で、顔に近い部分にロゴやブランド名がないと開発した製品がどこのブランドなのかも見る人に伝わらないということ。デュアルジップの機能の存在を伝えるためにも、この位置にグラフィックを配置しました。

結果、見る人の印象に残すことができたと思いますよ、この質問が出るくらいですからね。(笑)

――デュアルジップについても詳しく教えていただけますか?

近藤:外側のジッパーを使用することで胸まわりと裾まわりが1サイズ程度大きくなるというもので、こちらも同じくスイスアルパインチームやチームデサント、デモ選手との話からヒントを得た開発です。

基本的にスキーウェアのゆとりは、ありすぎてもなさすぎてもパフォーマンスに影響してしまいます。ですので、通常のウェアでは気温の低いハイシーズンに衣服内温度の調整のためにミドラーを着用すると、ゆとりがなくなってしまうんです。

でも、デュアルジップなら内側のジッパーを使うことで、ウェアのフィット感を少し大きめに調節できるのです。逆に暖かい時期は外側のシングルジップを使うことで薄着をしてもぴったりと着ることができます。

これも着用者のパフォーマンス向上を目的に、シーズン中、ウェアを長く着用してもらうための機能の一つです。

――20-21年モデルウェアのインタビューは後編に続きます!

<プロフィール>

左:近藤 敏雄

デサントジャパン株式会社
デサントマーケティング部門
ウィンタースポーツMD課
デザインディレクター

右:鈴木 智香子

デサントジャパン株式会社
DISC(R&D)・生産部門
企画開発部 製品開発課
パタンナー

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アイキャッチ デサント スキーヤー丸山貴雄選手・武田竜選手
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