ランナーが目指すべきはカンガルーの走り!?靴に頼らず足を鍛えるには

  • 2020/08/18 (火)
  • 2023/12/05 (火)

近年、厚底シューズがマラソン界を席巻しています。これらの長所として挙げられるのは、ソール部分が持つクッション性と反発力。しかし、クッション性や反発力は「シューズで補うより、足を鍛えて身に付ける」ことを薦める人も。

その一人が、Tsukuba Strides Running Clubでランニング指導をする半田佑之介さん。シューズに頼らず、足を鍛えてクッション性と反発力を生み出す秘訣を伺いました。

(ライター|有井太郎 カメラマン| 小田駿一)

シューズに頼りすぎず、自分の足を鍛えるべき

――シューズがランナーのクッション性や着地の反発力をサポートする傾向が強まっています。その点について、どうお考えでしょうか?

もちろんそういったアプローチは大切だと思います。しかし、本来クッション性や反発力、つまり地面を蹴り出す力は、シューズばかりに頼るのではなく、自分の足で行うのが理想だと思います。

だからこそ、そのためにトレーニングを行い、足のクッション性や反発力を高めていくべきではないでしょうか。

――なぜそう考えるのでしょうか?

ランナーが目指すべき走りがそこにあるからです。

言ってみれば、それはカンガルーの走りかもしれません。カンガルーは、歩くより走ったほうがエネルギー消費量は少ないと言われています。

なぜなら、走っている状態だと跳ねて移動するので、足が地面に接地する際、アキレス腱のバネがきちんと伸びます。その後、アキレス腱は縮もうとし、地面を蹴るキックが自動的に生まれます。

この動作はバネと同じで反射作用で生まれるもの。ほとんど筋力を使わないため、エネルギーが最小限で済みます。ランナーが目指す走りもこれと同様です。

消費エネルギーを最小限に抑える走り

インタビューに答えるランニングコーチ半田佑之介氏の写真

きちんと自身のアキレス腱、バネの伸縮を使った走りです。そのほうが消費エネルギーは少なく、蹴る力も最大限に活かせますから。

例えば、経験豊富なランナーとあまり運動しない方が1km移動した場合、ランナーのほうがエネルギー消費量は低くなります。

その理由はいくつか考えられますが、そのなかでも、ランナーはバネのような働きをしているアキレス腱を使い、そこで前に進む推進力をより得られるようになります。

――これらを踏まえて、なぜシューズのクッション性と反発に頼ってはいけないのでしょうか?

人間が本来持っているアキレス腱のバネ、そしてそこから生まれるクッション性と反発力には高いポテンシャルがあるのです。であれば、そのバネをきちんと普段から鍛えたほうが、最終的にランナーとしてのパフォーマンスが上がるはずです。

しかし、クッション性と反発力を強く補うシューズを普段から履いていると、この部分を靴に任せるため、足が鍛えられていきません。すると、たとえ一時的なパフォーマンスは上がっても、長期的にタイムが伸びるかは疑問が残るのです。

シューズを履き分けてクッション性を鍛える

シューズの履き分けについて語るランニングコーチ半田佑之介氏の写真

先ほど話したように、まず普段のトレーニングではクッション性や反発力の低いシューズを履くこと。たとえレースでクッション性の高いシューズを履く方でも、普段は違うものを履いて足の力を鍛えるべきです。そうして、アキレス腱のバネを使った走りを常日頃から行うと良いでしょう。

例えば、薄底のシューズを履いてトレーニングをすると、着地の筋疲労が重なって筋肉痛になるかもしれません。しかしそれが鍛錬にもなります。

――そのほか、効率的なトレーニングはあるのでしょうか?

1つ挙げられるのは、下り坂を走ることです。

足のクッション性を鍛えるということは、足に着地の衝撃がかかるシチュエーションを走るのが効果的です。私はトレイルランニングや傾斜走行が専門ですが、下り坂のほうが足にかかる負荷は強くなります。

通常、平地では体重の3倍の力が着地の衝撃で加わると言われますが、さらに傾斜5%ほどの下り坂なら1.2倍ほどその衝撃が増すと考えられます。下り坂を走って、負荷を上げることで足を鍛えるのはシンプルな方法です。

下り坂のフォームを見て、衝撃緩衝の走りを

走り方について語るランニングコーチ半田佑之介氏の写真

――足にかかる着地の衝撃、負荷を上げることで鍛えるのですね。

そうですね。フルマラソンなどになれば2時間以上足を地面に叩き続けるので、その衝撃に耐える、筋肉痛が発現(もしくは発生)しない足づくりが理想です。

また、筋肉を鍛えるだけでなく、そもそも衝撃の起きにくい走り方を身に付けることも重要。ここでも、下り坂の走りを上達させるのが近道です。着地の衝撃を最小限にし、足のクッション性を上げていく。それは、レース終盤まで蹴る力を保つことにつながります。

――具体的にはどんな走りをすれば良いのでしょうか?

ブレーキを過度にかけないことです。下り坂ではブレーキをかけすぎる人が多いので、着地の際にブレーキをかけないこと。足の踏ん張りもそうですし、重心を後ろに反らしすぎるのもダメです。

動画を見て平地の走りと比べながら、足の運びや重心の位置をなるべく平地と同じように修正するのが近道です。

<プロフィール>

ランニングコーチ半田佑之介氏のプロフィール写真

半田佑之介
ランニングコーチ

Tsukuba Strides Running Club 代表。國學院大學 陸上競技部主将。その後、福島県須賀川消防本部で8年間、レスキュー隊員、救急隊員を務める。同時に県代表として国体で入賞。その後退職し、筑波大学大学院博士前期課程終了(健康体力学ヘルスフィットコース)。専門はトレイルランニング、傾斜走行など。

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