デサント・ランニングシューズ

シューフィッターが考える、走りに大切な“接地感”を高める「履き分け」

  • 2020/09/02 (水)
  • 2023/12/05 (火)

ランナーの「相棒」であるランニングシューズ。しかし、ランニング愛好者のなかには、十分な知識や判断の基準を持たずランニングシューズを使っている人も多いようです。

そんななか、「大切なのは『接地感』を重視してシューズを使い分けること」と話すランニングシューズフィッティングアドバイザー・藤原岳久さんに、詳しいお話を伺いました。

(ライター|有井太郎 カメラマン|小田駿一)

足のセンサーからコンマ2秒で状態を把握する

――ランナーが考えるべき「接地感」とは、どのようなものでしょうか?

ランニング時、着地の際に足の裏から感じる感触のことです。接地時間や地面の反発、その反発が足の裏のどこにきているか。あるいは、どのポイントから着地してどこで蹴り出しているか。

最近よく議論されるフォアフット走法やヒールストライク走法も、着地の際の接地感をもとにランナーが調整しています。接地感は、いわば足の裏のセンサー。ランナーがパフォーマンスを上げるポイントになります。

――なぜポイントになるのでしょうか?

ランニングにおいて、一度に片方の足が着地する時間はおよそコンマ2~3秒。ランナーのレベルが上がるほど時間は短くなり、一流ランナーならコンマ2秒以内に収まってきます。

このわずかな時間の繰り返しがランニングであり、接地の瞬間、一瞬の足の感触から自分の状態や走りを見極めて調整します。

理想な走りをするためには接地感が頼り

インタビュー中のシューズフィッティングアドバイザー藤原氏

――自分の状態や走りを知るうえで重要と。

はい。走りとして理想的なのは、スピードに乗った状態で右足と左足がトン、トンと、一定のリズムで接地すること。そして、そのわずかな接地の瞬間に確実にグリップし、筋力を発揮する状態です。なるべく均等に、機械のように接地するのがベストで、そこに近付くための繊細な接地感が求められます。

――なるほど。

例えば、市民ランナーに「右足と左足のバランスが悪いですよ」と伝えると、「なんとなく右足が遅れてきている気がします」と言う方がいます。これは接地感からくる感覚。ランナーの方なら、何かしら接地感をもとに自分の走りの特徴や変化を感じているでしょう。

特にフルマラソンになれば、何時間も同じ動作が続くわけですから。そのなかで、足の裏から得る感触、接地感は異常の検知や自分の走りをジャッジするセンサーになります。

同じシューズを履き続けると接地感が弱くなる?

――その接地感とシューズ選びにはどんな関連があるのでしょうか?

ランナーは、普段から接地感を鍛えてセンサーを研ぎ澄ませなければいけません。しかし、同じタイプのシューズばかり履いていると、センサーに偏りが出てしまう可能性があります。

例えば、最近人気の厚底シューズの場合、クッション性は増すのですがその分フワッとした感触になり、どうしても接地感は弱くなる。

――それにより、センサーが鈍くなるということでしょうか?

そうですね。普段から接地の感触を得ずに走っていれば、センサーは衰えるでしょう。場合によっては、ケガをしやすくなることも。

サポートのあるシューズは、その安心感に委ねてしまって、自分の体が機能しなくなることがあります。それは一番のミステイクですよね。

クッション性がありつつ接地感を感じられるシューズがあれば理想的ですが、柔らかさと硬さという相反する2つの両立が必要になる。そこに難しさがあります。

センサーを研ぎ澄ませるためのシューズを持つ

シューズフィッティングアドバイザー藤原氏

――となると、どういったシューズ選びをすれば良いのでしょうか?

アスリートにせよ市民ランナーにせよ、定期的にセンサーを敏感にする期間を設けることです。つまり、1つのシューズだけを履くのではなく、例えば厚底でレースに出る方も、ある時期は薄底にして接地感を鍛えるべき。

甘いものを食べた後はしょっぱいものを食べて味覚を調整するように、違うタイプのシューズを履き分けるのが「接地感を最適化する」プロセスではないでしょうか。

――接地感を鍛えるためにシューズを履き分けるべきと。

そうですね。薄底のような接地感を得やすいシューズで定期的に研ぎ澄ますイメージです。薄底はクッションが弱くケガをしやすいという方もいますが、それは浅い議論。

実際は薄底によりセンサーを研ぎ澄ませ、体自体がクッションになるよう鍛えていく。それはケガ予防にもなります。

ほかのスポーツのように履き分けの習慣を付けよう

シューズフィッティングアドバイザー藤原岳久氏

――シューズを履き分けて接地感を鍛えるという意識は、まだランナーの方には弱いのでしょうか?

はい。特にランニングは、ほかの競技に比べて「履き分け」の文化が弱い。サッカーやバスケットはスパイクやバッシュに履き替えるのが普通ですが、ランニングは極端な話、普段履いているスニーカーでもできてしまう。特に市民ランナーの方は、履き替えをモチベートしてあげないとイメージしにくい方も多いんですね。

――そうなんですね。

ランナーのなかには、大会にいく道中からレース、帰路まで同じシューズを履いている人もいる。あるいは、シューズが消耗して靴底の一部分がすり減ってもそのまま履いている。これらは自らセンサーを狂わしていくのです。

――だからこそ、シューズを履き分けて定期的に接地感を鍛えることが重要だと。

接地感は、シューズとセットにすることでうまく鍛えられます。接地感を得やすいシューズを定期的に履いて、センサーを研ぎ澄ませる。すると、レースで別のシューズを履いても、足や体の状況をきちんとジャッジしながら走れると思います。

<プロフィール>

シューズフィッティングアドバイザー藤原岳久氏プロフィール

藤原岳久
シューズフィッティングアドバイザー

藤原商会代表。ナイキ・アシックス・ニューバランスなどで累計20年以上の販売経歴を持つ。その後、独立し現職。日本フットウエア技術協会理事、JAFTスポーツシューフィッターBasic/Adovance/Master講座講師も務める。47歳でフルマラソンの自己ベストを更新した。

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