1981年の第1回開催以来、40年以上の歴史を誇る「全日本実業団対抗女子駅伝競走大会(クイーンズ駅伝)」。
その名の通り実業団女子チームの日本一を決する大会として、多くの駅伝ファンから注目を集めています。
昨年(2020年)は大会新記録を叩き出した日本郵政グループ女子陸上部が優勝し、積水化学女子陸上競技部「セキスイフェアリーズ」は惜しくも2位という結果に終わりました。
2021年は11月28日に宮城県仙台市にて開催予定。
今回は、デサントが積水化学女子陸上競技部にサプライをしている経緯から、インタビューを実施。
昨年のリベンジに燃える積水化学女子陸上競技部の野口英盛監督と森智香子選手、野村蒼選手に大会前の意気込みとこれまでのトレーニングについて、また一般ランナーにもできるランニング(長距離・持久走)のノウハウについて話を伺いました。
野口英盛監督
大阪府出身。清風高等学校、順天堂大学スポーツ健康科学部卒業。その後富士通を経て、競技生活引退後、積水化学女子陸上競技部の監督に就任。
森智香子選手
長崎県出身。大東文化大学卒業後、2015年に入社。「声が大きくて、いつも笑っています」と本人が話す通り、チームを盛り上げるムードメーカー。趣味は映画鑑賞とゆっくり湯船につかること。
野村蒼選手
和歌山県出身。神島高校卒業後、2018年に入社。チームメイトからは、「みんなに好かれる癒やし系」と言われている。趣味はオフの日に電車に乗って都心を探索すること。
昨年の準優勝で見えた積水化学女子陸上競技部の課題。駅伝優勝に向けて行うべき練習とは
――昨年のクイーンズ駅伝は2位という惜しい結果で終わりましたが、チームとして、個人として、どのような思いで、どのような準備をされてきましたか?
野口:昨年は2位だったので、やはり今年は優勝を目標に掲げています。コロナ禍でなかなか会社にも行けない状況が続いていますが、出社した際に上層部の方にお会いすると「暗いニュースが多いので、なんとか陸上部が元気付けてほしい」と声をかけていただくことが多いですね。
気持ちを込めた走りで優勝を目指し、会社の方々に喜んでもらえたらうれしいですね。また、それが活力になって少しでも事業のプラスになればと思っています。
森:昨年の2位という結果は、積水化学女子陸上競技部として過去最高順位を更新できました。もちろんうれしかったのですが、やはり目標は優勝。もともと私が積水化学に入ったのも「クイーンズ駅伝の初優勝メンバーになりたい」という気持ちがあったから。
昨年悔しい思いをした分、今年は絶対優勝したいという気持ちを持って1年間過ごしてきました。この1年の取り組みをしっかりつなげて、今年こそは優勝したいと思っています。
野村:昨年は6区を走りましたが、やはり先輩方の力を借りて走りきれたという思いが強いです。チームとしては2位という結果でしたが、振り返ると自分の区間は力が足りていないと感じました。
この1年は自分をどれだけ底上げできるかをずっと考え、練習も「自分の走り次第で大会の結果が変わってくる」という思いで続けてきました。必ず優勝したいという気持ちがモチベーションになったからこそ、走ってこられたのだと思っています。
――野口監督は、駅伝の指導に関しては具体的にどのような指導に注力されていますか?また特に力を入れているトレーニングはありますか?
野口:駅伝は決して1人で走るわけではなく、6人で走ります。そういう意味では積水化学女子陸上競技部のメンバー11人全員に対して、「勝ちたい」という気持ちや「自分に与えられた役割のなかで何ができるか」ということを常に意識してほしいと指導をしています。
トレーニングに関しても特別なことをするのではなく、基本の積み重ねが一番大切。それぞれの選手が目標に向かって「今、何をしなくてはいけないのか」を自分で考えながら行っています。
例えば「自分はこうなりたいから、こんな練習をしよう」とか、「この力をもっと活かしていこう」と考えて練習することで、少しずつレベルも上がっていきます。
特に駅伝のメンバー候補の選手に関しては、1年を振り返るとこうした練習が継続できている。昨年からトレーニング方法が変わったということではなく、トレーニングの質が高くなってきています。
――そのあたりは、各選手を信頼して任せているということでしょうか?
野口:そうですね。練習メニューはいくつかに設定を分けてはいますが、最近ではもっと上のレベルで練習したがっているようにも見受けられます。
森:確かに、練習内容が昨年と比べて変わったということはありませんが、そのなかで一人ひとりが「今の自分に何が必要か」「大会に向けて何に取り組むべきか」を常に考えています。
走る本数も言われた本数だけではなく、体調に合わせて調整したり、監督と相談しつつ自分で選択したりすることが増えました。それは私だけではなく、チームメイトも同様に感じているのではないでしょうか。
――今年のチームの特徴について教えてください。
森:今年は特にまとまって練習できる機会が多かったので、チーム全体に「みんなが頑張っているから、自分も頑張ろう」という雰囲気があります。また同じ練習をしているメンバーが大会で結果を出すことで、「私もきっと結果を出せる」と感じられるムードも醸成できてきました。
野村:私も「自分がもしもダメになってしまったら、みんなで励まし合えるこの雰囲気が崩れてしまう…」と考えるようになりました。また、この1年は「駅伝の自分の区間で結果を出してチームに貢献したい」という気持ちが大きくなって、そこは昨年の自分とは違う部分だと感じています。
――“目標の輪郭”がよりくっきりしたということですね。
森:そうですね。昨年負けたことで逆に何が足りないのかが分かり、課題が見えました。前半を走った3人の選手以外をもっと底上げしないといけないし、もっと選手の選択肢が増えるような、お互いに切磋琢磨するチーム作りができると良いと思っています。
――監督も、選手の変化や成長を顕著に感じられますか?
野口:自己ベストが多く出たことに関してはそう感じています。ただやはり相手はかなり強いので、優勝に関してはどこまでいっても未知数。
昨年の「クイーンズ駅伝」では積水化学の5区、6区の選手が相手チームの選手と2分30秒ほど差をつけられました。じゃあその2分30秒をどう埋めるかと考えた場合、トップランナーにその課題を上乗せしても難しいでしょう。
であれば、まだ伸びしろのある選手たちが「どのくらいタイムを縮められるか」ということに重点を置いて練習を実施しました。その結果、森選手や野村選手もそうですが、自己ベストの更新率はかなり高くなりました。
各区間でそれぞれの役割を果たし、積水化学女子陸上競技部の力を出し切る走りへ
――今年の「クイーンズ駅伝」で、積水化学のライバルとなるのはどのチームでしょうか?また、傾向や対策は考えていますか?
野口:やはり一番の注目は、昨年優勝した日本郵政グループ女子陸上部さんだと思います。また予選会を1位で通過した資生堂ランニングクラブさんもまだ1人、2人くらいは選手を変えてきそうな感じはします。
我々も昨年はそうでしたが、予選会を優勝するとチームの雰囲気はすごく盛り上がりますので、資生堂ランニングクラブさんは勢いに乗ってレースに臨んでくると思います。
ほかにもいろいろ強いチームがあるので、やはり各チームのオーダーリストを見てみないと分からない。合宿先がかぶるのでほかのチームの雰囲気を見ることもありますが、自信を持っている選手は自分から挨拶に来ますし、控えめにされていると何かあるのかなとは感じます。
森:私も知り合いがいるチームから話を聞くこともありますが、今はコロナ禍でなかなか会えないので話せていません。この前の予選会や、試合の結果を見ながら「このチームはどういう感じなのだろう」と考えることはあります。
ほかのチームのことも大事ですが、それよりも自分たちが6区間でそれぞれの役割を果たして力を出し切れば結果は出るでしょう。今はとにかく、自分たちのすべきことに取り組んでいます。
野口:駅伝の区間オーダーに関しては、周囲も大筋の予想はしているとは思います。勝ちを取りにいくオーダーにするのか、ある程度先手を取って走るのかというところを、今後の練習や選手の調子を見ながら調整していきたいですね。
――今年の「クイーンズ駅伝」へ向けて、改めて意気込みを教えてください。
森:昨年の大会から1年間、優勝を目指して取り組んできました。チームとして初優勝を目標に頑張っていきたいと思います。
野村:積水化学女子陸上競技部という実業団チームに入って「クイーンズ駅伝」を走ることは、私にとって憧れでした。レースはテレビでも放映されるので、普段駅伝を見ない方にも走る感動を伝えたいです。
駅伝は自分1人の力だけではなく、仲間がいるから普段とは違う力が出る。そういった意気込みを伝えられる走りをしたいですね。
心が動き、自ら選択して結果へつなぐ、積水化学女子陸上競技部のスタイル
――デサントのブランドコンセプトは「Design that moves ―あなたを動かすすべてになる―」です。みなさんの“心が動いた瞬間”を聞かせてください。
森:4月からのトラックシーズンは序盤から良い練習ができたものの、大会では思うような結果につながらず…。モヤモヤとした心境のなかで、5月には新国立競技場で開催された大会で3000mSC(障害)への出場が控えていました。
本来ならその大会に合わせて調整するはずでしたが、今年度は「5000mでタイムを作りたい」という目標を立てていました。そこで監督にお願いし、前日に行われる「日本体育大学長距離競技会」に5000mで出場させてもらうことに。
「とりあえず15分台を出せたら」という気持ちでレースに臨んだ結果、自己ベストを出すことができ、それまでのモヤモヤが晴れて自信につながりました。
次の日の大会の3000mSC(障害)も連戦ではありましたが、前日の調子をつなぎ、4年ぶりの9分台という好タイム。自分でレースを選択して挑み、良い結果が出せたことが今年の一番大きなポイントですね。
野村:昨年の12月に「日本陸上競技選手権大会・長距離種目」があり、佐藤早也伽選手と新谷仁美選手が10000mの種目で走る姿を見ました。
私がその2日後に出場した「日本体育大学長距離競技会」3000mの記録が2人の(3000m時点の)通過タイムと同じくらいだったので、「3000mならいける」という自信につながりました。
先輩方の走りを見て、少しずつ心が勇気付けられて「先輩がそのくらいで走れるのなら、自分ももっと挑戦してみたい」という気持ちに。自分もできると思い込ませて走るようになってからは、練習もさらに挑戦するようになり、頑張ろうと思う気持ちになりましたね。
――所属する部署や、ほかの部署の方から寄せ書きが届いたと聞きました。
森:メッセージは匿名や名前入りなどいろいろな方からいただきました。もちろん、全部読ませていただきました。直接本人からは聞けないけれど、文章として気持ちが届いてうれしかったです。会社として、たくさんの人が応援してくださっていることを感じられました。
持久走のコツは?走る目的を持つこととストレッチを行うこと
――ここからは定期的にランニングをしている方に向けて、例えば息切れしない方法や疲れない方法など、ランニング(持久走)のコツをお聞かせください。
野口:今はさまざまな情報があふれていますが、 プロを目指しているわけではないのであれば、「まずは気軽にランニングをやってみる」とか、「朝早く起きて走ろう」というくらいの気持ちで始めてもらえればと思います。
早い段階でプロのような走り方を目指す人もいますが、第一に「なぜ走りたいと思っているのか」を考えることが大切です。
例えばダイエット目的であれば、多少腕振りが悪くても、続けることを優先に考える。つまり、「走りたいと思ったきっかけ」を忘れないということです。
今はかわいいウェアがたくさんありますし、高機能なシューズを履いて走ってみたいなど、ランニングするきっかけはたくさんあるのではないでしょうか。
速く走るよりも、「ウェアをかわいく着てみんなで走ろう!」などポジティブな気持ちを続けることが大事だと思いますよ。
また楽しく走るなら、何か目標を決めて走ってはどうでしょうか。「マラソン大会に出てみたい」とか、「仲間を集めて練習した後はお茶を楽しむ」とか、最初の動機は何でも良いです。
その後、「もっと頑張りたい!」と感じることができたなら、ランニングの動画などを見て本格的に学ぶと良いでしょう。
森:自分たちもずっと何かポイントを意識し続けながら走るということはなく、それぞれのフォームや走り方を最大限に活かせるように日々トレーニングしています。
普段あまり運動しない人がずっと何かを意識しながら走るのはとても大変なことなので、リラックスして走れるのが一番良いと思います。
例えば、足を楽に動かすためには上半身が大事なので、上半身を柔らかくするような肩まわりや背中まわりのストレッチ、歩幅を広く調整するなど。さらに、股関節のまわりをストレッチするだけでも効果的です。
楽しく長く継続していくことが大切だと思うので、ケガ予防のためにもストレッチから始めることをおすすめします。
――ケガをしないためのポイントについてお聞かせください。また走った後のケア方法や休息法について意識されていることはございますか?
野村:私はお尻まわりが張りやすいので、ポールを使ってほぐしてからストレッチしています。また、その日のうちにできるだけ疲労を取って寝るようにしています。
野口:ケガをしないためのポイントは、「無理をしないこと」ですね。ランニングをやり出すと最初から5km、10kmと距離を走る人がいますが、やはり段階を踏んでやらないといけません。
初心者がランニングを嫌がる原因は「最初に走ってきつかったから。足が痛くなったから。」ということが多いので、段階的に距離を伸ばすことが大切。短距離とは違い、長距離は続けることで必ず速く走れるようになると思います。
長距離走のコツはマインドセットにあり。「クイーンズ駅伝」に向けて一丸となる積水化学女子陸上競技部
11月28日の「クイーンズ駅伝」に向けて、チーム一丸となって優勝を目指す積水化学女子陸上競技部。
一般人でも取り入れられる持久走のアドバイスを聞くと、「楽しく走る」「目標を持つ」「無理をしない」など、マインドセットの重要性を中心に語っていただけました。
まず走る目的を持つこと、そして初心者のうちから無理をしないことが大切。「継続すること」が速く走るようになれる近道だそうです。
今回のインタビューからも、野口監督・森選手・野村選手の陸上に対する前向きな心が伝わってきました。日々ランニングを習慣にするみなさんも、さっそく明日から取り入れてみてはいかがでしょうか。