外側が高くなるように傾斜した周回コースを、ブレーキも変速ギアもないバイク(自転車)で走行する「自転車トラック競技」。
1対1の駆け引きが見どころの「スプリント」、4人1組でチームワークを発揮する「チームパシュート」、1日に4つのレースを行い合計得点で順位を競う「オムニアム」などさまざまな種目があります。
今回、自転車トラック観戦初心者の“素朴な疑問”に答えてくれたのは、元競輪選手で、京都産業大学 自転車競技部のコーチを務める山岸正教さん。
レースをはじめ、道具、練習方法などに関する内容までを一問一答でお届けします。
山岸正教(やまぎしまさのり)
1973年7月1日生まれ、京都府出身。高校・大学と自転車競技部に所属しトラック競技中心に活動、大学卒業後より13年間競輪選手として走る。競輪選手引退後、自転車競技(トラック競技)の普及を目指し関西地区でシリーズ戦となる“関西トラックフェスタ”を開催。また、競輪選手時代より母校である京都産業大学にてコーチとしても活動を続ける。2017年より「競輪場を自転車競技の発信拠点へ」と掲げる株式会社JPFに勤務し、自転車競技の普及イベントから競技イベントなどに関わる。
公益財団法人 日本スポーツ協会 公認コーチ(自転車)
公益財団法人 日本自転車競技連盟 公認審判員2級
まずはこの3問!
Q1.走行スピードはMAX何km?空気抵抗は感じる?
60〜70kmほど出ます。トップスプリンターになると70kmを超えることもあります。先頭を走るとかなりの空気抵抗がありますね。
Q2.空気抵抗を受けるかどうか(先頭か後続か)で、走りのパフォーマンスはどれほど変わる?
先頭と後続では「向かい風」と「追い風」のなかを走るぐらい差があります。人の後ろを走ると前の選手に吸い込まれる感覚があります。
Q3.速いスピードで走行するなかで、前の選手との距離をどう保っている?
前輪前端から後輪後端までは自分の体の一部なので、特に意識はしていません。人混みのなかで人とぶつからず歩くのと同じです。同じ方向に進んでいる分、自転車トラックのほうがまだ簡単です(笑)。
種目別Q&A「スプリント」
予選の200mフライングタイムトライアル(コースを周回し、最後の200mのタイムを測定)で上位に入った選手が、1対1トーナメント形式の本戦に進出する。スタートからただ速く走るわけではなく、相手の様子を見ながら行く手を阻んだり、意表を突いて一気にスピードを上げたりと、1対1で相手に勝つための走り方が特徴。
Q4.1対1の駆け引きに目が離せないスプリント、スピードアップや行く手を阻むなど、「このタイミングでこれを仕掛けよう」という作戦は事前に考えている?
「最終的にこういう形に持ち込みたい」というイメージを事前に固め、そのためにゴールから逆算し、「どのポイントではどういった形になっていたら良いのか?」を考えておきます。
Q5.対戦相手の戦法やクセは研究している?
もちろんします。「持久力タイプ」なのか「ダッシュ力タイプ」なのかは当然として、ダッシュする際にハンドルを握り直したりするようなクセがあるなら分かりやすいですね。強い選手はそういったクセ自体を出さないように練習してきます。
Q6.「●●なタイプの選手は▲▲なタイプの選手に有利」といった傾向はある?
タイプが異なってもハロンタイム(200mごとの所要タイム)が同程度であれば、タイプによる有利・不利はないと思います。
Q7.走路上を外に上がったり内に下がったりするのはどうして?
走路の真ん中を走っていると、相手選手が“仕掛けられる”コースが内側と外側の2コースになってしまうので、どちらかのコースを潰すために走路を上がったり下がったりしているんです。
上がればダッシュする際に下りを使えるのですが、ゴールまでの距離は長くなります。逆に走路の下を走ると加速はしづらいですが、ゴールまでの距離は短くなります。
前方選手は後方選手を視界に入れておくために、後方選手は前方選手の死角に入るために走路上を上下します。
Q8.スプリントが得意な選手は心理ゲームも強かったりする?
ポーカーフェイスは得意かもしれないですね(笑)。しんどくても対戦相手に悟られないように平然を装ってます。
種目別Q&A「チームスプリント」
1チーム3人(男子)または1チーム2人(女子)で縦に並んで走行し、各選手が1周ずつチームの先頭を走る。先頭で1周走った選手はコースから離脱し、周回ごとに走者が減っていく。最後に残った走者のフィニッシュタイムで順位を決定する。
Q9.チームスプリントで走る順番はどのように決めている?
レースはとにかくいかに早く“最高速に乗せられるか”が勝負なので、第1走はゼロスピードからの高い加速力、第3走は受けたスピードを落とさない持久力がある選手。そして、第2走はその両方のスキルを持ち合わせた選手が務めます。
Q10.先頭が速すぎて第2走、第3走が置いて行かれることはある?
ありますね。そうならないよう、お互いの加速力を理解して連携を切らないように練習を積みます。
種目別Q&A「ケイリン」
日本の「競輪」が発祥の種目で、7人までの選手が一斉に走り順位を競う。スタート時から選手の前をペーサー(誘導員)が走行し、フィニッシュ前750mに近い距離で退避。その後、選手だけのスプリント競走で順位を競う。
Q11.日本発祥のケイリン、「競輪」とは別モノ?
「競輪」では相手選手への“ブロック(体当たり)”が認められており、道具の差をなくすために自転車は鉄フレームにスポーク車輪しか使えません。この点が「ケイリン」との大きな違いです。
Q12.途中まで先導するペースメーカーの走り方によって戦術は変わる?
ペースメーカーの走行タイムにも規定があるので、そこまで変わることはないですが、自分を含めて選手の並び順で戦術は変わります。
Q13.ペースメーカーが退避するまでの駆け引きは、勝ち・負けに影響する?
スタートでペースメーカーの後ろに並ぶ順はスタート前のくじ引きで決まるのですが、その後の位置取り次第では、勝負所で後方に取り残されてしまうこともあります。そのため、ペースメーカー退避までの駆け引きはかなり重要です。
Q14.ほかの選手との距離が近くても怖くないの?
それはまったくないです。横に選手がいると気になってしまう選手はいますが、その場合は先行するしかないですね。
種目別Q&A「マディソン」
50km、25kmなどの長距離を、2人1組のペアで交代しながら1人ずつ走行する。待機しているペア選手の体に触れることで交代することが可能。交代時、手を引いて放したり(ハンドスリング)、腰を押したりして待機中の選手を加速させる。
Q15.交代する味方選手の手をつかんで加速させる「ハンドスリング」、選手ごとにクセがあったりする?
いろいろな選手を見ていると「縦投げ」と「横投げ」がありますね。あと、フォロースルーがとてもきれいな選手とか…。
Q16.ハンドスリングはどのように練習する?
これは実際にやるしかないですね。まずは自転車の乗車バランスが良いことが前提になります。周回練習をしながら、まずはゆっくりハンドスリングを実践するところからやっていきます。
種目別Q&A「チームパシュート」
4人1組の2チームがトラックの両側からスタートし、相手チームに追い付くか、より速いタイムを記録したチームが勝利する。走りながら4人の順番を入れ替え、先頭の選手は空気抵抗を受けながら後ろの3人をリードする。
Q17.4人の息を合わせるのは難しそうなチームパシュート、順番の入れ替わりのタイミングはどのように決めている?
走る前におよそのタイミングは決まっています。しかし、チームのペースを落としてしまうようであれば、予定外のタイミングで交代する場合もあります。
種目別Q&A「オムニアム」
自転車トラック競技の複合種目で、1日に行う4種目の合計得点で順位を競う。中長距離を走り順位を競う「スクラッチ」、周回ごとに先頭の選手にポイントが付与され、その合計ポイント数で競う「テンポレース」、一定の距離ごとに最後尾の選手が脱落していく「エリミネーション」、30kmや25kmの長距離を走り、周回ごとに上位通過者に付与されるポイントで順位を競う「ポイントレース」の4種目。
Q18.自転車トラックにおける“トライアスロン”のような競技に感じられますが、やっぱり器用に何でもこなせる選手がこの種目に挑戦するの?
まずは体力、そして体力、最後に体力が必要です。
1日に“1種目でもハードな種目”を4種目行うのですから、種目間の回復力は非常に重要となります。さらに、4種目をトータルで考えられる頭脳が要求されますね。
そのほかの気になる4問!
Q19.各選手、自分の種目の適正をどのように決めている?
最初はいろいろな種目を経験して、そのなかから自然と…という感じですね。ただやっぱり、適正がある種目は好きになると思います。
Q20.トラック競技を始めるきっかけとして多いものは?
いきなりトラック競技に入る人は少ないと思います。まずはロード競技から入って、あるとき、トラック競技の存在を知るといった感じでしょうか…。
Q21.日常生活でも自転車に乗る? 逆に違和感があったりするの?
いわゆるママチャリに乗るとフレーム部分の剛性のなさが怖いです。ブルブルしちゃいます(笑)。ロードバイクも乗るので、ブレーキの有無は気になりません。
Q22.最後に、山岸さんの思うトラック競技の魅力とは?
トラック競技で使われるピスト車は、自転車が進化する過程で発明されたフリーギア(ペダルを止めても車輪が回る)、変速システム、ブレーキなどを排除したシンプルな構造で、トラック競技は自転車競技の原点とも言える競技です。
人力だけでこんなスピードを出せるのか?ということも魅力ですが、自転車のセッティングやギア比などのノウハウ・戦術で身体能力の差をカバーできるところもおもしろいと思います。
25年以上にわたり、国内外の代表チームや選手の競技用ウェアを作り続けてきた職人がいる。デサントで「パタンナー」としてウェア開発に携わってきた田中悌二さんだ。パタンナーとは、ウェアの「型」を作る役割。年々、競技レベルが上がり、0.01秒が“[…]
