UMBROから、サッカースパイクACCERATOR(アクセレイター)の最新モデルが発売される。
近年のフットボールのトレンドに対応し、パスサッカーにおいて最も使用頻度の高いインサイドでの「止める・蹴る」を徹底追究。デサントの技術の粋を結集した最新鋭モデルだ。
デザイナーの山本氏に今回の製品のコンセプト、プロダクトに込めた思いを伺った。
(取材・文/福田悠、撮影/森カズシゲ)
緻密な組織的サッカーの時代。目指したのは“顔の上がるスパイク”
この10年余りで、フットボールのトレンドは大きく変化した。2010年にスペイン代表がワールドカップを制した頃からパスサッカーを標榜するチームが世界的にさらに増え、戦術も加速度的に進化。
精緻を極めた現代サッカーにおいては、1人のスーパーな選手がドリブルで何人も交わしてゴールを陥れるようなシーンは随分と少なくなった。
スタープレイヤーをそろえれば勝てる時代は終わり、味方同士で緻密に連携する組織的なサッカーの時代にシフトしたと見て良いだろう。
そこで重要になるのが、サッカーの基本中の基本である「止める・蹴る」の技術だ。高度な連携も、大前提としてトラップとキックが安定しないことには実現できない。
最新のアクセレイターは、そこに徹底的に特化したスパイクなのだ。
「試合中、最も使用頻度が高い足の内側(インサイド)に強いグリップ力を生むパーツを採用しました。このテクノロジー(UMBRO GRIP TECHNOLOGY)が今回のモデルの最大の特徴です。
ボールとシューズがグッとグリップすることで、ちょっとしたボールタッチでも気持ちの良い場所に収まる、絶妙なタッチ感を得てもらうことを理想として開発しました。」
UMBRO契約選手でもある、遠藤保仁(ジュビロ磐田)や柴崎岳(CDレガネス)ら中盤の選手には特に言えることだが、現代サッカーではとにかくスペースと時間が与えられていない。
ファーストタッチが自分の置きたい場所と少しでもズレてしまうと次のプレーが遅れ、たちまち相手DFに寄せられてしまう。僅かな時間のなかで最適なプレーを選択するにはまず「置きたい場所に置く」のはマストだ。
だからこそ、使用頻度の高いインサイドの感覚を重要視する選手は多い。
「サッカー選手たちの足のインサイドのスイートスポット(ボールタッチするのに最適なポイント)は神経が非常に発達しています。そのインサイドの感触から、よりボールの情報を受け取ってもらいたいと考えました。
中盤で足元ばかりを見ていられない現代サッカーにおいて、いかに視野を広く持ってプレーできるかは非常に重要です。ボールコントロールの感度を高め、ファーストタッチの精度を上げることで“顔が上がるスパイク”を目指しました。」
2つのロゴを剥ぎ取ってまで追求したSUPPORT YOUR INSIDE
山本氏の話を伺いながら、最新モデルの現物を見せてもらった。パッと見で目に付くのは、やはりそのデザインの斬新さだ。
インサイドに今回のモデルの肝であるグリップパーツを採用したため、従来のモデルのほとんどに付いていた内側のUMBROマークは排除。おなじみのひし形のロゴはアウトサイドとシュータンのみにあしらわれている。
言うまでもなく、メーカーにとってロゴの存在は非常に重要だ。仮にシューズに「UMBRO」の文字がなかったとしても、二重のダイヤモンドマークを見れば多くのサッカーファンはそれがUMBROの製品だと気付けてしまう。ブランドの顔とも言える重要な存在なのだ。
今回のアクセレイターでは、その大きなロゴを(あえて強い言葉で言えば)剥ぎ取ってまでインサイドのグリップ性を優先させた。ここに開発チームの強いこだわりが見て取れる。
「選手たちはたくさんのスポンサーを背負って戦っていますが、実はいわゆる“仕事道具”として試合中に身に付けているのはシューズだけなんですよね。
それであればやはり、“自分はこの靴を履くことでミスがなくなるんだ”と思ってもらえるくらい信頼されるギアを目指したかったんです。
今回の大きなコンセプトに『SUPPORT YOUR INSIDE』という言葉があります。このINSIDEには二重の意味があって、1つはもちろん足のインサイド。そしてもう1つは、選手たちを内面(INSIDE)からもこのプロダクトで支えられたら、という思いが込められています。
選手たちをはじめとするユーザーや、サッカーファンの皆さんに慣れ親しんでいただいているロゴはもちろん大事ですが、それ以上に、やはりメーカーとしてより競技に集中できるシューズを届けたい。自身の最高のパフォーマンスを発揮してもらいたい。そういった考えの下に、UMBROのロゴを(両足合わせて)2ヶ所削るという決断に至りました。」
数mmのモデルチェンジに込められた葛藤
もう1つ、最新モデルのアクセレイターは大きな仕様変更を行った。ヒール部分のパーツの形状を変更。履き口まわりをやや深く設計することで、くるぶし外側への足当たりを軽減。ソフトな足入れ感を実現した。
「ユーザーの皆さんのフィードバックのなかで、くるぶしまわりの当たりを気にされる人が多かったんです。足を使う競技である以上、足を入れた際のストレスは極力軽減したいと思い、今回の形状に行き着きました。」
“履き口が低くなった”といっても、僅か数mm下がっただけの話。素人考えでは簡単な改良のようにも思えてしまうが、実際にはこのモデルチェンジがいばらの道だった。
「これまでの型を流用してくるぶしまわりだけ少し下げれば済む、というのであれば楽だったのですが、それだと靴全体のバランスが崩れてしまうんですね。かかとまわりや全体を1から作り直さなければならず、その作業に相当苦労しました。
数mm単位での微調整を繰り返し、試作品を作っては捨て、作っては捨ての繰り返し。一時は“もう完成しないんじゃないか”とすら思いました。
一緒に開発してきた企画担当者とは、他部門の担当も巻き込んで大いにもめましたね(笑)。ただ、ユーザーの皆さんのもとへ何度も足を運び、ご意見を直接聞いたり、足型の写真を集めたりと、熱意をもってフィードバックしてくれるのも同じ企画担当者だったので……。
デザイナーとしてしびれましたね。絶対に良いものにしようと。実際、そのときの膨大な資料は製品のあらゆる部分に活かされています。」
今回のアクセレイターの開発期間は約2年。大胆なモデルチェンジだったこともあり、開発は困難を極めた。作ってはボツになり、振り出しに戻される日々。気付けばサンプル品の山だけが大きくなっていった。
「最初のブレスト(集まってのアイデア出し)はすごく楽しかったんですけどね。“良いですね!そのコンセプトで行きましょう!くるぶしも深くしましょう”と盛り上がって(笑)。
その後の2年間は本当に大変でしたが、何度もフィードバックを出してくださった遠藤選手や柴崎選手、度重なる仕様変更にも根気良く付き合ってくださった工場の皆さんらのご協力もあって、何とか完成にこぎ着けることができました。
自信を持っておすすめできるスパイクに仕上がっていますので、本気でサッカーに取り組んでいる方にこそぜひ履いてみていただきたいと思います。」
関わった多くの人々の熱意と、デサントの技術の粋を尽くした最新アクセレイター。ぜひ一度試してみてはいかがだろうか。
<プロフィール>
山本文也(やまもと・ふみや)
日本大学芸術学部出身。中学時代はサッカー部に所属。2019年よりUMBROマーケテイング部のフットウェアデザイナーとして参画。デザインにおいて最も大切にしていることは「ユニーク」なこと。
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