水沢ダウンの愛用歴は早4年という山口一郎さんに、その魅力や服へのこだわりを伺いました。
また、自身のプロジェクト「NF」で手掛けるコラボレーションに対する思いや価値観には、考える音楽とファッションの関係性や未来について大きなヒントが詰まっています。
Photo:Tohru Yuasa
Interview&Text:Masayuki Ozawa[MANUSKRIPT]
――山口さんが初めて水沢ダウンを知ったのはいつですか?
4年くらい前ですね。いつもヘアメイクをしてくれる根本亜沙美さんから教えてもらい、彼女が着ていた「マウンテニア」を僕も購入しました。最初はSで良いかなと思って買ったのですが、フィット感に納得いかずにMを買い直してしまいました。
あとは、Mame Kurogouchiがコラボしていたりとか、自分の周りがつながっているのを知って、どんどん好きになりました。今では水沢ダウンを着ると、冬が始まったなと思います。
細かいですが、僕は「マウンテニア」の好きなポイントがフードなんです。この形が自分にとって心地良いかどうかはすごく重要。これは中に収納できるからかぶっていないときの収まりが良くて、フォルムがすごく好きです。
そしてポケットの高さもちょうど良い。あとは身頃のシェイプ感が、日本人にすごく合っている気がします。
インポートで良いなと思うダウンももちろんありますが、日本人が着るとしっくりこないと感じるポイントが水沢ダウンは全部クリアされていて手放せません。
冬の全国ツアーのときは、必ず一緒です。次第に(サカナクションの)メンバーやスタッフもみんな着るようになって。楽屋で誰の水沢ダウンなのか分からなくなるくらいです。
――山口さんは、気に入ったものは着続けるタイプですか?
良いものに出会えていなかった若い頃はいろいろな服を手にしてきたし、今でもトレンドに合わせて服を選ぶことも大切だと思いますが、30代後半になってから出会った「これ」というものとは長い付き合いになりました。
特に、コンセプトをちゃんと持った“質量”のあるブランドにひかれます。それがないとその瞬間に好きでも次の年に着なくなってしまう。
ファッションだけでなく、音楽やインテリアも同じです。自分が好きなものは、“質量”があります。でも、定番をアップデートするデサントのチャレンジ精神も好きで、結局毎シーズン手に入れてしまいます。
今年は、この「ストレイタム」にひかれています。ダウンとシェルがレイヤードになっていて、すごくバランスが良いし、どちらか1枚で着ても良い。究極的な2in1ですよね。
ここデサント ブラン代官山店は年に5〜6回は来ています。お店の雰囲気も好きで、音の反響が良いんですよ。ここの床がコンクリートで奥が木だから、音の鳴りに違いがあって、心地良い緊張感があります。
――今日着ているダウンについて教えてください。
これは、水沢ダウン誕生10周年のアニバーサリーで発売された「マウンテニア」で、ウルトラスエードという素材を使っています。
最初にウェブで存在を知り、すぐに欲しくなってスタイリストの三田真一さんに頼んだら「もう押さえてます」って(笑)。これに関しては、機能というよりも水沢ダウンなのにスエードという違和感が気に入りました。
僕は、好きなものを判断する基準の一つに、違和感をすごく大事にしているんです。
例えば、ジャズのピアニストの両親のもとで育ったヒップホップ好きの子どもが、ニュージャズというジャンルを生み出したように、混ざり合わないはずのものが混ぜ合わさったときに良い違和感が生まれるんだと思っています。
あのしょっぱいのか甘いのか分からない、チョコレートがかかったポテトチップスだって、ある意味そうじゃないかな。
ウルトラスエードのマウンテニアから感じる違和感は、機能とデザインが結び付いているので、ずっと着たくなるんだと思います。
――長く着られる基準に、世の中における定番とか名品とかを意識しますか?
定番かどうかを判断して服を選ぶことはありませんが、このコロナ禍で1シーズン前の服だから着ない、という感覚は薄まりました。
音楽でもサブスクリプションサービスによって、良い曲であれば古い曲も新曲のような感覚で聴くことができるようになったのと同じように、良い服であればいつでも着たいし、3年前の服を最新の服と合わせる発想が、世の中全体に生まれた気がします。
――好きな服の条件に「違和感」を挙げてくださいましたが、では良い服の条件とは何かありますか?
生産国などの良し悪しは詳しくないので分かりませんが、岩手の工場で作っている水沢ダウンに関しては、日本で日本人のために作っているシンプルな事実に安心します。
やはり日本人に必要な機能やフィットは、日本で暮らす人が一番よく理解しているはずだから。
サステナブルという言葉が多方面で使われ、いろいろな意味を持っていますが、環境に優しくて品質の高いものが、日本の文化としてどう扱われて残っていくのかも気になっています。
――品質の高い服を、若い世代に向けておすすめできるポイントはありますか?
ダウンって正直、高い服じゃないですか。ブランドの価値が加わると、機能に関係なくさらに高くなる。水沢ダウンだってもちろんその一つだと思う。
でも、この僕の「マウンテニア」は今年で3年目だし、ずっと着られる服はやっぱり魅力的だし、大事なことだと思う。
友人にプレゼントすれば、捨てたり売ったりせずに(笑)ずっと着てくれる。その瞬間だけでなく、ずっと使ってもらえるとうれしいですよね。
根拠のあるデザインと機能、あと文化として継承される服の価値が近い未来に必要なはず。仕事で伝統工芸と携わる機会がありますが、これからは本物しか残れなくなるなと強く感じます。
――水沢ダウンはオリジナルのほか、セレクトショップやブランドとの別注アイテムも多く展開しています。「NF」というプロジェクトも手掛ける山口さんにとって、コラボレーションとは?
僕らはミュージシャンですので、自分が良いと思ったものを面白がってくれる人は、前提として僕たちの音楽を好きでいてくれる人。そんな人たちに、こんな面白い人たちやブランドが異業種にいるということを知ってもらいたい気持ちがあります。
80年代に比べて、現代は音楽が好きな人でファッションも好きという人の割合がすごく少なくなっている気がします。深くつながっている部分もありますが、エンタテインメントという大きな枠のなかでは、カルチャーの横のつながりが希薄になっているように感じます。
僕はある種、エンタテインメント側にも関わっているので、NFをきっかけに音楽以外のこともたくさん伝えたい。そういったものの魅力の通訳係です。
僕らが説明することで10万円もする高い服に音楽しか好きじゃなかった人が興味を持ってもらえたら、5年後、10年後の音楽に変化が生まれるかもしれない。その未来に嫉妬したいから、今やるべきことを常に考えています。
「NF」で考えるコラボレーションの条件は、相手をリスペクトできるかどうか。自分が好きで尊敬している人が作るものって、自分にとっては信頼できるじゃないですか。それをいろいろな人に見つけてもらう道標を作って、外から眺めながら盛り上げるのが僕の役割。
水沢ダウンも、毎シーズン良いなと思う別注アイテムがあります。素材や色の使い方が変わるだけで、良い違和感がありますね。
<Mame Kurogouchi>の別注(2018年にリリース)は、職人と職人が1つのものを作っている感じがかっこいいなと思いました。
機能とデザインの両方からアプローチされていて、それが押し付けられる感じもなく納得できる。水沢ダウンらしい文化を表現されていたと思います。
<プロフィール>
ICHIRO YAMAGUCHI
山口一郎
2005年に『サカナクション』としての活動を開始し、2007年にメジャーデビュー。日本の文学性を巧みに内包させる歌詞やフォーキーなメロディ、ロックバンドフォーマットからクラブミュージックアプローチまでこなすなど、多彩な表現方法を持つ。2015年、クリエイター・アーティストと共に音楽に関わる音楽以外の新しいカタチを提案するプロジェクト「NF」をスタート。映画「バクマン。」で第39回日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞。「ミュージシャンの在り方」そのものを先進的に捉えて表現し続けるその姿勢は、新世代のイノベーターとして支持を獲得している。 2019年6月に約6年ぶりとなるNew Album「834.194」をリリースした。
山口一郎さんが着用しているモデルはこちら
水沢ダウンジャケット “マウンテニア”:110,000円(税込)
山口一郎さんが今回購入したモデルはこちら
水沢ダウンジャケット “ストレイタム”:154,000円(税込)
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