水沢ダウンは2008年に発売されて以来、多くのファンを持つデサントのダウンジャケット。
今回は、水沢ダウンの進化の過程とその人気の理由を探るべく、開発責任者でありデザイナーの山田満氏にインタビューしてきました。
――水沢ダウンが誕生してから11年目を迎えました。もともとは、バンクーバー大会の日本代表ウェアとして開発されたんですよね?
はい。「選手のために最も機能的なウェアを提案したい」という気持ちから生まれました。いかに無駄をそぎ落とし、機能性を高めるかにこだわっています。
水沢ダウンから「オルテライン」というカテゴリが誕生しましたが、ディテールデザインの積み重ねこそがオルテラインのコレクションです。
例えば、「アンカー」という最初のモデルは、毎年小さなアップデートはしているものの、大きくは変えていません。アンカーという名前も日本語に訳すと「錨(いかり)」で「動かない」という意味が込められています。ディテールや素材の開発に重きを置いてアップデートしています。
――ディテールは、具体的にどんなものがありますか?
代表的なものといえば、熱圧着です。多くの場合、ダウンジャケットにはキルティングが入っていますよね。あれは、中の羽毛が下に下がらないように区切っているのですが、ステッチを入れてしまうと生地に針穴が開いてしまうのでそこから中に水が入ってしまうのです。
水沢ダウンは、ステッチではなく熱接着を施すことで、生地に穴を開けずにダウンパックを形成しています。また、針穴が開いていないことで、非常に気密性が高く、衣服内の暖かい空気も外に逃げにくい構造になっています。
また、暖かい室内に移動したときのことを考えた、「デュアルベンチレーション」というディテールがあります。フロント部分を「デュアルジップ」といってダブルジッパーにしました。暑くなったらジッパーを切り替えることで、メッシュ部分から新鮮な空気が入ってきて袖下に抜ける構造になっています。
ただ単に何かを付け足したわけではなく、もともと必要なジッパーに対して付加価値を与えたことで、“機能をデザイン”しました。
――なるほど!今年も新モデルが発売されますが、2019年秋冬のモデル「ヴァリアント」のこだわりを教えてください。
細身ショート丈のライトなモデルで、表地にCEBONNER® HORNS NYLONを採用しました。高耐水・透湿性を兼ね備えたコットンライクで、ナチュラルな風合いです。
また、立ち襟の部分にも特徴があって、収納フードの内側に「クイックバーストジッパー」という特殊なジッパーを採用しました。
救命胴衣に用いられているもので、もともと少しだけ務歯(むし)が浮いていて、この部分を引くと簡単にジッパーが開くようになっています。着用中でもスムーズにフードの出し入れができるようにしました。見た目のデザインだけでなく、使い勝手のスマートさにもこだわっています。
――操作性のことまで考えたうえでデザインされているんですね!「ヴァリアント」は、スポーツ用品の国際総合見本会「※ISPOミュンヘン2019」でゴールドアワードを受賞されましたよね。どのような点が評価されたのでしょうか?
「シンプル」であるということの強いメッセージ性、そして、コンセプトとデザインの一貫性が理由ではないかと思っています。機能面の優れたスポーツウェアがたくさん集まっていますが、2013年に初めて出品してから7年連続で受賞しています。
――毎年評価されているんですね!今年は今までにないプルオーバータイプの「リクイジット」(※販売終了)も発売されますよね。どんな特徴がありますか?
プルオーバータイプにすることで、より気密性を高め、暖かさを追求しました。サイドに「ヴァリアント」と同じ「クイックバーストジッパー」を付けることで、着脱しやすいようにしています。
また、フードには、ひもではなく「BOA®︎フィットシステム」というダイヤルを採用しました。ダイヤルを回すとフードが顔にフィットしますし、ダイヤルを引っ張ると緩めることができます。
自転車に乗っているときやグローブを着けているときでも、片手で簡単に操作できます。フードを締めるという目的のためのディテールですが、デザインの一つになっています。
――機能面がより進化していますね。今までどのように改良を重ねてきたのですか?
デサントでは、スキーウェアやベースボールウェアなど、いろいろなカテゴリを展開していますが、ほかのカテゴリで開発されたディテールや素材、型紙を再編集しています。
先ほどのBOA®フィットシステムもスキーウェアで使われていたものです。スポーツウェアは、各競技に特化しているだけでなく、どんなときでも着ていただけるというポテンシャルの高さがあると思っています。
また、建築やインダストリアル系などから、インスピレーションを受けることもあります。オルテラインの『Form follows function』というコンセプトは、「形は機能性に従う」という意味ですが、もともとは建築家の言葉なんです。
――機能性を追求していく水沢ダウンのこれからのビジョンは?
毎年、少しずつアップデートしていきたいと思っています。先ほど、「ISPOミュンヘン2019」で評価されていると言った「シンプル」という概念は複雑で奥が深く、ゴールがありそうでないんです。「シンプル=最適化」と捉え、なるべく最少の設計で、最大の価値を与えたいと思います。
発想もアウトプットも、シンプルという概念のもう一歩先にあるようなものを探求したいです。この気持ちは毎年強くなっています。長く大事にされるものを作っていきたいですね。
――最後に、水沢ダウンファンへのメッセージを!
機能性は、体感できることを意識してデザインしています。着ていただけると、暖かさや軽さ、使い勝手のスマートさを体感していただけるはずです。もしまだ着たことのない方も、一度袖を通していただけるとうれしく思います。
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<プロフィール>
株式会社デサント
デサントBM
グローバルクリエイティブデザイナー
山田 満
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