RE: DESCENTEのデザイナー曽我部恵美子氏と「KAMITO」のデザイナー浅野貴兄氏

和紙糸「KAMITO+」を起用したサステナブルな取り組み。RE: DESCENTEとKAMITOのデザイナーが考える「自然由来の製品づくり」とは

  • 2020/07/31 (金)
  • 2023/12/04 (月)

サステナビリティを考慮した環境保全への取り組みである「RE: DESCENTE」のなかでも、自然由来の素材である「KAMITO+」を使用した「RE: DESCENTE SEED」シリーズ。

今回対談するのは、『デサント』ブランドのデザイナーで「RE: DESCENTE」のデザインも手掛ける曽我部恵美子(ソガベエミコ)氏と、自然を常に意識したサステナブルなモノづくりを行う「KAMITO」ブランドのデザイナー浅野貴兄(アサノタカエ)氏のお二人です。

コラボレーションを通して感じた互いの魅力や開発エピソードに加え、製品の機能性やポイントを解説。さらに、それぞれの視点から考えるサステナビリティの未来について語っていただきました。

サステナビリティを打ち出す「RE: DESCENTE」と和紙糸「KAMITO+」の出会い

和紙糸「KAMITO+」を使用したTシャツの写真

――デサントが取り組む環境保全活動「RE: DESCENTE」プロジェクト。まずはコンセプトや発足した経緯をお聞かせいただけますか?

曽我部:「RE: DESCENTE」は、「持続可能なモノ創りへの挑戦」をテーマに、3Rの観点からサステナビリティに考慮した取り組みです。次の世代の人々が気持ち良く過ごせる地球環境を作るためのモノづくりをしたい、という思いから始まっています。

例えば、各国のスポーツの試合でプレーや観戦した後、きれいにしてから帰る日本人の姿って話題になったりしますよね。そういう発想に近いところから来ています。

――なるほど。サステナビリティというものは、日本人の侘び寂びや情緒的な部分とすごく相性が良いのかもしれませんね。

曽我部:そうですね。服を作るという仕事をしていますが、誰かが着ては捨てるという悪循環が生まれ、自分はゴミを生み出してしまっているのではないか、と漠然とした負い目を感じてきました。

そんななかで、自分の作ったものが自然のサイクルに乗り、持続可能なモノづくりができるというのは、私自身ホッとした気持ちが大きいですね。

――そんなサステナブルな取り組みである「RE: DESCENTE」ですが、「SEED」と「BIRTH」それぞれのシリーズにはどんな違いがあるのでしょうか?

曽我部:「SEED」は、生地からファスナーなどの副資材まで、自然に還る生分解マテリアルを使用した商品シリーズです。「SEED」の商品で「KAMITO+」という自然由来の和紙素材を使っており、土に埋めたらすべて土に還る「生分解性」を持っています。簡単に言うと、土の中の菌が繊維を食べて溶かすという原理。焼却しないので、温室効果ガスの発生削減につながります。

一方の「BIRTH」シリーズは、回収した衣服のプラスチックを繊維にして作る「再生ポリエステル」製。服から服へと循環して、繰り返し使われるリサイクルの仕組みです。

RE: DESCENTE SEEDのシャツの写真

――では、その「SEED」シリーズのキーとなる「KAMITO+」について、ブランドのコンセプトをお聞かせいただいてよろしいですか。

浅野:「KAMITO+」は、“和紙糸”を使ったブランドです。ただの紙糸ではなく、和紙。主に障子や版画など、生活や芸術になじみ深いというイメージがありますが、和紙を紙として使うのではなく素材として使うことで、どんな形にも表現していきたい、という思いがあります。

――和紙を糸にして使用することで、どんな効果があるのでしょうか?

浅野:天然繊維でありながら吸汗速乾性と保温性、消臭効果が得られます。オールシーズン活躍する素材ですね。テクノロジーによって人工的なさまざまな機能素材が開発されてきましたが、天然素材のほうがより人間の体に合わせた機能性を備えていて、特に日本人の肌にも合うのではないかなと思います。

曽我部:確かに。触ってみると、リネンとかに近い心地良さがありますよね。肌触りがサラッと柔らかくて、着心地も良さそうです。

――今回の「KAMITO+」というネーミングにはどんな意味があるのでしょう?

浅野:環境に配慮した素材を使うことはもちろん、作るにも手間がかかるからこそ大切に着てもらえるようなブランドを作りたい、という思いがありました。

それに共鳴してくださったのがデサントさんで、「一緒に何かを作る」ことで私たちとは違う「プラス」の新しい何かを生み出していく、ということから「KAMITO+」と名付けました。

和紙特有の“風合い”と着用時の“快適性”を両立させた、RE: DESCENTE SEEDの「KAMITO+」ラインナップ

対談している曽我部氏と浅野氏の写真

――コラボレーションをするにあたってお互いに感じた魅力は?

浅野:RE: DESCENTEは、サステナブルというものに対してもひとくくりにはせず、「リサイクルはリサイクル」「自然由来は生分解」と分けて商品に落とし込まれているんですよね。それぞれにメッセージ性があり、「SEED」と「BIRTH」というのも分かりやすく表現されているなと感じていました。

曽我部:私の場合は、「KAMITO+」を使用したTシャツを1枚サンプルでいただいたんですが、それを着たときに衝撃を受けました。大量に汗をかいたときに着ていたんですが、全然臭わなくて。これは、ほかの人が着ても絶対に感動すると思いましたね。

――コラボレーションするうえで、開発の工程はどう分かれているのでしょうか?

インタビューに答える浅野氏の写真

浅野:「KAMITO+」のほうで、まず「私たちはこういう素材を持っています」という状態でデサントさんに見てもらい、そこから本当にキャッチボールのような感じですね。

曽我部:素材それぞれの良さなどもお伝えいただいたうえで、そこにどんなものを組み合わせたいか提案したり、「こんなものもあったら良いんですが…」とリクエストしたり、少しずつ話が進んでいきました。

――服のデザインは、どの段階で決まるんですか?

曽我部:服のデザインに関してはデサント側で決めていて、「このデザインだから、この生地でこうしてほしい」といった注文をお伝えするというやり方で進めていきましたね。

――実際に「こういうものが作りたい」とリクエストされたときに、KAMITO+側で苦労されたことや、こだわったところはありますか?

浅野:やはり化学繊維とは違い、天然繊維であるがゆえに正攻法で実現ができない世界ではあるんです。和紙はすごく繊細な素材なので、糸の太さがコンマ何mm違うだけで、生地の厚みが変わって染まり方が違うということもありました。

画一的に生地やモノを作るという観点からするとNGなんですが、それはデサントさん側に「こういうものなんです」という話をして、柔軟にご対応いただいてでき上がったと言えますね。

曽我部:今まで天然繊維じゃないものを扱うことが多く、全部均一に仕上がるのが当たり前になってしまっていたので、正直「あれ?」と思うことは多々あったんですが、そこは折り合いをつけた形ですね。

――なるほど。和紙を洋服に、それも1着ではなく何枚も作るとなると、やはり難しさや苦労がすごく伝わってきます。

浅野:「個体差がある」という言い方をしてしまえば終わりですけど、本当に良い素材なので、何でもかんでも「生地の特性なので」で終わらせたくない。なるべく整った画一的なものを作れるようにアップデートしていけたらと思っているところです。スポーツウェアとしての安全性や耐久性の基準も満たせるように、今後さらに底上げしていこうとしています。

曽我部:個体差があるのも、また味があるという感じがしますけどね。同じ商品を買って色落ちが違うのも楽しかったり、世界に一つだけと思うとより大切にしたくなります。

コラボレーションした商品を触っている写真

浅野:そうですね。それを少しずつ受け入れてもらえるような世の中になる一つのきっかけにもなったら良いなと思います。

――デザインはもちろん、シルエットやポケットなど随所にこだわりが光る「RE: DESCENTE」ですが、ディテールの部分に関してポイントを教えてください。

曽我部:デサントはスポーツウェアに強みを持っているメーカーということもあり、我々デザイナーが培ってきたスポーツウェア作りのエッセンスは多いのかなと思っています。使いやすいポケットの位置やボタンの配置なども、長年の経験から分かるスポーツウェアならではのこだわりですね。

ほかにも、肌に当たる凹凸を軽減できるように縫い代を隠していたり。使いやすさや快適性を、存分に感じていただけるかなと思います。

――スポーツウェアを作ってきたからこその発想が活かされていると。サステナブルなブランドで、機能性までも重視するのは珍しいですよね。

インタビューに答える曽我部氏の写真

曽我部:そうですね。それに加えて、「RE: DESCENTE」は男性も女性も着られるユニセックスなデザインも特徴的だと思っています。

――つまり、想定ユーザーはボーダーレスということでしょうか?

曽我部:はい。結局皆さんの関心が高いものって多岐にわたっていて、環境への意識も服の好みも人それぞれですよね。なのであえてフラットに、男性も女性も、トレンドに疎い人も敏感な人も関係なく、共感していただける人に着てほしいと思っています。

浅野:まったく同じ意見です。おしゃれやトレンドというよりも、モノを大事にしたい、気に入ったものを買いたい、という想いを持って手にしてくださるのが一番うれしいですね。例えば手に取るきっかけが「デザインがかわいい」であったとしても、そのデザインの奥にある工程や素材へのこだわりも知ってもらえたらと思います。

――KAMITO+側としては、どういった部分にこだわりがありますか?

浅野:KAMITO+は素材の特性を活かすために、オリジナルの和紙糸だけを使っています。ジャケットの裏地のような合成繊維をそのまま混ぜるのではなく、とても細いポリエステルの糸に和紙糸を巻いて強度を上げていて、Tシャツも靴下も軽いからすぐに乾きますし、菌も繁殖しにくいんですよ。

コラボレーションした靴下(水色)を手にしている写真

曽我部:もちろん、和紙そのものが持っている消臭性も発揮されています。生地から製品になっても性能として変わらないよう、「消臭性試験エビデンス」も実施して作りました。

浅野: それと、今回は和紙という日本の文化を表現できるアイテムとして、アーティストの技術を掛け合わせたいという思いがありました。Tシャツの染めは奄美大島の泥染めをやってもらっています。テーチ木の染料でピンクに染めてから、泥を染み込ませて黒くなるまで染め続ける技術です。途中で止めると、グレーやブラウンにもなるんですよ。

――まさに、日本らしい伝統技法ですね。実際に完成したラインナップをご覧になっていかがですか?

曽我部:Tシャツやパンツは肌に直接触れやすいので、肌触りの良さだったり、快適性をより実感してもらえるんじゃないかと思います。ロングパンツもあるんですが、夏に着ても快適ですし、色味も自然なので爽やかなコーディネートに仕上がるんじゃないかな。

浅野:一番のおすすめは靴下。和紙素材の魅力が如実に出ていますよね。

コラボレーションした靴下が並べられている写真

――やはりお二人とも、和紙素材の良さを分かってもらいやすい商品がおすすめなんですね。

浅野:そうですね。あとは、持っていただくと分かるんですが、何より軽い。今回バッグも作ったのですが、天然繊維で軽いのに丈夫なんですよ。

曽我部:耐久性もかなりあります。自然のものだけでこんなに色が出せるのってすごいですよね。

浅野:奄美大島にしかないフクギという木の黄色や、インディゴの藍染めですね。カジュアルなファッションに合わせやすいバッグで、私も気に入っています。

曽我部:染めの知識も技術も、我々だけではたどり着けなかったところなので、羨ましさと同時に、コラボレーションの醍醐味を感じますよね。

浅野:本当に楽しくやらせてもらっているのでありがたいです。このコラボレーションを通して「KAMITO」のメンバーもまた新しい知見が得られて、天然染めをこれからもやっていきたいね、なんて話しているので、新しい道が開けましたね。

コラボレーションしたTシャツとバッグが並べられている写真

RE: DESCENTEとKAMITOが考える、サステナビリティのこれから

対談している様子の曽我部氏と浅野氏の写真

――RE:DESCENTEが最終的に目指す姿とは何でしょう?

曽我部:安価なものばかりに惑わされず、モノを大切にずっと着ていく、いわゆるサステナブルな思想を世の中に根付かせることが最終目的かなと思っています。なので、まさに「KAMITO」ブランドとマッチしているんですよね。

浅野:そうですね。今回は奄美大島の泥染めを使ったんですが、天然染料は素材の地域性などによっても違いがあります。これからもさまざまなアプローチができるのかなと思っていますし、KAMITO+としても、これからも関わってくださる人たちのストーリーを乗せて、モノを通してお伝えできたら良いなと思います。

曽我部:「SEED」シリーズにおいては、今はちょうどライフスタイルとスポーツの間で、どちらにも使えるようなイメージ。もっと極端にどちらかに寄ってみても良いのかなと思っています。そうすると、さらに別の関心を持つ方々にも広まっていくのかな。サステナブルなブランドとして、人が注目するようなきっかけを作り続けたいなと思います。

 

<プロフィール>

RE: DESCENTEデザイナー 曽我部 恵美子(写真右)

デサントブランドのアパレルのデザインを主に担当。プロジェクトへの想いは、「環境に優しく」。時代がエコへ向かっているなか、スポーツウェアはそういった輪の外にいると感じていており、会社のブランドとして「RE: DESCENTE」のプロジェクトが始動するにあたりメンバー入りを所望。環境のために、未来を担う子どもたちのためにと言えるモノを自信を持って作っていることにやりがいを感じている。

KAMITOデザイナー 浅野 貴兄(写真左)

いくつかの有名アパレルブランドのデザイナーを経験。自然と街が隣り合わせであるバンクーバーへ語学留学。さまざまな国籍の人たちとの交流の経験や、幼少期から興味があったクラフトを通じ、ただ再利用するだけでなく、手に取った人が喜び・生産者の心が豊かになるモノづくりをしたいという思いが強くなる。また、趣味でケミカルフリーの植物染めや洋服のリメイクのオーダーを受けるなど、ファッション×エコということを意識した活動を行っている。「KAMITO」ブランドのサステナブルへの取り組みやブランドイメージがこれまでの経験から得た自身の考えと合致し、2018年頃より豊通ファッションエクスプレス(株)と他ブランドで取り組みをスタート。

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