デサントのトライアスロンシューズ「DELTA TRI OP」の誕生秘話を開発担当者に聞きました

デサントのトライアスロンシューズ「DELTA TRI OP」の誕生秘話を開発担当者に聞きました

  • 2020/07/31 (金)
  • 2022/05/25 (水)

デサントが本気でパフォーマンスシューズを開発するべく2017年3月にプロジェクトチームが立ち上がり、まったくのゼロベースからスタートして約3年。
トライアスロン専門シューズの誕生から完成までの経緯を企画開発担当者である林 亮誠さんに伺いまいた。

(ライター|Shin Kawase、カメラマン|Masataka Nakada(STUH))
※本記事は『Runners Pulse』の協力のもと、同媒体に掲載された記事を一部編集して転載しております。

試行錯誤を繰り返し生まれたトライアスロン専門シューズ

――まず、このプロジェクトがスタートすることになったキッカケを教えてください。

日本では、デサント=トライアスロンということが知られていませんが、ヨーロッパでは専門のウエアを展開しているんです。2013年には、スイストライアスロン連盟のオフィシャルサプライヤーとしてスイス代表のユニフォームを作って、成果もあげています。

なので、ウエアだけでなく、シューズも一緒にということで開発することになりました。

――まったくのゼロからスタートしたと聞きましたが。

そうなんです。色々なシューズは手掛けてきましたが、トライアスロン専門のシューズは、初めてで経験もなかったので、最初に選手の声を聞こうと思って、徹底的にアンケートを採りました。

それでデータを集めて、それを徹底的に読み込んで必要な要素を抽出していきました。同時に世界と日本のトップの試合のビデオを取り寄せて何回も観て、とにかく分析しました。

――どれぐらいの期間をかけられたんですか?

アンケート、分析、ビデオというのを繰り返し1年間位やっていました。その分析したデータを蓄積すると何となくわかってきたんです。それからやっと具体的にラスト(足型)とファーストサンプルを作ることになりました。

デサント・トライアスロンシューズのラスト(足型)とファーストサンプル

――これがラストとファーストサンプルなんですね。

そうです。今見るとちょっと恥ずかしいんですけど、これがプロトタイプになります。ここからまたスイスに出向いて、スイスの選手に確認しに行って改良していったんです。およそ2年位かけてサンプルを作っては修正、作っては修正して…試行錯誤を繰り返しながら、自分がイメージした完成形に近づいてきた感じです。

トライアスロン専門シューズなので、10キロをベストで走れればいい。極論を言うと10キロしか持たないシューズでいい。その究極を目指してやっていました。

デサント・トライアスロンシューズのプロトタイプ

――それからやっと色々なテストを開始したんですね。

そうなんです。まずは、選手が履いている靴をもらってきて。あと、世界トップランクの選手が使用しているシューズを購入してテストしていきました。
夏開催のトライアスロンの大会を見に行くと、選手はとんでもない量の水を頭からかけて、肩から足元まで、びしゃびしゃな状態なんです。

DISC(DESCENTE INNOVATION STUDIO COMPLEX)にはアパレルの実験で使用する人工降雨機があります。

DISC・アパレルの実験で使用する人工降雨機

比較的珍しいとされるこの機械を使えば、一定の雨を降らせることができる、と思ったんです。これは使えるなと思って、80ミリで何分間降らせたらどうなるんだろうか?50ミリだったら?という感じで繰り返し実験しました。

デサント・トライアスロンシューズ・試験

――このテストのゴールは何だったんでしょうか?

最初のテストは水分を含む量、重量比です。80ミリの雨を1分降らせる前の重量から何グラム後でどれ位増えてるかっていうのを何度も何度もやりました。

それである程度の結果が出たのですが、重量比較は公的なデータでは発表できなかったんです。なので「乾燥性」で比較することにしました。水に30分間つけて何分後にどれだけ水が抜けてるかっていう試験を行ったんです。

これって実はアパレルの試験方法なのですが、シューズに応用してくれってお願いしてDISC(DESCENTE INNOVATION STUDIO COMPLEX)でやってもらったんです。

その結果、世界トップランクの選手が使用しているシューズの中でも一番速く乾いたんです。このテストはデサントじゃないとできなかったので、デサントらしいシューズが完成した瞬間でしたね。
既存のトライアスロン用シューズの中で「水に濡れても、一番軽く、一番速く乾くのがデサントのトライアスロンシューズだ」と胸を張ってスイスチームに伝えることができました。

デサント・トライアスロンシューズ・試験

――アドリアン選手と契約した経緯を教えてください。

当社の販促担当が、年に1回のスイス代表選手が集まるタイミングで主要選手にトライアスロンシューズの資料を渡して話をしてくれたんです。最終サンプルが完成する前の段階で。

そしたら、一番最初にリアクションして、コンタクトを取ってくれたのがアドリアン選手だったんです。

デサント・トライアスロン専門シューズの企画開発担当者・林 亮誠氏

2019年1月にアドリアン選手から「最終サンプルはいつできますか?」と言われた時はまだ最終段階に至ってなかったのですが、また彼から連絡があって「スイス大会に履いて出場したいので、すぐに送ってほしい」と(苦笑)。
本位ではなかったけど、しょうがなく途中段階のサンプルをスイスに送ったんです。そしたらまさかの優勝だったという(笑)。

アドリアン・ブリフォ選手

トライアスロンレース中のアドリアン・ブリフォ選手

クレジット: May 25, 2019 ITU WORLD TRIATHLON LAUSANNE (Photo: Kiristen)

――途中段階のサンプルで優勝するとはすごいですね。

本当にそうですよね。でも、デサントのアパレルの技術の高さにアドリアン選手が惚れ込んでいて、だから靴も絶対いいはずだと思ってくれている節があったみたいです。
なので運命的に出会って、相思相愛で、じゃあ一緒にやろうかみたいな感じになりました。

そこから彼と半年近く色んなコミュニケーション取って作ってきた感じですね。僕もスイスに会いに行って話をしたりしました。

アドリアン・ブリフォ選手

「ちょっと痛い」って言ってくれたら、そこに大ヒントがある

――選手とのコミュニケーションで一番大切なこととは何だと思いますか?

いわゆるコミュニケーションを取りながら、シューズの精度を上げていくわけですけど、僕は選手が求めているものが何なのかということを、とことん聞きますね。

こちらから提案をするよりもまずは聞く。そこに答えが絶対あるので、それを自分の目で見に行って、その後に話をする。そこで初めて提案するみたいな感じですね。僕はとにかく感覚の情報をすごく大事にしていて「ちょっと痛い」って言ってくれたら、そこに大ヒントがあるんですよ。

「何か違う」とか、「何か、こうなんです」とかっていう、相手のフィーリングっていうんですかね。言葉で言い表せない何かを大事にするのは、ガンバ大阪の遠藤選手と一緒にやってきた経験からなんですけど。

アドリアン選手と林氏

――テスト結果をプロダクトに反映する上で一番難しい所、大切なこととは?

反映するときに一番難しいところっていうのは、その手法が正解か誰も分からないところですね。

正解かどうかが分からないので、他の方法はないかとか、それをとにかくとことん考え抜く。でも、スポーツシューズ業界では超弱小ブランドなので、まだできないことのほうが多いんです。

でも、その中でいかに知恵を絞るのかだと思っています。
選手がそこまでやる?って思うような所まで徹底的に考えますし、チーム全員に相談をします。中でもデザインチームとはとことん議論しますね。

――デザインチームと開発チームは、ぶつかって論議になると他メーカーさんからもよく聞きますね。

僕らも同じでデザインチームスタッフとは本当によく言い合いをしますし、何度もケンカしました、殴り合い直前まで(苦笑)。今回はやってないですけど(笑)。でも皆それだけ真剣に作っているんです。

絶対に期待を裏切る訳にはいかない、そのプレッシャーとの闘いの日々でした

デサント・トライアスロンシューズの完成

――トライアスロンシューズの完成。率直な感想を教えてください。

そうですね…。達成感というより、やっとここまで来られたなって、ホッとする気持ちのほうが強いです。

最終的には、デサントならではのシューズに仕上がったと思います。
ヨーロッパでは、デサントのアパレルが既に信頼を勝ち得ていたので、シューズも当然それを求められるし、絶対に期待を裏切る訳にはいかなかったんです。

そのプレッシャーとの闘いの日々でした。

トライアスロンシューズの特徴を解説

デサント・トライアスロンシューズの特徴

――デサントのトライアスロンシューズに興味を持つ方も多いと思いますので、詳細を教えてください。まずはアッパー素材、アッパーの特徴はどのような部分でしょうか。

このシューズの大きな特徴としてアッパーの外側と内側をひっくり返した構造にしてあることです。
トライアスロンで使用する時は裸足で履くため、少しの凹凸で足が痛くなり、それがストレスになり、怪我にもなるんです。だから、逆転の発想で本来内側にあったのをすべて外側に反転させてあります。

デサント・トライアスロンシューズ・アッパー

レーザーカットしてテープで接着縫製する縫い目がない構造は、水沢ダウンやオルテラインと同じ考え方を活かして作られています。
そして素材は、エンジニアドメッシュを採用してあるので排水性がよく軽く仕上がっています。その排水性は、DISCの人工降雨機によって何度もテストを繰り返し完成させています。

デサント・トライアスロンシューズ・素材はエンジニアドメッシュを採用

デサント・トライアスロンシューズ・ミッドソール

――ミッドソールについて教えてください。

デルタシステムという、3つの異素材をコンビネーションすることによって、高い推進性を得るというコンセプトで構成されています。

着地の際に反発して推進力があるカルボという曲がるプレートが入っていて(カーボンは曲がらない)、全接地型になっているので、前足部で着地するフォアフット走法でも、ミッドフット(中足部)でも走り方を選ばないオールラウンドタイプなのが特徴となっています。

デサント・トライアスロンシューズ・デルタシステム

――アウトソールとインソールついて教えてください。

イノヴェイトで使われいてるグラフェンをトライアスロン用に改良したものになります。
グラフェンとは、2010年度のノーベル物理学賞を受賞した新素材で、柔軟かつ伸縮性があり、強さが鋼鉄の100倍もある、今もっと注目されている素材のひとつです。普通であればもっとラバーを分厚くしなければならない所にグラフェンを配合することですごく薄くできる。イコール軽くできるんです。

デサント・トライアスロンシューズ・アウトソール・インソール

インソールは、反発性を出しながら、ストレスのない生地にしています。さらにパンチングを開けることで、上から水が入ってもインソールの下に流れて、アウトソールに抜けていく構造になっています。「勝つための一足」という目的で作ってあるのでトライアスロン、トライアスリートが求めるものが全部入った一足に仕上がっていると思います。

――色々とお話しを伺いましたが、林さんの今後の目標と未来について教えてください。

スイス代表がレースで表彰台に上がること。その次は、トライアスロンシューズのネクストを作ることです。

それは、20キロ、40キロに耐えられるトライアスロン専門シューズ。これが完成すると、ハーフマラソン、フルマラソンのトップランナーが履ける本格的なパフォーマンスランニングシューズがデサントから提案できるんです。

そうすると、多くの競技、もっと多くの人に知ってもらえるかと。なので競技用であれば、とにかくアスリートファーストでアスリートに寄り添うこと。ライフスタイルであれば、コンシューマーファーストでユーザーに寄り添うっていうか、一緒に歩んでいくようなシューズを作っていきたいと思っています。

デサント・DISC・アドリアン選手と林氏

――最後にアドリアン選手へ一言おねがいします。

「一緒に東京で見たことない景色を見ようよ」って、彼には伝えました。それに対して彼は、笑って「了解!」とジェスチャーしてくれました。彼が表彰台に上がる姿を見たら、きっと泣いてしまいますね(笑)

DESCENTE GLOBAL FOOTWEAR “Triathlon Shoes“DELTA TRI OP”

DESCENTE GLOBAL FOOTWEAR “Triathlon Shoes“DELTA TRI OP”

<プロフィール>

Adrien Briffod(アドリアン・ブリフォ)選手
Adrien Briffod(アドリアン・ブリフォ)
1994年、スイス・ヴヴェイ生まれ。10歳からトライアスロンを始め、2005年11歳でITUデビュー。2013年19歳の時にヨーロッパジュニアカップで初優勝以来、数々の大会で好成績を残す。現在、スイストライアスロン エリートメンバーとして活躍中。
WTSランキング:38位(2019年12月16日時点)

<プロフィール>

デサントシューズ企画開発担当 林 亮誠(はやし りょうま)
デサントシューズ企画開発担当 林 亮誠(はやし りょうま)
愛知県生まれ。小学4年生でサッカーを始め、プロサッカー選手を目指す。しかし、高校2年時に自分の実力の限界を知り、サッカー部を退部。夢をサッカースパイク開発に切り替える。人の感性を基に開発を行うことで有名な信州大学感性工学科に入学。工学博士となり、2010年に新卒で株式会社デサントに入社。2年目からアンブロのMDとなり、2014年ワールドカップ時のガンバ大阪・遠藤保仁選手のスパイクを担当。高校時代からの夢を叶える。その後、ルコックスポルティフ、イノヴェイトのMDを経て、現在、デサントシューズの企画開発担当として日々邁進している。

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