厚底ランニングシューズの「柔らかすぎリスク」とは。その解決を目指す新たなクッション構造をレポート

厚底ランニングシューズの「柔らかすぎリスク」とは。その解決を目指す新たなクッション構造をレポート

  • 2021/08/25 (水)
  • 2023/07/05 (水)

クッション性の高い「厚底シューズ」は“柔らかさ”が特徴ですが、その柔らかさがランナーの悩みになるケースもあります。着地が不安定になり、足首やくるぶし、膝といった関節が痛くなることもあるのです。

こういった、クッション系ランニングシューズの“柔らかすぎ”がもたらすリスクとはどんなものでしょうか。

またデサントでは、そのリスクを解消すべく厚底シューズを開発しています。ランニングシューズ「ENERZITE Z+」です。

この記事では、シューフィッターである藤原商会代表の藤原岳久さんに、厚底シューズを使用するランナーに多い悩みと、ENERZITE Z+の印象を聞きました。

柔らかすぎるクッションがもたらす関節の痛み

シューフィッターの藤原商会代表の藤原岳久さんの写真

――クッション系のランニングシューズ、いわゆる厚底シューズは柔らかく走りやすい印象があります。一方で、その柔らかさがランナーの悩みになることもあるのでしょうか?

そうですね。悩みとして多いのは、クッションが柔らかすぎることで着地の安定感が失われるケースです。それにより、足首やくるぶし、膝や股関節といった関節部分の痛み、あるいは「足底」と呼ばれる足の裏に痛みを感じるランナーが多く見られます。

基本的に、厚底はクッション性が高く、走りやすい感覚がありますが、実はランナーの気付かぬうちに痛みにつながっていることもあるのです。ランナーから痛みの相談を受けて調べてみると、柔らかすぎるクッションが原因であることも多いですね。

関節は横方向のグラつきに対応するのが苦手

関節や足裏の痛みについて話す藤原さん

――なぜ着地の安定感が失われると、関節や足裏の痛みにつながるのでしょうか?

まず関節についてですが、関節は縦方向の衝撃を和らげるのは得意でも、横方向の衝撃やグラつきを緩衝するのは苦手なんですよね。

厚底シューズのクッションが柔らかすぎる場合、着地した際に、横方向のグラつきが発生してしまう。すると、関節はその衝撃をまともに受けるのです。それが痛みにつながります。

もしくは、横方向のグラつきをほかの部分で抑えようとするうちに、関節に負担が集中して痛みにつながることもあるでしょう。

――足底が痛むのはなぜでしょうか?

ソールが柔らかすぎると、走っている最中に横ブレやグラつきが起きるので、ランナーは自然と足底でバランスを取るようになります。ランニング中、絶えず足底の筋肉を使うことになるので、痛みが出るんですね。私も厚底を履き始めたときは痛みが出ました。それまで、こういうことはほとんどなかったのですが。

もう1つ、クッション系のシューズに多い悩みがあります。それは、自分自身で前に推進する力、蹴り出す力が弱くなること。

厚底シューズは、シューズの底が接地してから反発するまでに時間差があります。柔らかい分、接地後にクッションが大きく縮み、その後反発するからです。足が一度沈んでから上がる感覚ですね。その時間差が大きすぎると、タイミング良く地面を蹴り出せず、うまく前に進めなくなってしまうのです。

厚底は走りやすいシューズ。ただし、そのなかでも違いを見極めるべき

――厚底シューズにはそういった課題もあるということですね。

そうですね。基本的に、クッションが効いたシューズは衝撃が吸収されるので、気持ち良く、走りやすいシューズだと思います。

ただ、一口に「厚底」「クッション系」といっても、クッションの柔らかさや反発力はシューズごとに千差万別で、ひとくくりにはできません。

クッションが柔らかすぎると、今話したような痛みや前に進まない感覚に悩むケースもあるので、厚底シューズを選ぶ際は、その点に気を付けて見るのが良いのではないでしょうか。

クッションがありながら、安定感を生むための二層構造

ENERZITE Z+ を側面から見た写真

――そういった悩みに対し、デサントではクッション性がありつつ柔らかすぎず、かつ安定感のある厚底シューズを開発しています。「ENERZITE Z+」というシューズです。藤原さんにも履いていただきましたが、どんな感覚でしたか?

ENERZITE Z+とは
デサント独自のフォーム材「Z-FOAM」を搭載したランニングシューズ。ソールの内部にZ-FOAMを搭載し、その外殻を高密度フォームで囲む二層構造で安定感を向上。クッションの気持ち良さと安定性を共存させることで、ランナーの足ブレを軽減する。

クッションはありますが、外殻が高密度フォームで覆われた二層構造になっているので、着地の安心感がありましたね。かかと付近にサポートパーツが配置されているのも、グラつきにくさにつながっていると思います。先ほど話した関節系のダメージも起きにくいのではないでしょうか。

また、ソールが左右対称の作りになっているのも良いと思います。いろいろな人が履けるシューズに大切なのは、クセがなく着地でイレギュラーな動きをしない作りです。その意味で、左右対称なソールは大事なんですよね。

今回のENERZITE Z+は、外殻を覆うフォームで“柔らかすぎ”を防止し、サポートパーツで安定感を出しつつ、さらに左右対象の作りにしているので、より着地の足ブレは起きにくいと思いますよ。

クッションの反発がシャープに推進方向へ伸びるイメージ

ENERZITE Z+を持つ藤原さん

――先ほど話していた、蹴り出しの「時間差」についてはどう感じましたか?

時間差はあまり感じませんでしたね。地面に足をついたとき、体が沈む感覚はあまりなく、スッと着地から蹴り出しまで行えるイメージです。蹴り出しのタイミングにズレが起きにくく、しっかり蹴り出せると思います。その分、前に進む感覚は強いのではないでしょうか。

――一方、ソールの弾力や反発力も重要だと思います。こちらについてはどうでしょうか?

反発力も十分にあると思いましたね。反発の強さを感じましたし、私が思ったのは、反発力が推進方向にしっかり向けられていることです。反発力が強く、そしてそのベクトルがシャープに推進方向へ伸びているイメージですね。その分、いつもより長く、より快適に走るには心強いシューズかと思います。

初心者の方や日常で使うランニングシューズにおすすめ

白と黒のENERZITE Z+の写真

――藤原さんから見て、このシューズやクッションはどんなランナーに向いていると思いますか?

幅広いランナーが履けるのではないでしょうか。走り始めたばかりの方は、まだフォームが安定していなかったり、着地の安定感がなかったりということが多いのですが、このシューズは足ブレしにくいので、関節や足底のダメージにつながりにくいでしょう。

一方、反発力もしっかりとあるので、フルマラソンやハーフマラソンなど、長距離を目指す人の味方にもなると思います。クセがない履き心地ですし、初心者の方が最初の入り口として選ぶのも良さそうですね。

アメリカでは、日常のランニングに使うシューズを「デイリートレーナー」と呼ぶことが多く、クセがないオールラウンダーなシューズが選ばれます。ENERZITE Z+は、デイリートレーナーに向いているでしょう。

いろいろな人がオールラウンドに、安心感を持って日々のランニングに使えるシューズだと思いますね。

文/有井太郎

<プロフィール>

藤原岳久
シューズフィッティングアドバイザー

藤原商会 代表。ナイキ・アシックス・ニューバランスなどで累計20年以上の販売経歴を持つ。その後、独立し現職。日本フットウェア技術協会理事、JAFTスポーツシューフィッターBASIC/ADVANCE/MASTER講座講師も務める。

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