これから暑くなるにつれて、注意しなければいけないのが熱中症。
夏本番を迎える前に、今から対策を行うことで、そのリスクを抑えられると話してくれたのが医学博士の永田孝行氏。ゴルフや野球といった野外で行われるスポーツ時の熱中症対策や暑熱順化の重要性などを伺いました。
永田孝行(ながた たかゆき)氏
1958年生まれ、愛知県名古屋市出身。医学博士、健康科学博士、ACSM(アメリカスポーツ医学会)公認HFI、(株)TNヘルスプロジェクト代表取締役、TN健康科学研究所所長東京大学大学院医学系研究科において肥満と代謝を研究。主な活動として、各健康保険組合や各企業を通して社員の健康・保健指導や生活習慣病予防と改善対策におけるコンサルタントやセミナー及びカウンセリングや実技指導などを実施。
気温だけでなく、湿度の高さにも注意が必要な熱中症
――まず、熱中症は身体がどのような状態になることなのでしょうか?
高温や多湿の環境に長時間いることで、体温調節機能がうまく働かなくなり、体内に熱がこもってしまう状態を指します。汗をたくさん放出したり、血液を身体全体に行き渡らせるなど身体が反応しさまざまな症状が引き起こされます。
――そうなった場合は、どのような症状が起きますか?
熱中症は大まかに、I度(軽度)・II度(中等度)・III度(重度)の3段階に分けられ、症状が異なります。
「具体的な治療の必要性」の観点から、I度(現場での応急処置で対応できる軽症)、II度(病院への搬送を必要とする中等症)、III度(入院して集中治療の必要性のある重症)に分類しています。
I度は、めまいや失神、手足のしびれ・気分の不快などの症状が現れ、II度では頭痛・吐き気、嘔吐、倦怠感や虚脱感が出てきます。
そして、III度になるとII度の症状に加え、意識障害、けいれん、手足の運動障害などを起こす重症(熱射病)となり、場合によっては命の危険を脅かすことにもなります。
――熱中症が起こりやすい環境を教えてください。
湿度が高いとき(70%以上)や気温が高いとき(25度以上)、そして日差しが強い日は注意が必要です。通常7~8月の日中に熱中症の患者数が増加します。運動をしているときであれば、特に外で行われる野球やサッカー、ゴルフ、テニスなどは注意してください。
また、梅雨の時期も熱中症にかかる可能性があることも覚えておいてください。この時期は湿度が高いため汗が蒸発しにくく、また身体が暑さに慣れていないため体温調節をする準備が不十分で、身体に熱がこもりやすくなってしまいます。
加えて、アルコールを摂取したときは注意が必要です。アルコールを分解する際には「加水分解」と言って体内の水分まで使われてしまうため、脱水症状に陥る危険性があり、これが熱中症の原因になります。
熱中症予防を目的とした「暑さ指数(WBGT)」を参考にしてみよう
暑さ指数(WBGT)は、人間の熱バランスに影響の大きい気温、湿度、輻射熱(※日差しを浴びたときに受ける熱や、地面、建物、人体などから出ている熱)、3つを取り入れた温度の指標です。
最高気温だけでなくWBGTを参考にすることで、より的確な熱中症予防ができます。
(参照:環境省熱中症予防情報サイト)
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熱中症対策のポイントは「水分補給」「暑熱順化」&「深部体温を下げる」
――普段の生活で大切な対策を教えてください。
一番重要なのは、こまめな水分補給になります。
成人男性だと、身体の60%が水分でできています。その水分を失うと強い喉の渇きを感じ、頭痛や体温の上昇などの脱水症状が現れていきます。そのため、喉が渇いたと感じる前の水分補給が大事です。
また、入浴前や就寝前など、体温に変化があるときの水分補給も大切なので、コップ1杯の水やお茶を飲んでおくことを推奨します。
部屋にいるときは、室内の温度を外の気温との温度差を-5℃程度に保つことが良いですね。
例えば、外の気温が32℃であれば、部屋の温度を27℃程度に保っておくと良いでしょう。
逆にエアコンの設定温度が低すぎると外気との温度差で身体に負担がかかるので、温度差が大きくならないようにすることも大切です。
――スポーツをしているときの熱中症対策はどのようにすれば良いのでしょうか?
適度な休憩時間が有効になります。例えば、野球やサッカーなど炎天下で練習を行うときは、20~30分に1回、5分程度の休憩を入れて、日陰など太陽に直接当たらない場所に移動して、水分補給を心掛けてください。
加えて、ゴルフも水分補給をするタイミングが非常に重要なスポーツです。
ゴルフは激しい運動をしていないように思いがちですが、やはり直射日光に当たる場合が多いスポーツなので、水分が体内から失われてしまいます。まずラウンド前に、そして1ホールを終えてカートに戻ったときなどに、水分をこまめに補給しましょう。
また、室内でのトレーニングやプールなどでも、水分補給をしないで脱水症状を引き起こす事例も毎年あります。どのようなスポーツにおいても適度な休憩とこまめな水分補給を行ってください。
水分補給を行う際の選択も大切です。
スポーツ前などは体液と同じ浸透圧で糖質も多く含まれエネルギー源となるアイソトニック飲料がおすすめですが、汗などにより大量の水分が失われているときは、浸透圧が低く、水分を素早く補給できるハイポトニック飲料がおすすめです。
ハイポトニック飲料は、塩分や糖質の濃度が低めで、安静時の体液よりも低い浸透圧の飲料です。運動による発汗で体液が薄くなっているときは水分が腸管で速く吸収されるので、運動中や運動直後の水分補給に向いています。
――水分補給に加えて、どのような対策が有効になりますか?
手のひらや足裏、頬を冷やすことが重要です。そこには、動静脈吻合(どうじょうみゃくふんごう)という動脈と静脈を結ぶ血管の部位があります。
動静脈吻合は毛細血管に比べて直径が10倍と太く、血流量は約1万倍と多いため、ここを冷やすと大量の冷えた血液が体内に戻り、深部体温を効率良く冷却できます。
ゴルフであれば水分補給と同様に次のホールに向かう途中、テニスであれば1セット終わった後に、冷やすことのできるアイテムや冷えたペットボトルなどを部位につけることで体温上昇を抑えられます。
そして、首を冷やすことも有効です。首の付け根には大きくて太い血管があり、効率的に身体を冷やすことができます。
また、頭からも熱放散されるので、頭部が暑くならないように帽子やアイスバッグなどを使用することも良いですね。
ただ冷やしすぎてしまうと血管が収縮しすぎてしまい、効率的に血流が流れていかなくなるので注意してください。
――これから暑い日が多くなると思いますが、それに備えた身体づくりで必要なことを教えてください。
“暑熱順化(しょねつじゅんか)”が、とても大切になっていきます。これは、気温が高い環境に順応し、暑さに強い身体をつくるということです。
ウォーキングや軽いジョギング、散歩などで暑すぎない季節から20〜30分程度紫外線を浴びることで、身体が暑さに慣れて熱中症の予防になります。
また夏の食生活は、ついつい冷たい物を食べてしまいがちです。牛乳・乳製品、卵類や大豆・大豆製品など、たんぱく質のあるものをきちんと摂取することで、血液量が増え皮膚近くで熱放射し、汗をかきやすくなります。
この結果、体温の調整機能がうまく働くようになり、熱中症になるリスクを下げることができます。
加えて、睡眠もとても大事です。最近では、脳腸相関(重要な器官である脳と腸がお互いに密接に影響を及ぼしあうこと)という言葉もあり、それを休めるのが睡眠です。食事、睡眠をしっかりして、暑さに負けない身体づくりを目指してください。
日常生活ではもちろんのこと、特にスポーツ時に気を付けたい熱中症。夏本番を迎える前に身体を暑さに慣れさせたうえで、水分補給や冷却アイテムなどを活用し、対策をきちんと行うことでそのリスクは抑えられます。
この機会に正しい知識を身に付けて、事前の対策をしっかりと行いましょう。
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