スポーツアイテムやアウトドアアイテムにも用いられる、耐久防水性・透湿性・防風性を兼ね備えた素材「ゴアテックス ファブリクス」。
とても便利な素材ですが、その機能性をより長く維持するためにはメンテナンスが必要です。メンテナンスをしないと、せっかくの機能も維持できず早くダメになってしまいます。
そこで、ゴアテックスのお手入れ方法を日本ゴア社に直接聞いてきました!
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今さら聞けない!ゴアテックスって何?
防水素材と言えば「ゴアテックス」をイメージする人が多いはず。でも、どういう仕組みで防水機能を実現しているのか、答えられる人は少ないのではないでしょうか。
ゴアテックスとは一体どういう素材なのか。日本ゴア社の伊藤由里子さんに教えていただきました。
日本ゴア合同会社 ファブリクス・ディビジョン ゴアテックス ブランド マーケティング 伊藤由里子さん。
「ゴアテックス ファブリクスは、アメリカで生まれた耐久防水性・透湿性・防風性を兼ね備えた素材で、アウターや靴などに採用されています。
ゴアテックス ファブリクスは、生地に『ゴアテックス メンブレン』という膜のような素材を貼り合わせたものです。この膜が『防水』『防風』『透湿』のゴアテックス3大機能を備えています。」(伊藤さん)
この薄い膜が「ゴアテックス メンブレン」。
伊藤さんが話すように、「防水」「防風」「透湿」の3つの機能を持つゴアテックス メンブレン。水を通さない「防水」と、湿気を逃がす「透湿」を兼ね備えている点が特徴です。
「ゴアテックス メンブレンは、内部に1平方センチあたり約14億個の微細な孔(あな)があり、蜘蛛の巣のような網目状になっています。この孔の大きさが、水の分子は通さないけど水蒸気は通すサイズなんです。」(伊藤さん)
ゴアテックス ファブリクスは防水性もさることながら、この透湿性により快適な着心地を実現しています。
湿気を逃がさないとビニールの雨合羽のように衣服内が蒸れて体が濡れてしまうため、長時間の着用には向かないというわけです。
ゴアテックス メンブレンのマイクロスコープ画像、水の分子は通さないけど湿気は逃がす構造の秘密。
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防水とはっ水の違いは?
雨対応のアウターでは「防水」と「はっ水」という文字をよく見かけます。ゴアテックス ファブリクスの3大機能のなかに「はっ水」はありませんが、この2つの違いは何でしょうか。
「防水性とは衣服内に水を浸入させないことで、はっ水性は表面で水をはじく機能です。ゴアテックス ファブリクスの機能性を補完するものとして、はっ水加工があります。
はっ水機能がなくても水が浸入することはありませんが、水が生地表面に広がってしまいます。水の膜ができてしまうので、湿気が抜けにくくなるんです。透湿機能が低下すると、自身の汗や体温で結局体が濡れてしまいます。」(伊藤さん)
体が濡れると体温が奪われてしまうので、本格的な登山などでは命の危険に関わります。
ゴアテックス ファブリクスを使用したウェアにははっ水加工が施されていますが、これは防水性を高めるためではなく、透湿機能のためだったとは驚きです。
はっ水機能がないと、写真の左部分のように水が生地表面に広がる。その結果、透湿性が失われるという。
ゴアテックスはメンテナンスが必要?
そんなゴアテックスの機能を長持ちさせるためにはメンテナンスが必要不可欠。とはいえ難しく考える必要はなく、着た後に「洗濯」すれば良いだけと伊藤さんは話します。
「アウトドアに出かけると結構ウェアは汚れるものなんです。雨や泥で外側に汚れが付くとはっ水機能が落ちてしまい、そこから水が広がって透湿性が失われます。
また、内側にも汗や皮脂による見えない汚れが付いています。ゴアテックスウェアは縫い目から雨が入ってこないように止水テープが貼られているのですが、汚れがたまるとテープが剥がれやすくなります。
剥がれてしまうと縫い目から水が入ってくることになり、防水ではなくなってしまうのです。」(伊藤さん)
でも、ゴアテックスウェアは洗濯すると劣化しそうなイメージを持っている人も多いはず。洗ったら壊れる、ひび割れる、剥がれるといった心配はないのでしょうか。
「ゴアテックス メンブレンは非常に耐久性に優れているため、洗濯ではびくともしません。貼り合わせた生地は洗濯機で何時間も洗うテストなども行っていて、剥がれないことも確認済みです。
そこはまったく心配ありませんので、私たちとしては“とにかく洗ってください、そうすることで結局長持ちしますよ”というお話をしています。」(伊藤さん)
ゴアテックス メンブレンは洗濯では損傷しない。それを聞いてひと安心ですね。メンブレンに穴が開かない限り、その機能をキープできるそうです。
そうなると、次に気になるのが洗濯の頻度。洗濯するタイミングはいつ?どれくらい着ると洗ったほうが良いのでしょうか。
「例えば、アウトドアに行ったら洗ってくださいという言い方をしています。その日に使ったTシャツはみなさん洗いますよね?それと同じ感覚で洗ってもらって大丈夫です。
日常のちょっとしたときに着ただけ、通勤で1日着ただけといった場合などは、毎回洗濯する必要はないと思います。でも、雨の日に着たり汗をかいたりした場合は洗ってください。」(伊藤さん)
大事なのは、とにかく汚れを残さないこと。表面の汚れを落とすことではっ水性も保てるため、結果として透湿性もキープ。ゴアテックス ファブリクスの機能が長持ちするというわけです。
ゴアテックス「アウター」のお手入れ方法
やっぱり洗濯が大事!ということが分かったところで、ゴアテックスウェアの洗濯方法を伊藤さんに教えてもらいました。
「メーカーやプロダクトによって推奨している洗濯方法が異なるので、必ず洗濯表示を確認して、それに従って洗濯してください。
注意点としては、表面の汚れをしっかり落とすこと。首元や脇、袖まわりも汗や皮脂で汚れがたまりやすいので念入りに。
また、洗剤残りがないようにしっかりすすいで落とすこともポイントです。液体洗剤は粉末と比べて落としやすいので、液体の使用をおすすめします。」(伊藤さん)
洗濯絵表示
- 洗濯は40℃を限度とし、手洗いができる
- 塩素系及び酸素系漂白剤の使用禁止
- 低い温度でのタンブル乾燥ができる(排気温度上限60℃)
- 日陰のつり干しがよい
- 底面温度110℃を限度としてスチームなしでアイロン仕上げができる
- ドライクリーニング禁止
- 弱い操作によるウェットクリーニングができる
(参考:消費者庁発行リーフレット)
「液温は40℃を限度とし、手洗いができる」の洗濯表示タグに合わせて、手洗いでの洗濯方法を紹介します。
洗う前にジッパーや面ファスナーを閉める
まず手洗いする前に、アウターのジッパーやボタン、面ファスナーなどを閉めておきます。こうすることで洗濯によるパーツの破損を防ぐとともに、生地へのダメージも軽減できます。
また、フードや裾にドローコードがある場合は、ひもを緩めてシワを伸ばしておくと良いでしょう。アタリが出るのを防ぐことができ、洗い上がりがきれいになりますよ。
ぬるま湯で優しく押し洗い
40℃以下のぬるま湯に液体洗剤を溶かし、アウターを押し洗いしていきます。もみ洗いだと生地が擦れて傷んでしまうので、優しくしっかり押し洗いしてください。
5分ほど押し洗いをして、汚れが浮き出てきたらすすぎを行います。先述したように、生地に洗剤が残っているとはっ水機能が低下してしまうので、しっかりすすいで汚れも洗剤も落とすことがポイントです。
すすぎ終わったアウターは、手で優しく絞って脱水します。
すすいだ後は日陰でつり干し
十分にすすいだ後、水を切ったら、日陰のつり干しでアウターを乾かしていきます。
また、ゴアテックスウェアは防水性が高く、はっ水性もあるので表面はすぐに乾きます。そのため、表面が乾いたら裏返して陰干しするのも効果的です。
熱処理ではっ水機能を回復!
表生地のはっ水性が落ちてきたと感じる場合は、洗濯・乾燥後に熱処理することではっ水性が回復します。
「はっ水加工が施されている生地の表面には、はっ水基と呼ばれる微小な柱のようなものが整列しています。
このはっ水基が整列して立っていると水をはじきますが、汚れが付くことで乱れたり倒れたりすると水をはじくことができません。汚れを落とし、熱を加えることではっ水基が立ち上がるため、はっ水機能が回復する仕組みになっています。」(伊藤さん)
乾燥機またはアイロンによる熱処理が推奨されているので、アイテムの洗濯表示に従って方法を選びます。
「底面温度110℃を限度としてスチームなしでアイロン仕上げができる」という洗濯表示に合わせて、今回はアイロンでの熱処理を行いました。
はっ水機能が回復すると水は広がらず、生地表面を玉のように転がる。
「アイロンの場合は、低温、スチームなしの設定で、必ず当て布をしてアイロンをかけてください。乾燥機の場合は、アウター乾燥後、さらに20分間温風乾燥してください。ちなみにドライヤーは温度が高すぎる場合があるのでおすすめしていません。」(伊藤さん)
また、洗濯ではっ水性が回復しない場合、着用中の摩擦によりはっ水加工剤がはげ落ちてしまったと考えられます。その場合は、再はっ水加工が必要になります。
再はっ水加工は、クリーニング店で行うのがおすすめ。はっ水加工のできるクリーニング店は多いので、ぜひ活用したいですね。
市販のはっ水スプレーは、密閉された部屋で使用した場合、その成分が気管から肺胞に付着して窒息するという事故が起きる危険があるので十分に気を付けてください。
ゴアテックスのコンディションを確認
洗濯すればゴアテックスの機能は長持ち。でも、ウェアはどんな状態まで機能が保てるのでしょうか。コンディションの確認方法を教えてもらいました。
「生地の破損はもちろんですが、止水テープが剥がれた場合も水が浸入するリスクが高まるので、アウトドアには使用しないほうが良いですね。ただ、防風性や透湿性はあるので、普段の防寒着としては問題なく使えます。」(伊藤さん)
あとは、はっ水性が落ちて、はっ水機能が回復できなくなった場合も要注意。防水性はキープできるものの、水に濡れると冷たく感じ、重くて不快な着用感になってしまうそうです。
「何年使えるんですか?いつが買い替えどきなんですか?という質問をよく受けるのですが、大切にきちんとメンテナンスしながら使っていれば、機能を保ったまま長く着られます。10年使っていますという方にもお会いしたことがあります。
ただ、使えるとは思うのですが、購入してから10年経つ頃には、おそらくもっと軽くて、もっと透湿性も良い、機能性がアップしたゴアテックス製品があると思います、というお答えをしていますね。」(伊藤さん)
アウトドアで着ることが多いゴアテックスウェアは、メンブレンより先にほかの部分がダメになる場合がほとんどだとか。普通の服も10年着ればボロボロになることを考えると、当然と言えば当然ですね。それが買い替えタイミングでもあるわけです。
とはいえ、伊藤さんのお話から、ゴアテックスウェアは洗濯することで長持ちすることが分かりました。
“ゴアテックスは洗わないほうが良い”は完全な迷信。これからはしっかり洗って、機能と快適な着心地をキープして、ゴアテックスウェアを存分に活用したいですね。