ルコックスポルティフのデザイナーが語る、スポーツとファッションの共存

  • 2020/11/30 (月)
  • 2023/12/06 (水)

ルコックスポルティフの新シグネチャーデザイン※「ソレイユ・スワソン」。ブランドのアイデンティティを改めて見つめ直して追求し、“ルコックスポルティフらしさ”が詰まった象徴的なデザインが打ち出されました。

※シグネチャーデザイン:ブランドの象徴的な、顔となるデザイン。今回のプロジェクトでは、それを見たら、ルコックスポルティフだ!と分かるような、デザインを考案した。

今回はそんな「ソレイユ・スワソン」のデザイナー3名へインタビューを実施。

開発エピソードや裏話を交えながら、ロゴマークやデザインに込められた想いなど、デザイン開発に関わる貴重な裏話を本音で語り合います。

対談中にはロゴマークの三角形にかけた「3」をテーマに、それぞれがこれまでに手掛けてきたプロダクトを回想する一幕も。

長きにわたりフランス最古のスポーツブランドとして歩んできたルコックスポルティフの歴史やターニングポイントを振り返りつつ、未来への展望もトークしてもらいました。

デザイナー3人が振り返るルコックスポルティフ。歴史に名を残したブランドの魅力とは

話し合う結城氏らの様子

――皆さんは、ルコックスポルティフのどのような点に魅力を感じて入社しましたか?

麻谷:僕は学生時代、メンズのプレタポルテ(高級既製服)を作りたくてモード系のブランドに就職しようと考えていました。でも、メンズ服の専攻で学んでいくうちに、就職活動で巡り合ったのが、ルコックスポルティフでした。

スポーツをするタイプではありませんでしたが、フレンチカジュアルが好きだったので相性が良かったんだと思います。後になってから気付いたのですが、自分のなかでヨーロッパへの憧れがあったこともあり、感覚的につながっていたんじゃないかなと思いますね。

伊藤:僕の場合は、もともとファッションに強い関心があったというよりも、ただ絵を描くことが好きでデザインの道に進みました。スポーツをやっていたのでジャージやトレーニングウェアを着る機会が多かったですが、当時はファッションとしてではなく、あくまで実用的なものとして捉えていました。

ルコックスポルティフは応援していたプロのサッカークラブが着ていて、なじみ深いブランドの一つでした。いつか自分も、地域のサッカークラブのウェアをデザインしたいという夢を持っていたのを覚えています。

話している麻谷氏ら

麻谷:やはりスポーツブランドのデザインというのは、人それぞれ入り口は千差万別ですね。スポーツはするけどファッションは分からなかったり、ファッションが好きでもスポーツは全然しない人もいて。

伊藤:確かに。それに当時は、初めから「スポーツウェアのデザイナーになろう」と考える人は多くなかったような気がします。今だからこその選択肢、という感じ。

――ファッションとスポーツが共存するようになったのは、いつ頃なのでしょうか?

麻谷:2000年代前半くらいじゃないでしょうか。それまで、スポーツウェアを普段着としてライフスタイルに取り入れよう!というアプローチは、あまり見かけなかったような気がします。

街中でサッカーのジャージを着る人はいても、意図的に日常で着るために作られたスポーツファッションというカテゴリーは、少なかったように思います。

――結城さんはルコックスポルティフへの印象はいかがでしたか?

インタビューを受ける結城氏

結城:僕はもともとマンシングウェアというゴルフのブランドを担当していて、上海で2年半ほど企画に携わった後に、日本に戻りルコックスポルティフに異動になりました。

マンシングウェアはアメリカ色がすごく強いブランドなのですが、僕はどちらかというとヨーロッパ系のファッションが好み。ルコックスポルティフに対しては、白を基調とした清潔感があるブランドだな、というイメージを持っていて、異動が決まってわくわくしたのを覚えています。

麻谷:ヨーロッパブランドが好きだったのなら、結果的に「引き寄せられた」といっても良いかもしれないね。

結城:そうですね。今でも、ルコックスポルティフに携われることを心からうれしいと思っています。

――スポーツファッション業界をけん引してきた、ルコックスポルティフ。その歴史や印象的なできごとを聞かせてください。

ルコックスポルティフのシューズを持つ麻谷氏

麻谷:ルコックスポルティフってすごくニッチなブランドだったので、80年代には特に、少しマニアックで個性的な方々が着用していた印象でした。世界的な有名人が着ていたという歴史も残っていて。

それから、当時フランスではヒップホップやレゲエなどの音楽カルチャーが盛んでした。フランス人は特に、新しいことや意外性のあるものに敏感だったのかなと思います。だからこそ、彼らの目には、ルコックスポルティフのデザインがより新鮮に映ったのではないでしょうか。

伊藤:当時人気だったサッカー選手が所属しているチームのユニフォームもサプライしてましたね。

スポーツ業界とファッション業界をつなぐ存在。デザイナー視点で分析するルコックスポルティフの今

インタビューに答える麻谷氏

――現在のルコックスポルティフは、スポーツ業界とファッション業界それぞれにおいて、どんなポジションにいると考えていますか?

伊藤:さまざまなブランドがありますが、各々ブランドならではのポジションがあると思うんです。シルエットや機能性、着心地など、大切にしたい要素はたくさんありますが、ルコックスポルティフはフランスのブランド。

特に重要視しているのは、やはり「デザイン」でしょうか。0コンマ何秒を競うようなスポーツウェアとは、少し違った系統なのかなと思っています。

麻谷:僕らがやろうとしているのは、“スペック主義”ではなく“デザイン主義”。「コンフォート(=快適性)」と言うと「機能性」として捉えられることもありますが、僕たちはもっと情緒的なものを指しているんです。

――「着ていてかっこいい」「着心地が良い」という気持ちの部分ですね。

インタビューに答える伊藤氏

伊藤:そうですね。フランス人は、スポーツを楽しむものだと捉えているんですよ。勝ち負けもスポーツを楽しむうえで重要ですが、それだけではない。そういったブランドのルーツにまつわることは、デザインにもどんどん取り入れていきたいと思っています。

麻谷:それから、重要なキーワードが「エシカル」。環境に順応し配慮していく、倫理的という意味の考え方ですね。今の時代に沿ったメッセージをのせて発信していくというのも、デザインにおいては大切なことですよね。

――ここでルコックスポルティフのロゴマーク三角形にかけて、これまでに成功したと感じるプロダクトのベスト「3」をお話いただけますでしょうか。

ルコックスポルティフのシューズ、エウレカ

麻谷:僕はフットウェアの担当だったときに、ずっと「モンペリエ」というモデルに縛られてしまっていて、新しさや変化を模索し続けていた時期があったんです。

そのとき、起死回生のきっかけとなったのが、87年製の「エウレカ」というシューズ。偶然、フランスの古着屋さんで入手して、分解してイチから作ってみたことで道が開けたんです。

新たなセレクトショップに商品を置かせていただくきっかけを作れた、奇跡のような出会いでした。「モンペリエ」の呪縛は自身にとって長い期間だったので、克服できたことは成功の一つかなと思います。

モンペリエは、「ルコックシューズ=モンペリエ」と言っても過言ではないほどに愛され続けてきたモデル。今シーズンからはさらに内装構造を見直し、フィッティング性の向上を図った。


ルコックスポルティフのシューズ、イエナ

それから作ったのが、パンプスとスニーカーが融合した「イエナ」というシューズ。2011年に起こった震災のタイミングだったのですが、店頭ですぐなくなるほどヒットしたことも記憶に残る思い出です。

ルコックスポルティフのシューズ、アーサーアッシュ

その流れもあって、セレクトショップとのコラボレーションも実現しました。1980年代に人気を集めたテニス選手アーサー・アッシュのシグネチャーシューズ※の再現ができたんです。

※シグネチャーシューズ:各分野の著名なスポーツ選手の名前が付いたモデルのこと。本人が使用している特別な仕様と同じか、一部仕様を簡易的にしたものを一般向けに販売する。

ルコックスポルティフのウェア

伊藤:今も継続中なのですが、やはり他社とのコラボレーションが印象に残っていますね。実は、異業種の企業とのつながりも多いです。

直近では、日本人がニューヨークで立ち上げた「CHARI&CO」という自転車カルチャーのブランドとコラボレーションをしました。もともと僕が好きなブランドで、アメリカとフランスという関係性ではあるけれど、サイクリングという共通のワードがあることで意気投合しました。

そのときも間を取り持ってくれたのが先ほどと同じセレクトショップで、コラボレーションした商品は実際にそのセレクトショップで発売されて、個人的にも感慨深かったですね。それぞれの業界にお互いの存在を知らせることができて、非常に有意義だったなと思います。

あとは少し前にテレビを見ていたら、あるミュージシャンがルコックスポルティフのキャップをかぶってくれていて。ファンサイトから「一緒に仕事しませんか」とご連絡してみたところ、すぐに返事をいただけました。彼のライブの衣装などを提供できるようになったことはうれしい思い出です。

それから今回の「ソレイユ・スワソン」。若い世代にも親しんでいただけていると聞いているので、本当に狙い通りだったなと思っています。

ソレイユ・スワソンシリーズのウェア

結城:まだあまりルコックスポルティフで商品を作った経験がないのですが、僕も「ソレイユ・スワソン」は自分の中でもすごく印象深いプロダクトでした。ブランド全体が1つになっていくというきっかけとして、良い経験だったなと思います。

麻谷:結城くんのように、ゴルフについてのノウハウをもって僕らのところに来てくれると、それらを取り入れてどんどん新しいことができる。それも、ブランド内のさまざまなスポーツカテゴリが協力し合って、この「ソレイユ・スワソン」に取り組めたきっかけですね。

ブランドを象徴する「ソレイユ・スワソン」のデザイン。60度のラインが示す、ルコックスポルティフの揺るぎない信念

ソレイユ・スワソンシリーズのシューズ、ウェア

――「ソレイユ・スワソン」を立ち上げるに至った経緯をお聞かせください。

結城:最近、ルコックスポルティフらしい商品を打ち出せていないのではないか、という悩みから「ルコックスポルティフらしい商品を作ろう」というテーマが持ち上がりました。

改めてブランドの“らしさ”ってなんだろう?と見つめ直したことがきっかけです。

ルコックスポルティフのロゴの資料

結城:過去の資料をさかのぼっていくと、左右非対称であったり、斜めにラインが入っていたりといった「アシンメトリー」なデザインが共通しているなと思ったんです。

これが一つのアイデンティティなのかな、と思ったのが今回のデザインの始まりですね。

――デザインについて、どういったところにこだわりを持っていらっしゃいますか?

ルコックスポルティフのロゴマーク

企画書に並ぶロゴマークの変遷のうち、一番左のものが初期デザイン。

結城:ルコックスポルティフの初期のロゴマークは、朝日に向かって雄鶏が歌っているというモチーフで、「一日の始まり」を表したものでした。

形は60度の正三角形と決まっていて、3つに結ばれた様子は創設者とその父親、そして子どもとの絆を意味しています。

ソレイユ・スワソンシリーズのシューズ

結城:「ソレイユ・スワソン」は、そんなロゴマークに込められた意味や想いをデザインに落とし込みました。フランス語で「ソレイユ」は「太陽」、「スワソン」は「60」のことです。

太陽の光を表す斜め60度のラインが、アシンメトリーに入っている。これをデザインで再現することで、“ルコックスポルティフらしさ”を出すことにしました。

――なるほど。鮮やかなトリコロールカラーも、ルコックスポルティフらしさを感じさせていますよね。

ソレイユ・スワソンシリーズのパーカー

伊藤:おっしゃる通りです。トリコロールカラーは、フランスを象徴するカラーリングですからね。ちなみに、ベースが白い生地の場合は、赤と青の2本のラインに見えますが、もちろんトリコロールカラーの配色を意識しています。

結城:そうですね。アシンメトリーとトリコロールカラー、そしてブロッキングという生地を切り替えるデザインワーク。これらが1つでも欠けてしまうと、やはり“らしさ”が出ないだろうという想いがありました。ルコックスポルティフらしさを「見つけに行った」という感覚ですね。

――「ソレイユ・スワソン」は、どんな方に着てもらいたいシリーズですか?

ソレイユ・スワソンシリーズの上下セットアップ

伊藤:ルコックスポルティフを知らない方や若い世代の皆さんに手に取ってもらいたいですね。そしてブランドの歴史や背景をもっと知ってもらえればと思っています。

今回の「ソレイユ・スワソン」を通して、改めて“自己紹介”ができるのではないかな、なんて。僕らが大切にしているブランドの信念やルーツみたいなものを伝えられるデザインに仕上がっていると思います。

ソレイユ・スワソンシリーズを着用するモデル

ソレイユ・スワソンシリーズを着用する男性モデル

「ソレイユ・スワソン」が紡ぎ出すルコックスポルティフの未来。キーワードは「ニッチャー・コアアイテム・スマート」

店を出る3人

――「ソレイユ・スワソン」を通じて、どんなことを感じましたか?

伊藤:すごく意義があるなと思ったのは、1つのデザインコンセプトについて、ルコックスポルティフが展開するすべての競技カテゴリーが一体となって取り組めたこと。これは初めての試みだったように思います。

ブランド内のコミュニケーション活性化にもつながって、カテゴリーの違うこの3人が今この場に集まって活発にいろいろと言い合えているというのも新鮮ですよね。

麻谷:これまではサイクリングやゴルフ、テニスなど、スポーツごとにカテゴライズされていましたが、今回はデザインコンセプトの取り決めから素材選び、テイストまでを共通して話し合うことができましたよね。

伊藤:80~90年代のテイストも違和感なく取り入れている点もぜひ注目してほしいです。歴史はブランドにとって財産でもありますが、新しいことが取り入れにくかったり、変化することが難しかったりもするんですよ。

でも、伝統は進化していかなければ守れない。それを伝えていくことも僕たちの役目だなと改めて感じています。

結城:そうですね。今あるものだけをすべて肯定していても、それはいずれ過去のことになってしまいますから。過去のことを現代的に解釈していくことで、未来に進んでいくことができるのではないかと僕も思います。

――最後に、ルコックスポルティフの未来を示すキーワードを「3」人からいただけますでしょうか。

麻谷:特定の領域で地位を築く「ニッチャー」として、ナンバーワンであるカテゴリーを作る。このアイテムならルコックスポルティフじゃないとダメだと言っていただけるようになりたいですね。そのきっかけの一つが「ソレイユ・スワソン」だったら良いなと思います。

伊藤:ブランドの「コアアイテム」を強みにする。ルコックスポルティフと言えばこれ!と印象付けられるアイテムを確立して、土台にしていくことが目標ですね。

今まさに「ソレイユ・スワソン」を通してスタートしたばかりです。歴史は長いですが、ブランド力はまだまだ上げていけると思っているので、向上心を忘れずに進んでいきたいと思います。

結城:ルコックスポルティフって、やはりすごくスマートなブランドだと思うんです。その魅力がもっと広まってほしい。近い未来に、ルコックスポルティフはスマートだともっと多くの方に認知していただく…そのための努力は惜しまないつもりです。

*「SOLEIL SOIXANTE(ソレイユ・スワソン)」
伝統を守りながら、いつの時代も新しさを追求してきたルコックスポルティフ。新シグネチャーデザイン「ソレイユ・スワソン」は、価値観が変化していく今、私たちのアイデンティティをもう一度見つめ直し、世界に発信するために誕生しました。ブランドのシンボルであるロゴには、創業者エミール・カミュゼと息子・娘の絆を表した三角形、フランスの国鳥でもある雄鶏が朝日に向かって歌う姿が描かれています。そのロゴから60度のラインをモチーフに、大胆にデザインしました。声高らかに歌う雄鶏のように、前を向いて一歩踏み出そうというメッセージを込めています。

<プロフィール>

プロフィール写真

結城亮(写真左)

2007年入社。ゴルフブランド「マンシングウェア」を手掛け、カジュアルラインである「ペンギン バイ マンシングウェア」の立ち上げに携わる。その後、上海で2年半にわたり企画を担当。帰国後にルコックスポルティフへ異動、現在は同ブランドのゴルフを担当中。

伊藤良太(写真中央)

1996年入社。バッグや雑貨、テニスウェア、サッカーウェア、サイクリングウェアなどさまざまなカテゴリーを経験。現在はブランド全体を統括する立場として、アジア各国で活躍するデザイナーをまとめ上げ、時代にあったプロダクトを提案している。

麻谷優次(写真右)

1999年入社。3年間、アパレル部門でテニスのカテゴリーを担当し、のちにフットウェアの開発チームを立ち上げる。現在はフットウェアのデザイナーを務める一方で、ブランディングにも力を入れている。

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