靴職人・五宝賢太郎氏が語る、「クラフテッド スニーカー」と「メンズシューズのこれから」

  • 2020/08/28 (金)
  • 2023/12/06 (水)

近年、気候変動やエコ活動の視点からクールビスが進み、健康増進の流れからスニーカー通勤が推奨されるなど、男性のオフィスでのスタイルも変化してきています。

さらに、働き方改革の推進や、「ワーケーション」をはじめとする仕事とプライベートの時間共有といった変化も見られるようになってきました。

そんななか、フランス生まれの歴史あるスポーツブランド「ルコックスポルティフ」は、社会環境の変化に着目し、働く男性のこれからの靴を考案。新しい需要や価値を見出すことで、ビジネスとカジュアルの相反するシーンの両立をかなえる「クラフテッドスニーカー」にたどり着きました。

今回は、クラフテッドスニーカーの開発パートナーであり、靴工房「GRENSTOCK」を営む靴職人・五宝賢太郎氏にインタビュー。

靴職人としての知識や豊富な経験だけではなく、フランス文化にも詳しい五宝氏の視点で、「クラフテッドスニーカーの開発背景」「ソーシャル時代におけるシューズの選び方」について語っていただきました。

スポーツブランドがソーシャルマーケットに向けて発信・提案する「クラフテッドスニーカー」プロジェクトとは?

――今回、クラフテッドスニーカーの開発パートナーとして、「ビジネス×カジュアル」を両立した靴づくりをサポートされました。まず、ルコックスポルティフから打診を受けたときはどういった印象を受けましたか?

五宝:私自身、今回のお話をいただく以前からルコックスポルティフのファンでした。だから率直に、“片思い”が成就したなと喜びを感じました(笑)。

近年は最先端の技術を搭載したスニーカーがたくさんありますけど、タウンユースではオーバースペックな部分もあったり。その点、ルコックスポルティフはほど良いバランスでものづくりされていらっしゃいます。

都市生活に最適な“アーバンタウンユース”にすごくフィットするブランドだと思いますし、そうした上手な力加減こそが、ルコックスポルティフの好きなところですね。

――ご自身で作る靴とクラフテッドスニーカーとでは、意識の向け方に違いはありますか?

五宝:ルコックスポルティフが普段作っている靴と、クラフテッドスニーカーでは方向性に大きな違いがあります。どちらかというと、私が普段している仕事とクラフテッドスニーカーは結構似ているかもしれません。

通常、スポーツメーカーはタウンユースやアウトドアユースといった「マーケット」や、ゴルフや陸上といった「競技用」など、大きな枠の中でものづくりが始まります。そして、年に何回かある展示会と合わせて商品を試作しています。

一方で今回のクラフテッドスニーカーは、「世の男性はどんなことに困っていて、それを解消するためにはどうしたら良いのか?」ということから製作が始まりました。自分たちが考えている思考を形にしてから、「さあどうだ!」と提案する手法は、普段の私のスタイルに近いと思います。

――なるほど。クラフテッドスニーカーの目的と五宝さんのスタイルがマッチしているからこそ、両者がタッグを組む意義があったのですね。

五宝:クラフテッドスニーカーは、「靴にまつわる過去の歴史」と「足の構造・動き方」を融合させたうえで、現代社会の需要に合うようにアウトプットしました。

また、フランス生まれの「ルコックスポルティフ」らしく、フランスの上品さ、スポーツの爽やかさ、歴史から生まれる伝統的なイメージを体現しています。

日本では「クラフテッド」と聞くと「ハンドクラフト=手工芸」のイメージが強いと思いますが、本当は「思考をいかに具現化できるか」という意味。つまり、「クラフテッドスニーカー」には「思考を具現化した靴」という意味があるんです。

生活スタイル・ファッション・TPOに合わせて靴を選ぶ。「クラフテッドスニーカー」の2つのデザイン

――クラフテッドスニーカーはどんなライフスタイルの方におすすめですか?また、1stコレクションで発売される2タイプのモデルについてお聞かせください。

五宝:今私が履いているのは「LCS RC PROMENADE」というモデルです。例えば、自転車で通勤して仕事帰りにはバッティングセンターでひと汗流す。そんなアクティブな方にぴったりな1足だと思いますね。

もちろん、オンタイムに商談を交わすのにも問題のないデザインです。

――見た目はシンプルで、ビジネスシーンでも違和感なく使用できそうですね。デザイン面でこだわった点を教えてください。

五宝:靴にはフォーマルな「内羽根」、カジュアル寄りの「外羽根」という2つのデザインがあります。「LCS RC PROMENADE」はビジネスシューズという前提がありますが、フィット感の調節が容易でアクティブに動ける外羽根を採用しました。

さらにそれをルコックスポルティフに落とし込むということで、フランスの革靴カルチャーをモチーフにしています。そのため、「LCS RC PROMENADE」を見ると「フレンチだね」って言う人もいらっしゃると思いますよ。オリジナリティも大切にしつつ、時代背景やカルチャーに敬意を示したデザインを意識しました。

――伝統が反映されたデザインなんですね。フランスカルチャーへのアプローチはどの部分に表現されていますか?

五宝:アメリカやイギリスで作られる外羽根の革靴は、靴ひもを通す穴は5ホールというのが決まり。一方で、フランスは4ホールであったり6ホールであったりと自由なんですよね。

そんなフランスの伝統にならい、クラフテッドスニーカーの靴ひもを通す穴は4ホールにしています。

――もう一方の「LCS RC PASSAGE」は、よりスポーティーな雰囲気ですね。

五宝:そうですね。こちらのモデルは、より現代的でスポーティーなイメージを意識して設計しました。「LCS RC PROMENADE」と木型やソールの仕組みは同じなので、履き心地も変わらず安定しています。

――カラーは白と黒の2色展開。これはファッションの合わせやすさを重視されたのでしょうか?

五宝:プロジェクトのスタートである現段階では白と黒に絞り、あえてシンプルにしました。将来的には、セレクトショップやドメスティックブランドとのコラボレーションが展開される予定です。

ルコックスポルティフの靴というよりは、ソーシャルマーケットに合わせられる「優秀な素材」として考えてもらえると良いですね。

――「優秀な素材」とのことですが、機能面ではどのような工夫をされたのでしょうか?

五宝:一番にこだわったのは、「かかと」の部分です。自覚していなくても、実はかかとの骨が歪んでいる人はたくさんいるんですよ。靴は1つの履き口から真っ直ぐに履くので、強引に合わせると前のほうがズレて、ひずみが足全体に出てしまいます。

今回はそれを防ぐために、今までかかとを固定していた「ヒールカップ」を取り外しました。ヒールカップの代わりに、かかとの位置を調整するクリップ型の「ヒールカウンター」を採用しています。

――固定せずに、かかとを開放したほうが安定するのですね。

五宝:仕組み的には女性のパンプスによく見られる、かかと部分にベルトを回してバックルなどで締めて固定する「バックストラップ」と同じです。ストラップがあると、前だけで留めるよりも安定して一気に履きやすくなりますよね。

――底の部分にも工夫があるのでしょうか?

五宝:外羽根のビジネスウォーキングスニーカーって、靴底が真っ直ぐなものが多いんですよ。クラフテッドスニーカーには「サイドリガー」という、横の動きを止める部分を付けました。

そうすることで横に体重が逃げず、前にしっかり蹴ることができる形状になっています。クッション部分には、かかとは柔らかく前は反発する素材を使っているので、動きやすくて疲れにくいのも特徴です。

「メンズシューズをもっと自由に」。ルコックスポルティフと五宝賢太郎氏が共感する、ソーシャル時代の靴選び

――最近では、エシカルやサステナビリティという思考が広まっています。そんななかで男性が靴を選ぶときの意識の変化を感じることはありますか?

五宝:もともと紳士靴は、修理しながら30年40年と長く履けるものです。言ってみれば、その時点でエシカルもサステナブルも兼ねていますね。

しかし、素材に関して言えば難しいところです。例えば、スニーカーの素材は大抵ケミカルなものですが、それを廃止することがサステナブルなのか?という点についてはさまざまな考え方があるのではないでしょうか。

あるブランドの製品は動物の皮を一切使わず、すべて合皮製であることをうたっています。「全部合皮にすることによって、動物を殺さないということがエシカル」というのが、そのブランドのデザイナーの考え方なんですよね。

――確かに何が自分にとってエシカル、サステナブルなのかは人によって意見が分かれるところですね。

五宝:そうですね。環境や教育によっても概念は変わりますから。

でもみんな同じ考えを持っているわけではなくとも、姿勢としてちゃんと自分なりの答えを持っていれば理解し合えると思います。結局、一人ひとりがどのように気を付けるかということが大事なので。

日本はそうした部分では少し遅れていて、マーケットが示せていないと感じています。先端のマーケットに行くと、生産の透明性を意味する「トレーサビリティ」が重要視されています。

日本では農業・食・建築分野ではできているんですけど、生活用品は単純に生産された場所が書かれているだけなので、まだまだここからですね。

しかし、ルコックスポルティフはエシカル、サステナブルという視点を大切にしていて、さらに深く探求していけるブランドでもあると思います。

――これからの時代におけるメンズシューズの理想の在り方ついて教えてください。

五宝:「本当に良い靴とは何か?」と聞かれたら、私は「玄関の真ん中にある靴が一番良い靴だ」と思うんですよ。気兼ねなくパッと履いて、そのまま「コンビニに行ってきます」と言えるような。

そもそも、今まではオンとオフに履く靴が不一致すぎたのかもしれません。ビジネスというはっきりしたカテゴライズがあるからこそ、革靴を下駄箱にしまったり、お手入れしたりすることが必然的になっている気がします。

しかし最近では、ジャケパン(テーラードジャケット+パンツ)で仕事する男性も多く、カジュアルにカフェでミーティングしているシーンもよく見られますよね。オンとオフの境界線が緩やかになってきていて、縛りがなくなってきたのではないでしょうか。

新型コロナウイルスの影響でテレワークが推奨されたことも、より自由なビジネススタイルの追い風になるでしょうね。

――ということは、今はサステナビリティに向きやすい時代ではあるんでしょうか?

五宝:そうですね、サステナブルがもっと身近になるんじゃないかなと期待してますね。男性は平日と休日で違うシューズを履いていましたが、今後はますますスニーカータイプが増えていくのかもしれません。

今回のクラフテッドスニーカーのモデルは、まさにビジネスとカジュアルの真ん中に位置するもの。極端に言うと1週間で最低2足必要だったものが、1足で済む可能性もありますよね。下駄箱の整理にもなりますし、ミニマルな思想ともマッチするのではないでしょうか。

そして一つひとつの製品に対して敬意を払い、長く、大切に使っていく風潮になったらもっと良いですよね。

――ありがとうございます。最後に、クラフテッドスニーカーが出展される「ISETAN靴博2020」について教えてください。

五宝:伊勢丹メンズ館の毎年恒例となっているイベントで、今年は8月26日から31日まで開催されます。

今年は「シューズテーマパーク」というテーマのもと、製造から販売、修理などといった靴の一連のサイクルが会場内で表現されます。

スポーツブランドが作るシューズはテクニカルな部分に注目されがちですが、今回は「クラフテッド」という思想自体を表現したいと思っています。私はブースにミシンを持ち込んで、スニーカーを目の前で作るというインスタレーションをやる予定です。

クラフテッドシューズがもっと身近に感じてもらえるような…量販品ではできない新しい魅せ方ができたら楽しいですね!

<プロフィール>

靴職人 五宝賢太郎

靴職人 五宝賢太郎

1981年徳島県生まれ。国立茨城大学生活デザイン科に進学し、在学中に埼玉県蕨市の靴匠、稲村有好氏に師事。2010年、蕨市にオーダーシューズとシューリペアを専門とする「GRENSTOCK」を設立。2016年には六本木にリペア専門の2号店をオープン。日本を代表するクリエイターとして注目され、ドラマ「陸王」では足袋型シューズ開発の監修も務めた。自身のブランドや海外メゾンの高級靴を手掛ける一方で、「週に1、2足は買う」ほど大のスニーカー好きな一面も。

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