東京・上野にあるミタスニーカーズは、日本はもちろんのこと、世界中のスニーカーファンから支持を得ているスニーカーセレクトショップ。
ミタスニーカーズが手掛けるコラボレーションモデルや別注モデルは、リリースされる度に話題を呼びます。その中心を担っているのが、クリエイティブディレクターの国井栄之さん。
過去にルコックスポルティフとのコラボレーションモデルをいくつも手掛けている国井さんに、ルコックスポルティフのスニーカーについて、そして30周年を迎えるLCS Rシリーズについて話を伺いました。
国井さんとルコックスポルティフの関係が深くなったのは、日本企画として復刻され、2016年1月に発売された「EUREKA(エウレカ)」がきっかけでした。
「それ以前にもメンズ市場の開拓のために何かできないかという相談は受けていたのですが、タイミングなどの問題で実現していませんでした。
発表される数週間前ぐらいだったと記憶しているのですが、復刻されるというEUREKAのサンプルを見て、純粋にコレは良いんじゃないかと思ったんです。
伸び代を感じるし、日本の市場にもフィットするはずだから、EUREKAに注力してプッシュしていきませんかというお話をさせていただきました。」
その後、「EUREKA」や「LCS R 900」のカラーディレクションを経て、「LCS R 921」「PLUME X RUN(プリューム エックス ラン)」といった、ミタスニーカーズとルコックスポルティフのコラボレーションモデルが誕生することになります。
「『LCS R 921』はLCS Rシリーズのなかでも最もポピュラーだった『LCS R 1000』のアッパーに最新のツーリングをハイブリッドさせたモデルで、設計から携わらせていただきました。
『PLUME X RUN』は、その『LCS R 921』のツーリングに、ルコックスポルティフの名作フットボールスパイク『PLUME PIXY』からインスピレーションを得たアッパーを組み合わせています。
当時、僕の周囲の友人たちは仕事の後に集まってよくフットサルをしていたんです。フットサルコートにはスケートボードやピストバイクでやってきて、プレーが終わった後もボールを蹴りながら道端でしゃべっている。そんな彼らのライフスタイルにフィットするものをイメージして作りました。
ルコックスポルティフはフットボールや自転車のイメージがあるブランドなので、そのイメージにもマッチしたプロダクトだったと思います。」
現在のスニーカーシーンで、ルコックスポルティフはどのような位置にあり、どのような人たちに支持されているのでしょうか。
「今から5年ぐらい前、スニーカーシーンの第三勢力としていくつかのブランドが注目されていて、ルコックスポルティフはそのなかの一つでした。そのときに新しさ、新鮮さを感じてひかれた若い世代のスニーカーファンに支持されているというのはあると思います。
特にこれだけ情報があふれていて、毎週のように 限定モデル、コラボレーションモデルがリリースされているなかで、ルコックスポルティフをチョイスする人は、しっかりと自分の価値観でものを選んでいる人なのだろうなと思います。
実際にミタスニーカーズでルコックスポルティフを選んでいく若い子たちは、流行っているものを制服のように身に着けているタイプではなく、チープな言い方かもしれないですけど特有のセンスを感じる。どうしてそのスニーカーを選んだのかちょっと話を聞きたくなるような感じなんです。」
ルコックスポルティフを代表するランニングシューズ、LCS Rが今年30周年を迎えました。それを記念して「LCS R 800 Z1」「LCS R 888」というモデルが登場しました。
「LCS R 800 Z1」は、LCS Rシリーズのなかでも特に人気のある1990年代に誕生した「LCS R 800」を、ルックスはそのままに履き心地を現代的にアップデートしたモデル。
「LCS R 888」は、「LCS R 800」と「LCS R 1000」をベースにそれぞれのアイデンティティを現代的に再解釈してデザインされたシューズです。国井さんに、LCS Rシリーズの魅力を伺いました。
「『LCS Rシリーズ』のRはランニングのRなので、カテゴリーとしてはランニングシューズになります。僕はランニングカテゴリーのシューズって花形だと思っているんです。
というのも、走らないスポーツって基本的にないんです。プレー中はほとんど走らない競技、裸足で行う競技でもトレーニングでは走るので、ランニングカテゴリーのシューズはどのスポーツにも密接にリンクしていると言えます。
それから、ほかのカテゴリーのシューズと比べると接地面が同じということもあって、日常で履いたときにツーリングのクッション性や屈曲性 といったブランドが訴えている機能を体感しやすいと思うんです。だから、ブランドを比較する際の物差しになりやすいんですよね。
ルコックスポルティフは、最先端のランニングシューズを開発しているわけではないですが、過去のモデルをベースにしながら現在のタウンユース用にリノベートした現在のLCS Rシリーズはコンフォータブルに昇華されていると思います。」
「LCS R 800 Z1」と「LCS R 888」は、国井さんの目にどのように映っているのでしょうか。
「『LCS R 800 Z1』のOGカラー、特にエメラルドグリーンを差し色にしたホワイト/ネイビーのモデルは、とてもルコックスポルティフらしいシューズだなと思います。
『EUREKA』のOGカラーもそうなのですが、ルコックスポルティフはエメラルドグリーンをアクセントに使うイメージがあるんです。
なので、カラーディレクションやコラボレーションをするときも色味は変えていますが、グリーンを意識的にポイントカラーで使っていました。
アッパーのデザインは当時のまま、ツーリングが現代的にアップデートされていて、タウンユースとして汎用性に長けたモデルだと思います。
一方の『LCS R 888』ですが、『LCS R 800 Z』と共通のツーリングを使いながら、アッパーのデザインでこれだけ雰囲気を変えられるのは秀逸だなと感じました。多くの人にブランドを知ってもらうためにもラインナップに必要なモデルという印象ですね。」
ミタスニーカーズのクリエイティブディレクターとして、今後のルコックスポルティフのスニーカーは、よりルコックスポルティフらしさを打ち出したものを期待したいと国井さんは言います。
「ヒストリーでもテクノロジーでも良いのですが、“らしさ”があれば生き残れるし、スニーカーファンからも求められると思います。世の中の流れとしてビジネスでは効率化が求められていて、新規開発にも制限がかかるとは思うのですが、スニーカーファンが求めているのは非効率なものだったりもします。
仮に最初は非効率だったとしても、それが世の中に広がって、アーカイブとして残り続ければ、使い捨てのように消費されていくものよりも、結果的に効率の良いものになると思うんです。
どこかの真似ではなくて、ブランドのアイデンティティを大切にしながら、ルコックスポルティフの歴史に残る未来のアーカイブを作ってほしいなと思います。
進化を続けられるのがスポーツブランドの魅力だとも思うので、ファッショントレンドに迎合するのではなく、独自色のある新しいプロダクトを生む挑戦を続けてもらえたらうれしいですね。」
最後に、コロナ禍の影響や、世の中のデジタル化が加速するなか、スニーカーショップはどのような場所になっていくのか、国井さんの考えを伺いました。
「デジタルでの打ち出し、オンラインでのコミュニケーションというのはますます重要になってリアル店舗の在り方自体が問われていくと思いますが、一方でオフラインの価値が高まる側面もあると思っています。
最近、駄菓子屋のようなスニーカーショップが理想的かなと思っていて(笑)。近くを通るとのぞきたくなる、お店に入ったらワクワクするし、友達と行くと楽しくて、大人は子どもを連れて行って好きなものを選ばせてあげたくなる場所というイメージです。
子どもの頃を思い出すと、駄菓子屋で何をチョイスするかって個性が出ましたよね。一点豪華主義みたいなバジェットの使い方をする子もいれば、毎回同じお菓子を買う子、新しいものがあったら絶対に試す子もいて。
共通点は選ぶ作業をみんなすごく楽しんでいたし、なんかそこには選択の自由があったじゃないですか。ミタスニーカーズもそんな風に、スニーカー選びを楽しめる場所でありたいと思いますね。」
<プロフィール>
国井栄之
1976年生まれ
東京・上野のスニーカーセレクトショップ「ミタスニーカー ズ」のクリエイティブディレクター。スポーツブランドからメゾンブランドまで、数多くのコラボレートモデルや別注モデルを手掛けるだけでなく、インラインモデルのディレクションなど、国内外のさまざまなスニーカープロジェクトに携わっている。
デサントが誇る高機能なアイテムをより多くの人に広めるべく、スニーカーを中心としたライフスタイルを提案するatmosとのコラボレーションが実現。最も高いスペックを誇るスキーウェア「S.I.O INSULATED JACKET」と「S.I.[…]
