空前の「健康ブーム」に後押しされ、人気が右肩上がりの「ランニング」。街を歩けばファッショナブルなウェアを身にまとい、颯爽と走る人の姿もよく見かけるようになりました。
そんななか、「お笑い」でランニングの楽しさを伝えようと活動している芸人やYouTuberも現れています。
それが、陸上選手のものまねでブレイクした「M高史」さんと、ランニング・コメディーYouTuberの「たむじょー」さん。
今回はお2人に、今の活動を始めたきっかけから現在の活動状況、今後のランニングシーンの変化や楽しみ方についてお話を伺いました。
歌まねで挫折したものの、陸上ものまねでブレイクしたきっかけとは
――まずはM高史さんが、川内優輝選手のものまねを始めた経緯をお聞かせください。
M高史:駒沢大学を卒業後、障がい者施設で支援員をしており、そこで利用者さんとバンド活動を始めたのがきっかけです。メンバーと一緒に訪問演奏をしているうちに、私のエンタメ魂に火がつき、安定した生活を捨ててものまね芸人としてデビューしました。
最初は歌まねをしていたものの、いざプロの世界を目の当たりにしたときに、その実力の差に圧倒されました。それは、箱根駅伝を目指して駒沢大学に一般入試で入学した私が、スポーツ推薦の部員たちの走りを目にしたときの衝撃に匹敵します(笑)。
「歌まねでは生き残れないな」と思った私は、昔から似てると言われていた川内優輝選手のものまねを始めたのです。
――何がきっかけでブレイクしたのでしょうか?
M高史:川内選手が出る大会で、ものまねの公認をいただきに行ったときですね。
川内選手の「埼玉県庁」と書かれたユニフォームをもじって、「埼王県庁」と書かれたユニフォームで歩いていたら会場が大パニックになりまして(笑)。そのできごとがYahoo!JAPANのトップニュースで紹介されたのが、みなさんに知ってもらうきっかけになりました。
「陸上の楽しさを伝えたい」イベントや部活訪問で走る人たちに笑顔を届ける
――現在の活動内容を教えてください。
M高史:主な活動は、マラソン大会などのゲストランナーですね。ありがたいことにこれまで400回以上の大会に招待していただきました。
42.195kmを超えるウルトラマラソンや「1人でリレーマラソン完走」など、現役時代よりも走っていると思います。一時は川内選手の走り方を誇張しすぎて、故障に悩まされたこともありましたが(笑)。
加えて、3年ほど前から注力しているのが学校訪問です。中学~大学の陸上部に許可をもらって、学生たちと一緒に練習をしています。
地方のイベントに招待していただいたときは、近くに訪問できる学校がないか探して、イベントの前日や翌日を使って参加させてもらっています。
――ゲストランナーとして走るときに意識していることはありますか?
M高史:ゲストではなく「ホストランナー」だと思って走っています。ランナーの方たちに声をかけたり、ハイタッチしたりなど、参加者の人たちに楽しんでもらうのが私の役割です。
ときには「ハーフマラソンを全力で走ってください」というオーダーもあり、みんなにエールを贈りながら4分/kmのペースで走るのは大変ですね(笑)。
また、ケガだけはしないよう気を付けています。ときにはイベントが続くこともあり、3日連続で20km以上のレースを走ることもありました。イベントだけでも十分な距離を走っているので、体のケアや休養も大切にしています。
――学校訪問を始めた目的も聞かせてください。
M高史:学生たちに陸上を楽しく続けてもらうためです。陸上部で走っている子のなかには、きつい練習が嫌になって「練習させられている」と感じている子も少なくありません。特に、強豪校になるほど練習はハードで、好きで始めたはずの陸上を嫌いになってしまう子もいるのです。
部活訪問を始めたのは、私が楽しく走っている姿を見て、1人でも多く陸上を続けてもらえたら、という気持ちから。一緒に走った子が活躍してくれるのもうれしいですが、市民ランナーでも良いので卒業後も陸上を続けてくれたら、これほどうれしいことはありません。
「悔いのないように生きたかった」実業団の誘いを蹴ってYouTuberに
――たむじょーさんもYouTuberになった経緯を教えてください。
たむじょー:大学3年生のときに就職活動をしたのですが、やりたい仕事が見つからなくて。もともとお笑いが好きだったので、お笑い芸人になろうかとも考えていました。そんなとき、YouTuberが社会現象になるほど話題になっていました。
中学のときから自分で動画を撮ってTwitterに投稿していたので、YouTuberなら自分の好きな「お笑い」と「動画投稿」を活かせると思い、軽い気持ちで始めることにしました。
――たむじょーさんは実業団からもお誘いがあったようですが、迷いはなかったのですか?
たむじょー:全然なかったです。もともと箱根駅伝で走るのが夢で、2年生のときに夢がかなったので満足していました。実業団から誘いがあると聞いたときも、すぐにお断りしましたね。
YouTuberは安定した仕事ではないものの、もし失敗してもバイトをすれば良いと考えていました。それよりも一度しかない人生、悔いのないように生きたいと思ったのです。
「お笑い」で走るおもしろさを伝えたい。企画の考え方や難しさは?
――動画の企画を考える際に意識していることを教えてください。
たむじょー:お笑いの要素を取り入れることです。私がYouTuberになろうと思ったとき、ランニングの動画を上げているYouTuberはいましたが、みんな真剣なものばかり。自分の好きな「お笑い」と、得意な「ランニング」を組み合わせることでほかにない動画を作れると思いました。
今は「ガチ」シリーズと、「お笑い」シリーズの2種類の動画を作っています。ガチシリーズでは1,500mを3分50秒で走ったり、フルマラソン2時間30分で走ったりするので練習も真剣そのもの。
一方でお笑いシリーズでは、スーツやジーパンなどで1,000mを走ったりしています。一番つらかったのは「歌いながら走る企画」でしたね。WANIMAさんの「やってみよう」という曲が2分50秒しかなく、それ以内にゴールできるか走ってみたら、ギリギリ2分49秒でした(笑)。
――どういった動画がバズるものですか?
たむじょー:それはいまだに分かりません。自分でバズると思った動画ほどバズりませんし、思いがけない動画がバズったりするので。これまで一番再生回数が伸びた動画は記録会の実況動画です。ちなみに私は実況するだけで、走っていません(笑)。
とはいえ、実況動画がバズるかというと、ほかの実況動画はそうでもないんですよね。どんな動画がバズるかは本当に分かりません。
――普段からトレーニングもしているのでしょうか?
たむじょー:動画の企画で走っているので、それ以外の自主練はしていません。ときには横田 真人コーチ率いる「TWOLAPS TRACK CLUB」の練習に参加する企画もあるので、それだけでも十分なトレーニングですね。
最近では、僕と一緒に走りたい方を集めた練習会も始めました。基本は楽しんで走るのが目的ですが、6分/kmペースで10km走ったりするので、そこそこの強度になっています。
――YouTuberをしていて大変なことがあれば教えてください。
たむじょー:ネタが徐々に切れてくることですね。特に新型コロナウイルスの影響で行動も制限されているので、できることも限られています。本当は海外での撮影やM高史さんのように学校訪問もしたいのですが、なかなかきっかけをつかめないでいます。
M高史:私も去年はほとんど学校訪問に行けませんでした。落ち着いたタイミングで、ぜひたむじょーさんも一緒に行きましょう。
私はコラムなどで走る楽しさを伝えていますが、たむじょーさんは動画なので、もっとダイナミックに走るおもしろさも伝えられるはずです。訪問する学校や学生さんたちもうれしいと思いますよ。
人によって楽しみ方もさまざま。これからのランニングシーンはどう変わる?
――最近は多くの人に人気のランニングですが、今後のシーンがどのように変化していくのか考えをお聞かせください。
M高史:これまで通り、本気でタイムを求めて走る人たちがいる一方で、ほかの何かと組み合わせて楽しむランニングも増えていくと思います。
例えば、最近ではGPSを使って、自分が走ったルートで絵を描く「GPSお絵かきラン」や、警察の方と協力しながら見回りも兼ねて走る「パトラン」などが流行っています。ほかにも「ゴミ拾いラン」など、エコと組み合わせて走る人もいて、私もイベントに呼ばれたときは一緒に拾っています。
タイムを求めて走るのも良いと思いますが、別の要素と組み合わせたり、走りながら社会に貢献する取り組みは素敵だと思いますし、今後も増えていくと思いますね。
――たむじょーさんはいかがでしょうか?
たむじょー:これからトップ選手と市民ランナーの距離が近付いていくと思います。
例えば「TWOLAPS TRACK CLUB」のメンバーは、練習会や大会を企画して開いて市民ランナーの方に走り方などを教えたり、「エリミネーションマイル(※)」といった新しい競技を取り入れています。
※エリミネーションマイル:各周ごとの最後尾選手が失格となり、1人ずつ選手が減っていく競技。
これまで市民ランナーがトップ選手と走る機会は限られていましたが、今後そのような機会が増えれば、より陸上を楽しめる人も増えるのではないでしょうか。トラックで練習することで、シティランだけでなくトラック競技にも興味を持つ人が増えるとうれしいですね。
――ランニングと言えばシューズ選びも楽しみの一つですが、お2人が履いているデサントGENTENシリーズの履き心地はいかがですか?
M高史:人間の本来の機能というか、裸足感覚で走れるのが気持ち良いですね。最近は厚底シューズが流行っていますが、GENTENを履くことで足の機能を見直す良い機会になりました。特に中高生は成長段階なので、ぜひ足の力を感じて走ってほしいですね。
たむじょー:GENTENを履いたときに、とても懐かしい感覚がしました。僕が中学生のときは、GENTENのような薄底のシューズが流行っていて僕も履いていたので。
底が薄いと、足の感覚が伝わりやすいことに加え足の筋肉も鍛えられるので、成長期の学生さんたちには特におすすめです。トップ選手が厚底シューズを履いているからといって、真似して履いていると足を鍛える機会を失ってしまいます。
また、最近の薄底は、グリップ力や耐久力、反発性も進化していて走りやすいので、市民ランナーの方も含めぜひGENTENを履いてみてください。
――最後にランニングを楽しむ方々へのメッセージをお願いします。
M高史:ぜひ自分のペースでランニングを楽しんでほしいと思います。調子が出ないときに、SNSなどで調子が良い友達の投稿を見ると落ち込んでしまう人もいますが、周りと比較する必要はありません。切磋琢磨することは重要ですが、本当に大切なのは走るのを楽しむこと。
なかには月間の走行距離ばかり気にして、月末に追い込む方も見ますが、それで故障していては本末転倒ですよね。自分の体と向き合い、楽しみながら「現状打破」してもらえればと思います。
たむじょー:ランニングを楽しむために、練習会などに参加するのもおすすめです。私も練習会を開いていますが、一緒に走ると参加者同士で仲良くなるもの。1人ではモチベーションが上がらないときも、一緒に走る人がいることで楽しく走れるものです。
最近では、さまざまな場所で練習会やコミュニティが生まれているので、1人で走っていてつらいと感じる方はぜひ参加してみてください。
カーボンプレート入りの厚底シューズを使用するトップランナーが増え、市民ランナーにもその流れが波及するなか、薄底シューズにこだわり続ける選手がいます。国際大会にも出場し、メダル獲得の実績を持つ塩尻和也選手です。2021年4月には、5000m[…]
