川本武史×水沼尚輝対談「お互いがお互いを成長させてくれる存在」後編
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競泳 川本武史 選手×水沼尚輝 選手 対談「お互いがお互いを成長させてくれる存在」後編

笑顔の川本武史選手と水沼尚輝選手

日本のバタフライを牽引する川本武史選手(トヨタ自動車株式会社)と水沼尚輝選手(新潟医療福祉大学職員)の2人。川本選手は愛知県、水沼選手は新潟県と地方を拠点に活動しています。

それぞれの地域で活動する良さについて伺いました。そして、お互いをどう感じているかについてもじっくりとお話を伺いました。

川本選手と水沼選手の特別対談、後編スタートです。前半はこちらから

――お2人の様子を見ていると、お互いがお互いを認め合い、そのうえでお互いが負けたくない、という気持ちも感じます。川本選手にとって水沼選手、水沼選手にとって川本選手はどんな存在なのですか?

水沼:本人を前にしてそういう話をするのも、恥ずかしいですね。

川本:どんな存在か。なんだろう…難しいですね。

水沼:確か武史さんとはじめてレースをしたのは、中部地方の大会でした。僕が大学2年生で、武史さんが4年生だったと思います。そのときの招集所で武史さんが声をかけてくださったんです。

「うわ!川本さんに話してもらえた!嬉しい!」と。そこから武史さんのレースを追いかけるようになりました。

笑顔で話す水沼選手

そのあと一緒に泳いだ日本学生選手権の決勝で、武史さんが51秒3で泳いでめちゃくちゃガッツポーズをしていたのを目の当たりにして、すごいな、と思ったのですが、同時にすごく大きな刺激をもらいました。

僕も武史さんみたいに51秒で泳げるような選手になりたい、と思えました。だから、ここまで僕が成長できたのは、やはり武史さんの存在があったからです。

川本:僕は新潟医療福祉大学に速い選手がいる、ということをコーチから聞いていました。だからどんな選手だろう、というのは少し気にしていました。

真剣な表情の川本選手

基本的にずっと、僕は自分が目指すところというか、自分よりも速い選手のことしか見ていませんでした。そのとき、ある先輩が僕に「あんまりもたもたしていると、下から追い抜かれるぞ」と言ってくれました。

その言葉を聞いて、単に上ばかり見るのではなくて、もっと自分と同じレベルにいる選手たちのことも見てチェックしておく必要があると感じたのです。

それで、2018年には(水沼)尚輝がずっと52秒0くらいで泳いでいたので、どんな選手だろう、と気にかけていました。

すると、その1年後の2019年に一気に51秒4を出して尚輝が日本代表に入るわけです。それを見て、自分ももっと頑張らないといけない、と気が引き締まりましたし、先輩が言っていたことはこういうことか、と痛感しました。

――川本選手は、水沼選手に声をかけたのは覚えていますか?

川本:覚えていないです(笑)。

水沼:そうだと思います(笑)。僕にとっては武史さんはすごく速い選手で名前も顔も知っていましたが、僕は無名の選手でしたから。

そんな憧れの選手から話しかけられるなんてことはめったにないことなので、僕はすごく嬉しくて印象に残っていました。

にこやかに話す川本選手と水沼選手

川本:レース前、僕結構周りに話しかけるほうなんです。自分もリラックスしてレースに臨むための方法の1つなので。尚輝に話しかけたのは覚えていないのですが、今こうやって尚輝と一緒に日本代表に入れたことは、すごく嬉しいです。

いつも尚輝には話していましたが、50秒台を出して代表には俺たち2人で入ろう、と。それをお互いに共通認識として持っていました。だから、尚輝と僕は本当にお互いを高め合える、良いライバル関係であることは間違いないですね。

レース中の川本選手

それに、尚輝の安定感は世界でもトップクラスだと思っています。どうすれば安定感が出せるのか教えてほしいくらいです。

水沼:特別なことはまったくしていません。でも強いて言うなら、レースでも練習でも、自分が課した最低ラインを下回らないような取り組みを毎日行う、ということを大事にしています。

例えば、100mバタフライのレースで泳ぐタイムの最低ラインを51秒9とするならば、どんなときでも51秒9を出せる練習、51秒9を出すレースを行うのです。

そして大事なのは、この最低ラインを押し上げること。自分が51秒9としていた最低ラインの練習やレースをクリアしたら、今度は最低ラインを51秒5に設定する。そうすれば自然と最高ライン、つまり自己ベストも上がっていくと思っています。

僕は安定感はあるかもしれませんが、武史さんのような爆発力はありません。武史さんは、ここぞという大事なレースでは51秒台でバシッと決める。そのときの武史さんのマインドが知りたいです。

僕の場合、レースでちょっとでも予定よりも悪いタイムだと、すぐに不安になってしまうので…。悪いタイムだったとき、武史さんは不安になりませんか?

レース中の水沼選手

川本:僕の場合は時期で判断しています。この時期でこのタイムなら、目標の大会ではこのタイムが出るな、というイメージです。

もちろん尚輝と同じように、最低ラインとしてこのタイムで泳げたら良いな、というタイムは設定しています。僕の場合はそれに加えて、タイム以外の課題を決めています。

タイムが遅くても、それ以外の課題をクリアできていれば成長している証拠になるので、あまり不安になることはありません。

大事なレースでタイムが出せる大きな要因は、自信だと思います。「狙った大会では絶対にタイムを上げられる」ことと、「爆発力は誰よりもある」という自信です。

この自信をつけるために、練習で自分に課した課題を一つひとつクリアしていくことを大事にしています。

水沼:なるほど…勉強になります。練習の取り組み方や試合の臨み方が違うように、武史さんと僕のレースは展開も違いますから、観ている方はとてもおもしろいと思います。

武史さんは前半から飛び出すタイプですが、僕は後半にじわじわと上げていくタイプ。客観的に見ても、僕たち2人のレースは見応えがあると思います。

――すごく良いライバル関係ですね。それに、お2人とも新潟と愛知と、地方でご活躍されています。お2人が感じる首都圏ではなく、地方で活動するメリットやデメリットを教えてください。

川本:メリットは水泳に集中できることです。悪い意味ではなく、1日が水泳を軸に、同じようなサイクルで流れていくんです。なので、誰よりも水泳のことを考えている時間が長いと思います。

インタビューに答える川本選手

デメリットで言うと、やはり東京や大阪などの大都市よりも競技レベルは低くなってしまうところはあると思います。ライバルと泳ぐ機会が少ないというのもあります。

今はSNSなどがあるので情報はすぐに手に入りますが、昔はトレーニングなどの最新情報を手にするにも時間がかかりました。

水沼:そうですね。僕も武史さんと同じで、地方だと水泳に集中できるというのは選手としてすごく大きなメリットだと思います。

それに加えて、僕は元々田舎育ちなので、自然が大好きです。今生活している新潟はすごく自然が豊かで、大学の外をふっと見れば緑が溢れています。

そういった点では、水泳に集中しすぎて周りが見えなくなってナイーブになっても、自然に触れると心にゆとりを持てるというか、とてもリラックスすることができます。

真剣な表情の水沼選手

デメリットというのはあまり感じていませんが、あえて言えば、移動に時間がかかること。大会はだいだい都心で行われますし、その移動だけで疲れてしまう、というところはあります。

川本:それはすごく分かります。移動は本当にしんどいですから。

水沼:1日のほとんどが移動で終わってしまうことが多くて。海外遠征に行ったときも、空港に着いて「日本に着いた!」と思っても、そこからまたさらに移動が続きますから。これは地方を拠点とするデメリットかもしれません。

――では最後に、選手という枠を超えた先の将来の夢を教えてもらえますか?

川本:僕はマーケティングの仕事に興味があります。そう思うきっかけとなったのは、近所のコンビニです(笑)。

僕、お昼ご飯をコンビニで買うことが多いのですが、そこで商品が陳列されているのを見て、自分だったらこうするな、とか、こういう土地にあるからこういう商品を開発したら良いのにな、と感じることがあります。

将来について話す川本選手

元々そういうことを考えるのが好きでした。好きなことを考えるということは、その人が持つ能力を最大限に活かせることだと思っています。

コンビニのことは1つの例ですが、それ以外でも自分の考えていることが世の中をもう少し便利にできることがたくさんあると思います。そういう仕事をやってみたいです。

水沼:僕はまだハッキリとした夢、というのはありませんが、野望はあります(笑)。

僕はジュニア時代にずば抜けた結果を残したことはなく、俗に言うまったく普通の選手でした。でも、さまざまな人たちとのつながりがあって、ここまで記録を伸ばすことができました。

この人のつながりの大切さをジュニア選手たちに伝えたい。それに加えて、地元に根付いた地域とスポーツを掛け合わせた何かを創っていきたいな、と思っています。

将来について話す水沼選手

――ありがとうございました。今後も、お2人のご活躍を期待しています!

向かって左:川本選手、右:水沼選手

<プロフィール>

川本 武史
トヨタ自動車株式会社所属

愛知県出身。1995年2月19日生まれ。専門種目はバタフライ。2015年にはFINA世界選手権日本代表として活躍。4月の日本選手権の100mバタフライでは準決勝で51秒00の日本タイ記録をマーク。50mバタフライは23秒17の日本新記録で優勝を果たした。

水沼 尚輝
新潟医療福祉大学所属

栃木県出身。1996年12月13日生まれ。専門種目はバタフライ。2019年日本選手権の100mバタフライで初めて優勝を飾り、初の日本代表の座を獲得。4月の日本選手権では安定感のある泳ぎで川本選手との対決を制し、2度目の日本選手権優勝を飾った。

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