15年もの長い間、日本代表として世界と戦い続けている入江陵介選手(イトマン東進)。
今年(2021年)の4月に行われた第97回日本選手権水泳競技大会 競泳競技でも、50m・100m・200m背泳ぎで3冠を達成しました。100m背泳ぎでは8年連続10回目の優勝、200mに至っては、通算13回目の優勝を飾りました。
長く世界と戦い続けてきたからこそ見える世界や、その目で見て体験してきた世界、そして第一線で戦い続けるために必要なことなど、たくさんお話を伺いました。
――日本選手権3冠、おめでとうございます。今振り返ってみて、入江選手にとってどんな大会でしたか?
目標としていたタイムには届かなかったんですけど、しっかりと優勝できたことはうれしく思っています。やはり特別な大会というのは何回やっても緊張しますね。それをすごく感じました。
調子も悪くない、タイムも悪くない。でも、決勝のレースで何が起こるか分からない世界。いくら調子が良かったとしても、決勝で気負いすぎて力みが出てしまう可能性もあります。だからこそ自分自身が油断せず、自分にとって最高の準備をすることを第一に考えてレースに臨みました。
レース前の準備は、昔から特に大きく変わることはありません。ウォーミングアップも、大会のときは疲れたくないという気持ちもあって早めに切り上げたくなるときもあるんですけど、しっかり身体を動かさないと本番で良い泳ぎはできませんから、しっかりと脈を上げたり、泳ぎの感覚が良くなるように準備していきました。
泳ぎ終わった後の身体のメンテナンスは、昔よりも気遣うようにしています。クールダウンに時間をかけたり、ストレッチをしたり。今大会でもマットを持参していて、宿泊先で寝る前にも自分でストレッチしてリラックスする時間を作るようにしていました。
――15年もの長い間、日本代表選手として世界と戦っておられます。第一線で頑張り続けられるモチベーション維持の方法や、自分の心との向き合い方を教えていただけますか?
日々のトレーニングでずっと高いモチベーションをキープし続けるのは難しいです。でも、結果というのは日々の練習の積み重ねによるものだと思うんです。ですから、やる気が起こらないときでも、ムダなことをしない、ということを大切にして練習に取り組んでいます。
毎日その日の練習すべてを頑張ろうとすると、やっぱり疲れます。それに、疲労がたまるとどうしてもモチベーションは下がりますよね。そんなとき、ダラダラと泳いでしまったら1回の練習のすべてがムダになってしまいます。
練習をムダにしないためにも、どれだけやる気が起こらないときでも「必ずここは頑張ろう」と、練習メニューのなかで1つだけでも良いのでポイントを決めて、それは必ず全力で取り組むようにしています。
――そういう取り組み方は、どうやって身に付けていったのですか?
僕自身、日本代表チームで長く戦ってきて、たくさんの選手を見てきました。そのなかで、長く日本のトップ、世界のトップと戦い続けている選手というのは、自分と向き合っている時間がとても長いと感じています。
身体にかける時間とか、自分の感覚を研ぎ澄ませる時間とか。日本代表で共に戦ってきた先輩選手たちも、みんな自分の身体や心などに対して、すごく気を遣って過ごしていました。
そして、人に左右されることなく、周りに流されず、自分自身と向き合って、そのときの自分にとって必要なことに対して真面目に取り組む。そういうことができる選手が、長く第一線で活躍し続ける選手なのだと思います。
――入江選手が今、自分に対して大切にしていることは何ですか?
テクニックの部分で言えば、速く泳ごうとすると身体に力が入りすぎてしまう部分があるので、適度にリラックスして泳ぐことを心掛けています。
僕は昔から泳ぎをきれいだと言っていただけることが多くて。楽そうに泳いでいるように見える、というのも、自分の泳ぎの特徴だと思いますから、泳ぎのなかで変な力みがないようにすることに気を付けています。
あとはバランスですね。上半身と下半身のバランスはとても大事ですし、左右差も大事です。特に左右差は、見ている方はあまり気にならなくても、泳いでいる選手はとてもズレを感じているときがあります。そこは日頃から意識して練習しています。
もちろん泳ぎの意識だけではなく、陸上のトレーニングでもどちらの肩が弱いとか、どっちの腹筋が弱いとか、そういうことも意識して取り組んでいます。
練習も以前に比べると量は少なくなっていると思いますが、その分内容を濃くするよう意識しています。今の自分にとっての100%の練習を毎日行う。それに意識を集中して取り組むようにしています。
――長く世界と戦うなかで、入江選手は日本代表としても多くの国に行かれたと思います。そのなかで印象に残っている国はありますか?
数えたことがありませんでしたけど…多分20ヶ国以上は行ったことがあると思います。
そのなかで、僕はスペインのバルセロナがすごく好きですね。ご飯もすごくおいしいし、世界遺産もすごく身近にある。街全体がコンパクトなので、合宿中にも観光に行ったこともあります。スペインは今も行きたい国の一つです。
――一時期は海外を拠点にトレーニングもされていましたね。
そうですね。なので、国際大会に行って仲間に会うと、会場で「元気にしてる?」とか「最近どんな練習してるの?」とか話をすることもあります。
レースになればライバルですけど、世界に友達がいると、国際大会に試合をしに行くだけではなく、友人に久しぶりに会うという競技以外の楽しみが増えるんです。
国際大会に行って、ただレースに対する緊張感だけで過ごすよりも、そういうわくわくする気持ちがあったほうがリラックスできますし、試合の結果にもつながってくると思います。
だから、世界にライバルや友人がたくさんいる、というのはとても大切だと感じていますし、僕自身そういう世界のライバルや仲間に会えることもモチベーションの一つとして頑張れています。
――長く第一線で活躍されている入江選手だからこそ、水着やゴーグルなどのアイテムもたくさん使われてきたと思います。入江選手の道具へのこだわりを教えてください。
水着に関しては、僕は長めの距離の種目を得意としているので、柔らかさや動きやすさを重視して選んでいます。デザインは、ここ最近はシンプルなものが多かったのですが、今回のARENA BISHAMON COLLECTIONはすごく明るいデザインで気に入っています。
ゴーグルは色選びが大事だと思っています。僕は所属のカラーでもありますけど、青が好きなのもあって、ゴーグルは青っぽい色のミラータイプを選んでいます。ほかのアイテムも、結構青いものを選んでいることが多いですね。
――改めて、今シーズンの目標を聞かせてください。
夏の大会に向けて、これからのトレーニングこそが重要です。そこに向けた課題も日本選手権で明確になりましたから、そこを突き詰めて練習していきたいと思います。
――ジュニア選手にとって、長く世界と戦っている入江選手を目標にしている選手もたくさんいると思います。最後に、ジュニア選手たちにメッセージをお願いします。
僕自身、ジュニア時代には日本代表になれるなんて、正直思ってもいませんでした。でも、目の前のことを一つひとつ、諦めずにこなしていくにつれて、だんだん夢や目標が近付いてきて、それをかなえることができました。
目の前のことを丁寧に一つひとつこなしていったとしても、途中で挫折することもあると思います。大事なのは、そこで諦めないこと。小さなことでも良いから、何か1つ目標を定めて、クリアしていく。
そうすると、夢や目標に向けて「諦めない力」が身に付きます。それが目標を達成したり、夢をかなえたりするのに大切な力だと思います。
1つずつで良いので、今自分が取り組むべきことを見つけて、焦らず、丁寧に取り組んでいってほしいなと思います。頑張ってくださいね!
入江 陵介
イトマン東進所属
大阪府出身。1990年1月24日生まれ。専門種目は背泳ぎ。2006年の高校2年生のときに初めて日本代表入りを果たす。世界一と称される美しい泳ぎを武器に、15年連続で日本代表として世界を股にかけて活躍を続ける。100mと200m背泳ぎの日本記録保持者。
環境の変化は、時として人を大きく成長させてくれるトリガーになります。大本里佳選手(ANAイトマン)も、大学進学を機に地元の京都から東京に練習環境を移したことで、選手として大きく飛躍されました。練習内容も大きく変わり、さまざまな練習道具も活[…]