ランナーの多くは、日々のランニングでレベルアップを目指しますが、ランニング以外のトレーニングを行うことでレベルアップを図ることができます。
それがクロストレーニング。特にランニングに組み合わせると効果的なのが水泳です。
なぜ水泳をすることでランニングの能力が高まるのか、日本初のプロスイムコーチがその効果を教えてくれました。
プロスイムコーチ 前田康輔さん
3歳で水泳を始め、競泳界の名門中央大学では全国大会インカレで優勝。社会人スイマーとしても活躍後、25歳で現役引退。2017年より、日本初のプロスイムコーチとしてスポンサー契約を受けながら企業でのコーチングやトライアスロンチームの指導など、泳ぎの魅力を伝えるために幅広く活躍している。競泳マスターズでは現在、日本記録4個、世界記録1個を保持。アスリートの引退後のキャリアを支援するアスリートプランニング所属。
水中の運動の良いところ。陸上の運動と大きく違う点
多くのランナーを悩ませるトラブルが膝の痛み。通常、歩いているときにも膝への負荷はかかりますが、走るときには1歩ごとに体重の3~4倍もの負荷が膝にかかると言われています。そのため、痛みがひどくなると走るのはもちろん、歩くのも辛くなります。
「水中運動の一番の特徴は、陸上運動に比べてケガをしにくいこと。水中なら浮力で人間の体重は5分の1くらいになるので、膝への負担がかからない、関節に対する負荷がほぼありません。」(前田さん)
ほかに水圧と水の抵抗があります。水圧は全身から心臓に血液を戻す作用を助けるとともに、1回の拍動で送り出す血液の量も増やします。結果的に心拍数や血圧が下がり、運動中の心臓への負担が軽くなります。
そして水の抵抗は、運動の際の負荷になります。水中に立っているだけでも全身の筋肉のバランスが良くなり、鍛えたい部位を動かして負荷をかけることで効率的なトレーニングができます。
【ランナーが水泳をするメリットその1】泳ぐと呼吸筋が鍛えられる
水泳では、呼吸筋を鍛えることができ心肺機能も強化できます。息のできない水中では呼吸の仕方にも意識が必要なので、心肺機能がアップします。
「まず水泳の息継ぎで呼吸筋が鍛えられます。水中では鼻から息を吐き、水面から顔を上げた瞬間に口を開いて息を吸います。息を吸うときは一瞬。その動作を繰り返すことにより呼吸筋も強化されます。
大人になってから水泳を始めた方は、呼吸が最初の難関です。泳いでいるとき、ゆっくり息を吸うと水平姿勢が崩れて水の抵抗が増えるので、できるだけ一瞬で大きく息を吸える水平姿勢と首の角度をマスターしましょう。
水中ウォーキング(プール)の場合は、足を上げるときは息を吸い、足を前に出すときは息を吐いて歩くことを意識してみてください。」(前田さん)
心肺機能がアップするとランニングのときも呼吸が楽になり、ペースアップが可能。ペースアップするということは、タイムアップも目指せます。
【ランナーが水泳をするメリットその2】水泳で体幹が鍛えられると走りも変わる
前田さんは大学時代、当時のスイマーはあまり行わなかった陸上でのランニングをクロストレーニングとして取り入れたことにより結果を出すことができました。
「人間の動きは屈曲・伸展・体側、そして回旋から成り立っています。社会人になってからフルマラソンを挑戦する際にコーチングを受けて分かったのは、水泳とランニングは肩甲骨と骨盤の動きが共通していること。
初めてランのコーチングを受けたときは肩甲骨の動きが良いと言われ、『そこ褒められるんだ』と思ったことがあります。柔らかいと可動域が広がるので、ランニング時の腕の振りも良くなります。
身体をねじりながら速く泳げる方はいません。体幹・骨盤を安定させたうえでキック(泳ぐ際の足の動き)を打ちます。例えば、ビート板を使った『けのび』(※)で体幹を意識することで骨盤が安定し、骨盤から伸びている足の正しい動かし方が体得できます。
『泳ぎは個性だ』とお客様にはお伝えしますが、動かすところと動かさないところは決まっています。骨盤がクネクネしていてはうまく泳げません。」(前田さん)
※けのび:プールの壁を蹴って、伏し浮きをキープする状態
ランナーが水泳をやるそのほかのメリットとは?
水泳は今まで説明した以外にも、ランナーにとって多くのメリットがあります。
「ランナーにとってはリカバリー効果もあります。水中だと水圧が均一に全身へとかかるので、ポンプ運動で下から上に血流の巡りが良くなるので乳酸を流し、筋肉をほぐします。
例えば水中で肩を回すことで、肩こりが改善されることもあります。日常生活で、自分の肩より腕を上に上げるのは高いところにある物を取るときぐらい。水泳だとその動作があるので、四十肩、五十肩も治る方もいます。水泳を始め代謝が上がったことで、『体調が良くなった』というのもよく聞きます。」(前田さん)
しかし、泳げないことで水泳に苦手意識がある人もいるかもしれませんが、実は水中ウォーキングだけでも十分メリットがあります。
前田さんも大学時代、陸上部の選手がケガをしたときにプールでウォーキングしていたのを見ていたとのこと。水中なら浮力で体重の重みから解放されるため、痛みなく関節が動かせるので、リハビリとしての効果もあります。
「陸上ではバランスが取りづらい動きでも水中だと可能。片足立ちも水中では簡単ですし、水中で股関節を回すだけでも柔軟性はアップします。最初は泳ごうと思わなくても良いんです。プールの中でゆっくり歩くだけでも全身に負荷(水圧)がかかります。」(前田さん)
水中ウォーキングは脂肪燃焼にも効果があります。ウォーキングだけでも、ねじりながら歩くとか、脂肪がついているところは固くなるので水の中でほぐす。お腹まわりなどを刺激しつつ、脂肪を燃焼させましょう。
「パドルグローブ(水かきが付いたような手袋)というアイテムを着用して、体の動きに負荷を上げるなど、泳がなくても水中ウォーキングするだけでランニングに効果的なトレーニングができます。」(前田さん)
さらに、水に入るだけで体の熱が奪われるので、熱を上げようとして代謝も上がりますし、ランニングでは使われない筋肉への刺激を与えることもできます。
結論!ランニングに水泳を取り入れると細マッチョになれる
ランナーのクロストレーニングとして効果がある水泳ですが、負荷は軽くても繰り返し行うことで体の深部にある小さな筋肉“インナーマッスル”が鍛えられます。
インナーマッスルを鍛えることは体幹を安定させることにもなるため、体がグラつきにくくなり、ケガ対策にもつながります。また、水泳は、夏に向けて上半身を絞りたい人にも効果的。
「水泳を続けるとトップスイマーのような逆三角形になれると思う方もいるかと思いますが、よほど練習しないと、そういった体型にはなりません。逆三角形になりたいのだったら筋トレが有効です。その後、リカバリーで水泳を取り入れるのが理想です。
一般の方なら肩幅が広くなることもないので、女性の方もぜひ水泳に興味を持っていただきたいですね。」(前田さん)
ランニングでは下半身が鍛えられ、無駄な脂肪は落とせますが、上半身の筋肉はあまり使われないので小さくなってしまうのが難点。
そこで、胸の大胸筋や背中の広背筋、肩の三角筋や腕の上腕三頭筋といった上半身の筋肉を鍛えられる水泳を取り入れれば、全身をバランス良く鍛えることができ、憧れの細マッチョの体型に近付くことができますよ。
撮影/大田浩樹
文/マイヒーロー
編集/GetNavi web
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