近年、大きな注目を集めているミニマリストという生き方。自分に必要な物を見極め、最小限の物とともに生きるライフスタイルとも言えますが、そのメリットとは何なのか?そして実現するためのポイントは?
ベストセラーとなった『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』の著者である佐々木典士(ささきふみお)さんにお話を聞きました。
作家・佐々木典士さん
出版社で編集者として勤務したのち、フリーランスに。ミニマリスト本『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』を出版、26ヶ国語で訳されてベストセラーとなる。2018年に『ぼくたちは習慣で、できている。』を出版。
ミニマリストとは?そのメリットは?
雑誌などのメディアで見かける機会も多いミニマリストという言葉ですが、そもそも、どういう人や生き方を指すのでしょうか。その定義やメリットから聞いてみました。
「本(『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』)を書いた当初は“自分にとって大切な物が分かっていて、そのために減らしている人”と捉えていましたが、今は“物が少ないのが性に合っている人”という捉え方ぐらいで良いのかなと思っています。
物がたくさんあっても、それが管理できている人はそれで良い。流行に左右されて、無理して目指すものではないと考えています。」(佐々木さん)
何とも力の抜けた答えですが、編集者だった佐々木さんも元は「ギア好き」で物に囲まれた生活をしていたと言います。そこからミニマリスト的な生き方をするようになり、どんなメリットを感じているのでしょうか。
「物理的に身軽になることでさまざまな変化がありました。起きてから準備して30分で出かけられるようになって、行動も早くなりましたね。恥ずかしながら、以前は結構遅刻が多かったんです。でも、持って行く物が少なくなり、毎日着ていく服が決まっているので、今は遅刻をしなくなりました。
それとぼくは旅が好きなのですが、気軽に旅行にも出かけられるようになりましたね。荷物が少なければ、思い立ったら当日にでも出かけられますから。部屋の中にやり残したことがいつもないので、後ろ髪を引かれることもありません。」(佐々木さん)
物を探すのに費やす時間もなくなり、なくす物も減ったそう。そして部屋の掃除も楽になる。また、身軽になったのは物理的にだけでなく、思い立ったらすぐに取り組めるようになり、精神的にも楽になったと話します。
「物があふれていた頃は、常に『これをどうしようか?』『いつかやらなきゃいけないんだけど…』という思いがあって、ペンディングしていることが頭の中でスペースを占めているような感覚でした。そうすると、だんだん何をするのも面倒になってきてしまって、ただダラダラしてしまっていたんですよね。
物が減ってからは、やるべきことに集中できるので、何事にもすぐ取り組めるようになりました。」(佐々木さん)
ミニマリストを目指すには?
物が少なくなるだけでなく、集中力が高まるなどメリットが多いミニマリストという生き方ですが、今物があふれている生活を送っている人は、どんなことから始めれば良いのか?
佐々木さんがミニマリストを目指したきっかけも聞いてみました。
「10年以上同じワンルームに住んでいたんですが、いざそこから引っ越したいと思っても、物に囲まれていると引っ越し先の物件もより広くなければ…とか考えてしまい、面倒になって動けずにいたんです。
そして物にあふれた部屋が、停滞している自分の人生を表しているように感じて、それを変えたいと思ったのがきっかけですね。あと、ギアが好きだからこそ、管理できていないことがストレスになっていたこともありました。」(佐々木さん)
とはいえ、物に対する思い入れも人一倍強かった佐々木さん。物を減らしていくのも一筋縄ではいかなかったと言います。
「1年くらいかけて、少しずつ減らしていった感じですね。まずは、どう見てもゴミだという物から捨てていって、テレビや思い出の物など大物を手放したのはだいぶ後になってからです。
編集の仕事をしていたこともあって、本が好きで壁が本棚で埋まっていたのですが、それを古本屋さんに丸ごと持って行ってもらったとき、不思議な解放感があったんです。実は残しておこうと思っていた本も間違えて持って行かれてしまったのですが、逆にそれが良かったのかもしれません。」(佐々木さん)
ミニマリストを目指したいと思っていても、なかなか思い入れのある物を手放せないという人には、次のようなアドバイスをもらいました。
「いきなり思い出の物を捨てようとしても無理があります。まずはハードルの低い物から手放していって、それで気持ちが楽になったり、性に合っていると感じたりしたら、少しずつ手放す物を増やしていくのが良いと思います。捨てることがストレスになると、その反動も大きかったりするので。」(佐々木さん)
サブカルチャー好きでもあった佐々木さんは、DVDや写真集、雑誌などのコレクションも多く、処分するのは「身を切るようだった」と言いますが、大切な物は写真に撮って残すなど工夫をして手放したとのことです。
「でも、物を手放してみると、その写真も実際見返すことはほとんどありませんでした。写真を撮ることは手放すための儀式のようなものでしたね。決断して良かったと思っています。」(佐々木さん)
ミニマリストを続けるためには?
ミニマリストを目指して捨て始めてみたものの、結局また買い直してしまい物が増え始め、その生活が続かないという経験をした人も少なくないはず。
ミニマリストを続けるためのポイントについても、質問をぶつけてみました。
「ミニマリストって、無理に続ける必要があるものではないと考えています。物が少ないのが性に合っていれば自然と続くでしょうし、物が増えてしまっても、それが管理できていれば問題ない。“物を少なくしなきゃ”という圧力を感じてしまっていると、それがストレスになってしまいます。
もし買い直すことがあっても、それは本当に必要な物が分かったというポジティブな行為だと捉えています。」(佐々木さん)
実は佐々木さんも、ミニマリスト生活を始めてからクルマやバイクの趣味にハマったり、DIYをするようになったりと、物が増える傾向にあると言います。
「クルマ・バイクはメンテナンス用品が増えがちですし、DIYなんて“いつか使うかもしれない”の温床ですからね(笑)。でも、物が増えすぎると管理できなくなり、自分にはそれがストレスになるということを痛感しているので、何とか踏みとどまっています。
人は何かをいきなり好きになってしまうので、趣味も変わりますし、パートナーや家族ができるなどライフステージに合わせてテーマも変わる。“ミニマリストでいること”に縛られる必要はないと思います。」(佐々木さん)
ミニマリストのファッションとは?
最後に、ミニマリストが持っておきたいファッションアイテムについても聞いてみました。
「元々ファッション誌やモノ雑誌がやりたかったこともあって、服は好きで買い集めるのも大好きでした。でも、物が少ない生活になってからは、長く着られる定番アイテムを選ぶことが増えましたね。
夏はTシャツやカットソーで、秋になったらその上にスウェットを着て、寒くなったらダウンを重ねるコーディネートになっています。選ぶ色もブラックやグレーなどモノトーン系でシンプルに。自分のなかの流行で、地味にグレーの色が濃くなるという程度ですが(笑)、それが自分にとっても心地良いんですよね。」(佐々木さん)
そんなこともあって、同じアイテムを買い直す機会も多いと言います。しかし、アイテムの生産が終了してしまったり、モデルチェンジで好きだったデザインの一部が変わってしまったりすることもあるのが悩みだとか。
「ですから、同じ物を何十年も作り続けているブランドには敬意を感じますね。それだけ普遍的なデザインだということですから。あとは、革製品やアウトドア製品だと修理して使い続けられるようにしているブランドも好きになります。
冬の季節だと『デサントオルテライン』の水沢ダウンは、もう8年くらい着ていると思います。ミニマルなデザインなので全然飽きないですね。」(佐々木さん)
インタビューの3日後から台湾旅行に出かけるという佐々木さん。
1週間の滞在でも数枚のTシャツとスウェット、小さく畳めるダウンくらいしか服は持って行かないそうで、海外旅行でも32Lのバックパック1つで行くとのこと。
そうした身軽な生き方に魅力を感じる人は多いでしょう。
文/増谷茂樹
編集/GetNavi web
全国的に雪が降るなど厳しい寒さが続いたり、春を思わせる暖かい気候になったりと、変化が激しい2月も終わり、3月になるといよいよ春も本番を迎えます。冬に着ていた厚手のコートやダウンジャケットなども出番がなくなり、そろそろ衣替えを考える時期では[…]