横浜に本社営業所を構えるタクシー会社・三和交通のTikTokが話題を呼んでいます。
10~20代を中心とした若いユーザーに混じって“中年男性”が愉快に踊る姿が注目を浴び、これまでにテレビをはじめとした多くのメディアに取り上げられました。
三和交通の取り組みが話題になったのはこれが初めてではありません。
以前から、乗務員が忍者になりきって送迎する「忍者タクシー」、要人の身辺を守るSP風なスタイルで送迎する「SPタクシー」といったユニークなサービスを展開するほか、YouTubeなどでは“およそタクシー会社とは思えない投稿”を続けて反響を呼んでいました。
一見、ただふざけているようにも思えますが、そのクオリティを見れば遊び半分ではないことが一目瞭然。
今回はTikTokで“おなじみの顔”になっている取締役部長・溝口孝英氏、溝口氏と一緒に踊る機会が多い広報担当・小関正和氏に、三和交通のユニークな取り組みの背景について話を伺いました。
「若者に知ってもらいたい」三和交通が奇抜な企画にかける想い
――TikTokをはじめ、YouTubeやInstagramなども積極的に活用していますが、こうしたサービスを活用し始めたきっかけを教えてください。
溝口:若者たちからの注目を集めるためです。タクシー業界は高齢化が進んでおり、私たちの会社もその例外ではありません。このままではいけないと思い、若者たちに少しでも三和交通の存在を知ってもらおうと、2013年にYouTubeとニコ生を始めたんです。
当初、広報の若い社員2名が中心になって始めました。タクシーとはまったく関係のない料理動画や、“激辛焼きそば”を食べる動画などを投稿し続けていましたね(笑)。
小関:私はもともと乗務員として現場で働いていたのですが、社長に突然「来月から広報やって」と言われて…。弊社の「広報」というのは、こうした企画にも参加する仕事で、正直、ニコ生やYouTubeに出演したくなかったのですが、社長が大真面目な口調で、とても断れる空気ではなかったですね(笑)。
溝口:社長としても「小関ならやれる」と思って配属したのだと思います。広報をやる前は無口でしたが、YouTubeを始めてからどんどんキャラが明るくなりましたね。
――TikTokが話題になっているように、YouTubeにも大きな反響はあったのでしょうか?
溝口:いえ、全然(笑)。毎週動画を投稿し続けても、視聴回数が2ケタということが珍しくありませんでした。
動画を作っている本人たちも、観られもしない動画を何時間もかけて作ることに「何をしているんだろう…」と思うこともあったようです。
小関:当時は激辛焼きそばを食べる動画が比較的人気で、社員に声を掛けて食べてもらっていたのですが、みんなに嫌がられていましたね(笑)。
一度、TV番組『タモリ倶楽部』にも取り上げられたのですが、それも「視聴数が少ないのに動画を投稿し続けている会社」としてです。しかし、そのおかげで徐々にYouTubeを観てくれる人が増えていきました。
――YouTubeの知名度が高まったタイミングで、TikTokも始めたのですね。
溝口:YouTubeの撮影が大変で、もっと手軽に投稿できるものがないか探しているときに、若者の間でTikTokが流行っていることを知り、軽い気持ちで始めました。YouTubeは1つの動画を作るのに3~4時間はかかっていましたからね。
最初は私の個人アカウントを使ったのですが、初めての動画が予想以上にバズってしまいまして。たった15秒の動画がYouTubeよりも再生されたんです。翌日社長に相談して、会社の公式アカウントを開設しました。
――1本目の動画からバズったんですね!
溝口:当時は今のように「おじさんTikToker」がいなかったので、特に目立ったのだと思います。若い方々から「かわいい」「お腹気持ち良さそう」というコメントが相次ぎました。
最初は踊ることに照れがあったのですが、TikTok動画への応援メッセージを見ているうちに踊るのが楽しくなってきまして。最近だと若い世代だけではなく、TikTokを楽しんでいる同年代の方からもコメントをいただけるので、一緒に頑張っていきたいですね。
トレードマークのネクタイは〇〇を目立たせるため
――動画の撮影にはどれくらい時間をかけているのでしょう?
溝口:ものの10分程度で、ダンスの振り付けもその場で少し動画を観るだけです。私も相方(渉外主任の森嶋幸三さん)も50代なので、練習していたら体力が持ちません(笑)。
相方に「今度これ踊るから見ておいてね」とLINEしても、結局本番まで見てこないんです。彼は私を見ながら踊っているので、いつもワンテンポずれているんですよ(笑)。
――ダンスの練習をせずに撮影されているんですね。
溝口:一度、「普段テンポのずれているおじさんたちが、急にうまくなったらおもしろいだろう」と思って、1ヶ月半、ダンスの先生を呼んで特訓をしたことがあります。しかし、その期間だけで3回も肉離れを起こしたので、もう二度と練習しないと誓いました(笑)。
――短いネクタイがトレードマークになっていますが、お笑いタレントの“某係長”からのインスパイアでしょうか?
溝口:よく言われますが、断じて違います。ネクタイを短くしているのは「お腹を目立たせるため」です。
溝口:投稿を続けていると、お腹に関するコメントをさらに多くいただくようになったので、できるだけ目立たせたいと思いまして。
「そのネクタイ、どこで売ってるんですか?」と聞かれるんですが、実は普通のネクタイを短く結んでいるだけなんです。結び方は企業秘密ですけどね(笑)。
今ではネクタイを短くすることで、“撮影のスイッチ”が入ります。
企業がバズるコツは「社内を巻き込んで楽しむこと」
――TikTokがバズったことでなにか変化はありましたか?
溝口:当初の目的通り、若い方が会社説明会に参加してくれるようになりました。面接をしていると「TikTok見ました!」という方もいますし、実際に採用に至った方もいます。若い方だけでなくとも、TikTokで弊社を知って応募してくれた方も多いですね。
タクシーをご利用いただいているお客様にも「TikTok見てるよ」と声をかけてもらえることも多いようです。乗務員にとってもお客さんに声をかけてもらえてうれしいですし、私たちのやりがいにもなっています。
――これだけ話題になると社内からも反響がありそうですね。
溝口:社内が明るくなりましたね。バズる前は、正直「あの人たち何やってるんだろう」という冷ややかな視線も感じていました(笑)。最近では、応援してくれるどころか「私も映りたいです」と言ってきてくれる方までいます。
いろいろな変化があるなかでも、一番うれしいのは、ほかの営業所に行ったときに気軽に話しかけてくれるようになったことですね。これまで挨拶はしてくれていたものの、私が「取締役」ということもあってか、どこか距離を感じていました。
今は営業所を訪れると「今日も撮影ですか?」「新しい動画見ましたよ」と、みんながラフに話しかけてくれます。
――採用だけでなく、社内コミュニケーションにも活きているんですね。ほかの会社も参考にできるかもしれません。
溝口:実際、さまざまな事業者さんから「私たちの会社もTikTokやりたいんです」と相談の問い合わせも多いです。決まってアドバイスするのは「会社を巻き込んで楽しむこと」。当事者であるメンバーが楽しんでいれば、きっとその楽しさが社内外に伝わります。“バズ”を狙ったとしても、楽しくなければ結局バズらないんですよね。
――こうして考えると、企業がTikTokを始めるメリットは意外と多いんですね。
溝口:TikTok主催のイベントに招待された際に、「三和交通さんがバズってから法人アカウントが増えたようです」と言われて、とてもうれしかったですね。
冗談のようなアイデアを、真剣に、おもしろく仕上げる
――TikTokやYouTubeのほかにもユニークな取り組みをしていますよね。誰のアイデアなのですか?
溝口:私たちの取り組みは社長の影響によるところが大きいです。社長自身がアイデアマンですし、チャレンジを後押ししてくれます。お金にならないようなチャレンジでも応援してくれますし、仮に失敗したとしても怒られることはありません。
毎月の企画会議で一番アイデアを出すのも社長です。トップダウンというわけではないのですが(笑)、社長が出したアイデアを形にするために、私たちが現場で工夫しながら実現に向けて動いています。一見ふざけたようなアイデアばかりですが、その現場は非常に真剣ですね。
――これまで一番反響のあった企画を教えてください。
小関:「忍者タクシー」です。乗務員が忍者になりきって送迎するサービスで、私が担当していました。実際に伊賀まで行って、1泊2日、滝行などの忍者の修行もしてきましたね。その間の業務は同僚に任せてです。おかげで本格的な忍者の雰囲気を提供できたと思います(笑)。
溝口:私もYouTubeの撮影で山の上にある修行場に向かったのですが、道のりがきつくてついていけませんでした(笑)。
ほかに、「心霊スポット巡礼ツアー」も人気ですね。その名の通り、タクシーで心霊スポットを巡るサービスです。社員のなかにはこの企画のために転職をしてきた元トラック運転手もいるほどです。
心霊タクシーは今でも続けているので、機会があったら乗車してみてください。
――毎月ユニークな企画を展開しているのですね。
溝口:毎月の企画のほかに、エイプリルフールにも本気で取り組んでいます。
反響が大きかったものだと、車の変形ロボット「トランスフォーマー」でお客様を迎えに行くというもの。廃車になったタクシーを組み直してロボットに仕立て上げました。
当時は横浜営業所の前に展示していて、多くの方が写真をとってSNSに載せてくれました。その情報を見たタカラトミーさんから公認していただきまして、“額のマーク”までいただきました。今はここ、府中営業所の前に展示しています。
――奇抜な取り組みを通じてさまざまなつながりが生まれているんですね。新卒で入社した小関さんは、三和交通で働いてみていかがですか?
小関:ほかの会社では体験できないような貴重な経験ができていると思っています。「忍者タクシー」を始めてからさまざまなメディアで取り上げてもらいましたが、その取材を受けるたびに自分の性格も明るくなっていきます(笑)。
今では打ち合わせや取材対応で座っている時間がないほど、充実して働かせてもらっています。さまざまな刺激をもらえて、もちろん勉強にもなっていますね。
――最後に、若年層も多いウルマグ読者にメッセージをお願いします。宣伝で構いません!
溝口:タクシーの運転手は自由な仕事です。その自由を表現するために私たちはさまざまな企画やSNSに挑戦しています。おもしろいことが好きな方はもちろん、どんな方でも気軽に私たちの話を聞きに来てください。
――本日はありがとうございました!
取材・文/鈴木光平
撮影/森カズシゲ
\今回特別にご撮影いただいたTikTok動画がこちら!/
@sanwakotsu le coqさんのズボンで踊ってみましたがすごく楽です。これゴルフに履いていこう🎵上がYシャツだと地球防衛軍みたい#DESCENTE #le coq #動きやすい #履きやすい #踊りやすい #踊るおじさん #毎日tiktok #fypハ #三和交通 #地球防衛軍 #niziu #縄跳びダンス
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