人前での発表や面接など、緊張する場面で「うまく話せない」「すぐに上がってしまう」という悩みを、多くの人が抱えています。
今回は、数多くのアスリートへのメンタルトレーニング実績を持ち、ビジネスパーソンにも指導しているメンタルトレーナー・石津貴代さんに、人が緊張してしまう原因や、緊張しないための対策方法を教えていただきました。

ON+OFFメンタルトレーニング協会 代表
石津貴代(いしづ たかよ)
20歳よりラジオパーソナリティとしてスポーツの現場取材をするなかで、目標達成におけるメンタルの重要性を体感する。2004年にメンタルトレーナー養成機関に入校、トップアスリートの現場にて実習を重ね、2007年に独立し「Lieto-Mental Conditioning-」設立。2017年に「株式会社リエート」設立。
プロ野球球団、強豪実業団など複数のチームサポート、ラグビー女子、フェンシング女子日本代表やプロ野球選手など40名以上のトップアスリートと契約し、トレーニングを行う。スポーツ以外でも経営者、芸能関係者を担当し、これまでのべ5,800名以上を担当。現在は、企業や自治体、教育現場での講演や出版・メディアでの活動も行っている。
<書籍>
そもそも、なぜ人は緊張するの?
緊張すると汗が出たり心臓がドキドキしたりする、このような身体の反応を「緊張反応」と言います。この反応は、人類がまだ類人猿と共通の祖先だった頃に由来します。
当時はライオンやオオカミなどに襲われて命を落とす危険があり、生き残るためには戦ったり逃げたりしなければなりませんでした。
危機に直面したとき、乾燥した手では木や岩に登ろうとしても滑ってしまうので、汗を出して湿らせたり、心臓をバクバクさせて血液を全身に行き渡らせたりすることで、いつでも動けるように体を戦闘状態にしたりする――このような反応が、現在の私たちの体にも受け継がれているのです。
緊張して頭が真っ白になってしまうのも同じことです。危機に直面して今すぐ行動しなければならないとき、いろいろなことを考えるのではなく、生き残ることだけに集中するため思考が停止します。
現代の日常生活では命の危険に直面することはほとんどありませんが、人前で話したり面接で受け答えしたりする場面で不安や恐怖を感じると、緊張反応が出てしまいます。
緊張するのはメンタルが弱いからではなく、動物的反応が出て冷静さがなくなってしまうからなのです。
緊張反応は人それぞれ
緊張反応は人それぞれ異なる形で現れ、毎回同じ反応が出続ける人が多い傾向にあります。
手汗が出たり、心臓がバクバクしたり、頭が真っ白になったりするほかにも、交感神経が優位になるため、自律神経が支配している内臓に反応が表れやすく、吐き気や下痢、便秘になる人もいます。
人によって異なる緊張の原因
人が緊張する原因は主に5つあります。
人によって1つしか当てはまらない人もいれば、複合的に組み合わさっている人もいます。緊張の原因が分かると対処しやすくなるので、まずは自分の緊張の原因をしっかり把握することが大切です。
①プライド型
「失敗したくない」「恥をかきたくない」「変に見られていないか」「すごいと思われているか」など、周りからどう見られるのかが気になってしまい、うまくできるか分からない不安や恐怖から緊張するタイプです。
緊張の原因はこのタイプが一番多く、真面目な人に多く見られます。プライドは生きていくうえで必要なものですが、その性格を自覚していないと緊張の原因となってしまいます。
②コンプレックス型
もともと自信がなかったり、コンプレックスがあったりする場合のほかに、周りの人と比べてしまい、相手が強い者(ライオン・オオカミ)、自分が弱い者(人類の祖先)の立ち位置だと思い、緊張してしまう場合があります。
例えば、オーディションや受験などで周りの人が優れて見えて自信がなくなるケースや、面接官が偉い人に思えて自分の立場が弱いと感じてしまうケースなどがあり、いずれも緊張の原因となります。
③トラウマ型
過去に人前で失敗したことがあったり、恥ずかしい思いをしたことを思い出したりして緊張してしまうタイプです。
④準備不足型
準備を十分にしなかった自業自得によるものと、急なことで準備ができなかった場合の2種類があり、「できるか分からない」という不安や恐怖により緊張してしまうタイプです。
⑤未経験型
「経験がないので分からない」「初めての場所で安心・安全か分からない」など、未知のものに対する不安や恐怖により緊張するタイプです。
石津さんがおすすめする緊張の対処法
緊張しているときに落ち着く方法と、緊張しなくなるための方法をご紹介します。
自身の緊張の原因を把握したうえで、効果を実感できそうなものを試してみてください。
緊張しているときに落ち着く方法
①緊張していることを認識する
緊張状態でパニックになってしまっていては、緊張に対処することはできません。
緊張している自分の状態を客観的に捉えて、先ほどお伝えした「5つの緊張の原因」のどれに当てはまっているのかを探ってみてください。
まずは、原因を理解することが緊張のコントロールの第一歩です。簡単にできることではないので、「自分自身を客観的に捉えること」を普段から練習しておくことが大切です。
②身体を安定させる
緊張していることを「上がる」と言いますが、緊張していると意識が“上”にいってしまい、身体がフラフラしてしまいます。
落ち着きがないと周りからも緊張して見えてしまうので、“下半身が安定している感覚”を得ることで意識を“下”に戻します。
例えば、座っている状態であればお尻が椅子に乗っている感覚、足の裏が床についている感覚を意識してみましょう。また、あらかじめ目線や手の位置を決めておくことで落ち着いた状態を保つことができます。
感情と身体の動きは連動しているため、最初に身体を落ち着けることで感情を引っ張ることができるのです。
③筋弛緩法(きんしかんほう)を実践する
緊張して肩が縮まっていると深呼吸ができず、呼吸が浅くなってしまいます。
筋弛緩法で力を抜き、ゆっくり深呼吸しましょう。
肩や首まわりの余分な力を抜いて、ゆっくり深呼吸をして身体を落ち着けましょう。
力を抜くときは、吸うときよりも大きくゆっくりと息を吐きます。このとき、「緊張が抜けていく」イメージをするとより効果的です。
緊張をコントロールするための方法
①矢印の法則
「矢印の法則」は、私自身が緊張を克服したときに編み出した方法です。
自分から「言いたい」「聞いてほしい」「分かってほしい」と思って話しているとき、矢印は自分から相手に向いています。
反対に、面接などで「見られている」「良く思われたい」など、相手から自分に矢印が向いていると、自分が弱者の立場のように思えて緊張してしまいます。
自分が「こうしたい」と思っているときは緊張しにくいため、矢印を自分から相手に向ける意識をセットすることが大切です。これを意識して行っていると、緊張する頻度が徐々に減っていきます。
②開き直って、自分のできることに集中する
面接やプレゼンテーションなど、相手からの質問に答えなければならないとき、「分からないことがあってはいけない」「答えられないと恥ずかしい」「準備していないと思われるのではないか」といった不安で緊張してしまう人も多くいます。
そんなときは、「しっかり準備したのだから、それでも分からないものはしょうがない」とポジティブに開き直って、自分のできること・やるべきことに集中するようにしましょう。
答えられないことが必ずしもだめだとは限りません。例えば自分が面接官だったら、知ったかぶりをする人より、分からないことを誠実に伝えたり、落ち着いた聞き取りやすい声で話したりする人のほうが好感が持てるのではないでしょうか。
スポーツの試合に出場する場合で考えてみましょう。例えば、「大きな大会だから」「友人や家族が応援に来ているから」といった、自分ではコントロールできないことを背負い込んで緊張してしまうケースがあります。
しかし、本当にやるべきこと、そして自分ができることは極めてシンプルです。空手であれば相手に勝つこと、陸上競技であれば誰よりも速く走ること――試合に集中し、練習の成果を発揮することだけなのです。
もちろん、“開き直る”ためには事前の準備が不可欠です。準備不足や慢心の状態で開き直れば、ただの“諦め”になってしまうので注意しましょう。
③イメージトレーニング
面接やプレゼンテーションなど、本番を想定したイメージトレーニングを繰り返し行うことも効果的です。
どのような場所で、どのように話しているかをリアルにイメージします。事前にインターネットで検索して会場の画像を見ておくのも良いでしょう。
イメージトレーニングを繰り返すことにより、脳がそのイメージを“実際に経験したこと”のように認識するようになるため、未経験による緊張を抑えることができます。
注意点としては、“最高のイメージ”だけを考えてしまうと、イメージとは違うことが発生したときに慌ててしまいます。不安点を洗い出して、「こういう対応をしてうまくいった」という複数のパターンをイメージしておきましょう。
さまざまなパターンをイメージしておくことで、「しっかり準備を行った」という安心感が生まれて緊張しにくくなります。
メンタルトレーニングは筋トレと同じ
メンタルトレーニングは“心の筋トレ”とも言えます。いきなり本番で実践しようとすると、うまくいかずに余計に緊張してしまう場合もあります。
また、最初にお伝えした通り、緊張してしまうのはメンタルが弱いからではありません。今回ご紹介した方法を試すことで、自身に合った対策方法が見つかるはずです。
ぜひ、普段から実践してみてください。
撮影/佐々木謙一
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