都市を舞台に、特に若い世代に受け入れられている「都市型(アーバン)スポーツ」。
そのなかでも、2024年の国際大会で新種目として追加されるダンススポーツ競技、ブレイキン(ブレイクダンス)が注目されています。
「ブレイクダンス」という言葉は聞いたことがあるかもしれませんが、その成り立ちやトリック(技)の種類、ルールについてはあまり知らないという人が多いのではないでしょうか。
そこで今回は「ブレイキン」について、モデルもこなす日本トップクラスのブレイカーに徹底解説をお願いしました。
これを読めば、2024年のフランス・パリで開催されるスポーツの祭典で初めて正式種目として採用されるブレイキンのバトルを初めて観る人も、存分に楽しめるはずです。
Valuence INFINITIESリーダー:ニコラス・ケンジさん
2020年に発足した日本発のプロダンスリーグ「D.LEAGUE」に今年から加盟したチーム、「Valuence INFINITIES(バリュエンス インフィニティーズ)」のリーダー。大学1年にダンスデビュー。5年後に「The Floorriorz(ザ・フローリアーズ)」のメンバーとして世界大会2連覇に貢献。また、モデルや三浦大知さんのバックダンサーを務めるなど、マルチに活躍している将来有望なブレイカー。
ブレイキン(ブレイクダンス)とは?
写真:Battle Of The Year World Finalより
ブレイキンは1970年代、ニューヨーク州ニューヨーク市の最北端に位置するブロンクス地区のアフリカ系アメリカ人やラテン系アメリカ人の若者たちによって誕生したストリートダンスです。
当時、この地区での祝い事やお祭り(ブロック・パーティー)で行われていた音楽やダンス、そしてファッションを含めた文化が“ヒップホップ”と称され発展していきました。
ヒップホップのなかのダンスの一つがブレイキンなのですが、その誕生は、当時過激化していたギャングの抗争を銃撃戦ではなく、ダンスバトルを用いること。それを提案したのが地元のミュージシャン、アフリカ・バンバータと言われています。
そのため、ダンスバトルでは互いに挑発するようなポーズをとるなど、一触即発の危険なムードもありますが、その刺激が若者たちに支持されブームとなりました。
さらにブレイキンを全世界に知らしめたのが、1982年に公開された映画『ワイルド・スタイル』であり、1984年の『ブレイキン(邦題は「ブレイクダンス」)』が日本でもヒットしたことで、日本では「ブレイクダンス」として認知されたのです。
ブレイキンの技
「ブレイキン」と言えば、逆立ちの状態で手だけで支えて回ったり、頭で回ったりの回転技が特徴ですが、トリックはもちろんそれだけではありません。
トリックの種類は4種類あり、それぞれを組み合わせて1回のムーブ(パフォーマンス)を構成します。
ブレイカー(ダンサー)はこの4つの基礎の動きを習得し、次に自分なりに改良を加えて、クリエイティブなダンスに仕上げていくのです。
■パワームーブ
写真:Battle Of The Year World Finalより
ブレイキンを象徴する、全身を使ったアクロバティックな回転技の総称。
「頭で回ったり、背中で回ったり、ほかのダンスにはない回転系のムーブがあるのがブレイキンの一番の特徴です。誰もが見て驚く、一番盛り上がるポイント、ブレイキンを代表するのがパワームーブです。
それぞれ基本の動きはありますが、やり方や形はブレイカーによってまったく違います。
例えば、あるブレイカーは足を伸ばしたほうが回りやすい、またあるブレイカーは足を曲げたほうが回りやすいという風に体の特徴もみんな違いますから。
同じトリックをやっていても形は違う、そのブレイカーの特徴が出ますね。」(ニコラスさん)
パワームーブの代表的なトリックは、下記の3つが挙げられます。
■トップロック
立ったままの状態で踏むステップで、“エントリー”とも呼ばれるように、ムーブに入る前のステップに用いられます。基本的な動きは、体の前でクロスした両手を左右に開き、片足を前に出す動きを繰り返します。
「立ちながらの踊り、これはどのジャンルのダンスでもやるステップです。ブレイキンでは次のムーブにつなげる導入となります。」(ニコラスさん)
トップロックの代表的なトリックは下記の2つが挙げられます。
■フットワーク
写真:Red Bull BC Oneより
床に手をついて体を支えながら、屈んだ状態で素早く足を動かす、重力を無視したブレイキンならではのムーブ。
「床に手をついて、足を素早く動かす。逆立ちまではいかなくても、中腰くらいの姿勢で足を動かします。このフットワークに重きを置いているのもブレイキンの特徴です。」(ニコラスさん)
フットワークの代表的なトリックは、下記の2つが挙げられます。
■フリーズ
技と技の間のラストの締めなどで、ピタッと動きを止めるブレイキンのお決まりのポーズ。連続して繰り出す技のフィニッシュを決めるための重要なムーブ。
「トップロック、フットワーク、そしてパワームーブの後、最後の締めの動きがフリーズ。バチッと片手の状態で止まったり、チェアーという動きなどで最後をまとめる重要なムーブです。」(ニコラスさん)
フリーズの代表的なトリックは、下記の3つが挙げられます。
ブレイキンのルール
ブレイキンの対戦は「バトル」と呼ばれ、それぞれソロのムーブを交互に披露します。
チーム戦、個人戦があります。チーム戦でも、1人がムーブする間はほかのブレイカーは邪魔をしないように離れています。
踊る回数や時間はバトルによってさまざま。ワンムーブの時間制限がない場合も多いとのこと。
ステージには音楽を流すDJとその場を進行するMC、そしてジャッジする審判員が3~5人。ムーブの構成はブレイカーの自由で、そこにルールはありません。
そして、曲を選ぶのはDJで、ブレイカーはどんな曲が流れるかはバトルが始まるまで知らされていません。毎回、即興で踊っているのです。
「まったく聴いたことのない曲の場合もありますが、聴いたことのある曲の場合もあります。知っている曲の場合、ブレイカーにとってここで音が盛り上がるというのが分かります。
バトルではDJが実際に曲を流しているので、スクラッチしてくることもあります。しかしムーブしていると、ここでスクラッチが来そうなど、感覚値でなんとなく分かってきます。
またDJによってはブレイカーのムーブを見て、ブレイカーに合わせて音を入れてきます。そのときはDJとブレイカーの意思疎通が取れた奇跡的な瞬間で、気持ち良くもありますね。」(ニコラスさん)
写真:WDSF世界ブレイキン選手権より
現状の大会では明確な採点基準はなく、審判員の主観で決まることが多いです。
パワームーブに重きを置いているジャッジ、フットワークや音に対してどうアプローチしているのかを評価するジャッジなど、審査員によってさまざま。
「採点は機械ではなく人間がしているので、なぜこっちが勝ったんだろうと思うこともありますし、もちろん納得するジャッジもあります。しかし、そういった点もブレイキンの面白いところですね。」(ニコラスさん)
しかし最近は、それぞれ細かい項目が付き、そこに点数を付けて決まるというのも増えているとのこと。
2018年にアルゼンチン・ブエノスアイレスで行われたユースのスポーツの祭典では明確な採点基準が採用されており、2024年にフランス・パリで行われるスポーツの祭典初の競技でも、まだルールなどは正式には発表されていませんが、採点基準は明確になりそうです。
「2018年に行われたユースのスポーツの祭典では、迫力やスピード、難易度が技術のなかに入って、表現には自分のオリジナルの動きであるクリエイト、あとは構成。ワンムーブを通して見たときに、流れが途中で途切れていないか、良い流れで全体的にまとまりがあるか。
最後はバトルというのがあって、空間の支配、会場の雰囲気を持っていっているなど。これら4つの項目を合計して、100点満点。技術が一番高くて40点・表現30点・構成20点、そして最後のバトルが10点というような採点でした。」(ニコラスさん)
ブレイキン注目の日本人選手
ブレイキンを踊るダンサーを総じて「ブレイカー」と呼びます。細分化すると、男性のダンサーは「B-Boy」、女性のダンサーは「B-Girl」とも呼ばれています。
そこで、ニコラスさんに注目の日本人選手も伺ってみました。
「注目してほしいB-Boyは、Shigekix(半井重幸⦅なからい しげゆき⦆)。彼は、2024年国際大会での金メダル候補とも言われています。特に体力がすごい。1日を通して、ずっと同じキレと質で最後までプレーできる。パワームーブ主体なので、スタミナ的に相当きついんですけど、ずっとキレが落ちません。
あとは、プレーを見ていて気持ち良いですね。速度が速く、キレがあり、動きも分かりやすいけどクリエイティブな部分もあるブレイカーです。」(ニコラスさん)
↑Shigekix 写真:Red Bull BC Oneより
「B-Girlでは、Ami(湯浅亜実)。体は細いですけど、しなやかな動きのなかにしっかりパワームーブで多くのオーディエンスを魅了します。
Amiは全部のトリックができるんです。B-Boy並みの動きを、B-Girlのしなやかさでそつなくこなす。フットワークが好きで、音をずっと取り続けて足を動かしているところも注目です。」(ニコラスさん)
↑Ami 写真:Red Bull BC Oneより
ブレイキンを観たことのない人は、どこを観れば良いのか、初めてでも楽しめるのだろうかと思われるかもしれませんが、心配は無用です。
「ブレイキンは音楽にのせて体のあらゆるところを使って、回ったり跳ねたりとアクロバティックな動きを取り入れたダンス。なので、ワンムーブのなかで途切れずに畳みかけるトリックは、観ていて圧倒されます。
そして、ムーブと音が合わせられているかという部分にも注目してみてください。おそらく、音とダンスがズレていると誰でも分かると思います。この2つは初めて観る人でも理解できるはずです。」(ニコラスさん)
日本の選手は世界的に見てもレベルが高く、男女ともに2024年フランス・パリで行われるスポーツの祭典でもメダルが期待されています。
というのも、2018年に行われたユースのスポーツ祭典では、日本代表のB-Girl、Ram(河合来夢⦅かわい らむ⦆)が個人と混合で金メダル、B-BoyのShigekixは個人で銅メダルを獲得しているからです。
この記事を読んでブレイキンが気になった人は、ニコラスさんをはじめ、トップブレイカーが熱いバトルを繰り広げている日本発のダンスのプロリーグ「D.LEAGUE」は必見。
そこでお気に入りのB-Boy、B-Girlに注目しておけば、2024年に行われるスポーツの祭典でのバトルも存分に楽しむことができるはずです。
撮影/我妻慶一
文/マイヒーロー
編集/GetNavi web