
高い品質と機能性によって世界中で愛されている日本生まれのダウンウェア「水沢ダウン」。業界の常識を覆したこの革新的な商品は、当社の自社工場であるデサントアパレル水沢工場で生まれました。「今までにない究極のダウンウェアを作りたい」。作り手のこの熱い想いと卓越した技術によって2008年に誕生した水沢ダウンは、妥協のないモノづくりを探求する水沢工場だからこそ実現した商品であり、デサントのモノづくりの姿勢を体現しています。

「水沢ダウン」に使用されている羽毛(ダウン)
きっかけは2年後に控えた冬季国際大会に向かう日本選手団が着用する公式ウェアの開発でした。寒さが厳しく、雨や雪も多い開催地の気候に耐えられる快適な防寒ウェアを選手団に届けるため、素材には保温性に優れるダウンを使いたい。しかしダウンは水に弱く、その作り方にも課題がある。ならば、雨や雪の中でも着られる「防水ダウンウェア」を作ろう――この発想がダウンウェアに革命をもたらしたのです。

「水沢ダウン」マウンテニア
水鳥から採取される羽毛(ダウン)は、とても軽く強い弾性を持ち、羽毛のわた毛の間に暖かな空気を溜め込むことができます。一方で水に濡れると小さくしぼみ、保温性が保てないという弱点があります。また従来の作り方では、縫い目からジャケット内部への水の侵入や、暖かい空気や羽毛が衣服外に逃げる抜け道になるという欠点もありました。

熱圧着加工を施すことで実現した防水機能と滑らかな表面感を備えた「水沢ダウン」
そこで当時の開発チームが注目したのが水沢工場です。1970年に操業を始めた水沢工場は、野球のユニフォームやレーシング用のスキーウェア、JRA(日本中央競馬会)の騎手用防護ベストなど機能性が高く複雑な構造の商品の生産を手掛けていました。なかでもデサントを象徴するアイテムであるスキーウェアは、雪上という厳しい環境下で着用されるため様々な機能が求められ、パーツ数や複雑な仕様が多く、難易度の高い商品の代表格と言えます。このように多様な高機能商品を作り上げてきたことで、ダウンウェアと防水ウェアの両方を作ることのできる設備と熟練の技を持つ職人たちが存在する、世界でも稀な工場になっていたのです。

様々な高機能商品を作り上げていくなかで磨かれた職人たちの熟練の技
ダウンウェアが抱える弱点を克服するために、元々スキーウェアなどに使用されていた熱圧着加工(熱によって生地と生地を貼り合わせる加工)とシームテープ加工(縫い目から水が入らないよう縫い目に特殊なテープを貼る加工)を採用しました。ただその開発過程は苦難の連続。特に熱圧着加工を使ってダウンパックを作成できるようになるまでには、気の遠くなるような手間と時間がかかりました。それでも「最高の製品を作りたい」という思いを原動力に、水沢工場の職人と開発チームで試行錯誤を繰り返し、開発に成功したのです。


手仕事を極めて作り上げた数多くのパーツを服に仕立てていく
ミニマルな見た目に反して水沢ダウンの作りは複雑で、生産工程の多くは熟練した職人の手作業によって成されています。ウインドブレーカーなど通常のアウターウェアの4倍にあたる280もの工程が製作には必要となります。曲線ばかりの膨大なパーツを縫い合わせることは、それだけでも簡単ではありませんが、水沢ダウンの生地は伸縮性が高く、また多彩な機能が付加された特殊な素材を使うことが多いため、職人は生地ごとに癖を見抜き、最善の方法を見つけ出しながら服へと仕立てていきます。

シームテープ加工を施す様子
水沢ダウンの特徴の一つであるシームテープ加工の工程では、職人の熟練した技術が求められます。素材ごとに異なる圧着の温度や固定する時間、季節や室温で変わる最適値をにらみながら、職人たちは指先や生地を動かすスピードを調節し、機械を操るのです。しかも細く狭い縫い代に沿ってシームテープを貼り合わせる作業は、やり直しのきかない一発勝負の工程になります。
このように水沢工場のモノづくりには、職人たちが磨いてきた熟練した技が生きています。そしてその技術をチームで高め合い、継承していったことで、操業から50年以上経つ今もなお、その技が脈々と生きているのです。

ダウンパックに羽毛を入れ込む作業

伸縮性のある生地を縫製する様子
実は水沢工場には独自のアトリエ(工房)もあります。アイディアをもとにパターン(型紙)の設計やサンプル作製ができる工房を持つ工場は珍しく、そのことが水沢工場のユニークさをさらに際立たせています。商品開発の際には本社のデザイナーやマーチャンダイザーら商品企画チームから出されたイメージを、アトリエのパタンナーが具現化。迅速な商品開発と改良につなげているのです。

ブランドの世界観を大切にした工場エントランス
この水沢工場を当社は2025年7月に建て替えました。約30億円かけて完成させた新工場は、明るい自然光や木のぬくもりに囲まれた快適な空間が特徴です。働きやすい環境にしたことで技術の向上と継承を促進し、生産効率の向上で複雑なデザイン・仕様に挑みやすくなりました。

配線などをまとめた「ファクトライン」が機能的な空間を作り上げる縫製エリア
今回の建て替えではまず動線を整備しました。以前の工場は8棟に分かれていましたが、新工場は1棟・ワンフロア化を実現。面積も1.5倍に広げ、全体にゆとりを持たせています。そのうえで材料の入荷から製品出荷までを工程の流れに沿ったコの字型に設計。フロアも一面フラットにしました。
新工場最大の特色は柔軟性です。建屋中央にある裁断・縫製エリアの空間上部には、木製の長いH型の構造物があります。「ファクトライン」と呼ばれるもので、ここに配線ダクトとエアーコンプレッサー配管、照明をまとめています。このラインを約2メートル間隔に据え、各オペレーターが電源をどこからでも取りやすくし、ミシンや機材の配置変更を容易にしました。ファクトラインの高さは約190センチに統一。身長の低いスタッフでも届く高さにしています。

裁断・縫製エリアの壁全面に配置した、ふく射熱冷暖房設備
働きやすさにも配慮しています。裁断・縫製エリアの壁全面には、風の出ない「ふく射熱冷暖房設備」を配置。風によるミシンの糸揺れや羽毛の浮遊・飛散を防ぐと同時に、風が直接当たらないようにしたことで従業員の快適性も高めました。同時に建屋の気密・断熱性を高め、生産エリア内を安定した温度状態に保つことを可能にしています。

食堂や休憩室にはグループで歓談できる席や一人の時間を過ごせる席など様々なスペースを設けている
一方、作業場以外のスペースはスタッフが休憩時間を有意義に過ごし、リフレッシュできる配慮が見られます。例えば「ダイニングホール」にある曲線的なテーブルは、お互いの目線が合いにくい設計の造作家具です。「休憩ラウンジ」には足を伸ばして休める簡易ソファを置いています。ベッドを備えた「リカバリールーム」は女性用に3室、男性用に1室確保。子供が通う学校や保育園から緊急の連絡が入ったときなど、周囲に気を遣わずに落ち着いてやり取りできるよう「フォンブース」は5つ配備しました。

ワンフロア化により見通しが良くなり、各ラインの状況も分かりやすくなった
水沢工場の建て替えは、水沢ダウンをより多く作ることを目的にしていません。計算上、建て替えによって以前より10%程度、生産効率が高まっていますが、そのぶんを難易度の高い仕様・デザインへの変更に充て、製品の価値を高めることにつなげています。新しい水沢工場で、水沢ダウンは今後もっと機能的で素敵な商品に進化させていきます。

新工場のエントランスホールには水沢ダウン1着の全裁断パーツを配置した約10メートルのパターンボードを展示している
このように水沢工場の根幹には、創業期から変わらない作り手の姿があります。高機能・高品質の商品を作ることに手間を惜しまず、品位を追求することで、競合他社では真似のできない技術を身に着け、時代や性別、国籍を超えた説得力のある商品を世界に送り出しています。
モノづくりの現場で水沢工場の職人たちは日々クオリティーを追い求め、スポーツウェアの可能性を探求し続けています。水沢ダウンを生み出した水沢工場の職人のスピリットこそが、デサントのモノづくりの原点と言えるでしょう。