モノづくりへのこだわり

水着ができるまで

技術と思いをカタチにした水着

テレビなどでも報じられる日本を代表する水泳選手たちの活躍。選手たちが勝負のシーンで身に着けているのは機能性が求められる競泳水着の中でも、その頂点にあたるトップモデルの水着です。最先端の技術だけでなく、水着を作るプロたちの知識や技術が詰まっています。

「どうしたら速く」を4年間突き詰めた新トップモデル

2020年の1月にデビューした『アリーナ』のトップモデル水着「アルティメット・アクアフォースX」。この水着の開発は4年も前からスタートしました。どうしたら速く泳げるのか?を突き詰め、そのためにはどんな水着が最適なのかを考えるところからスタートします。

水着のコンセプトを決める

速く泳ぐために必要な要素はさまざまですが、私たちが最も重要視しているのが選手のパフォーマンスの向上です。そのため選手が泳ぎやすいと感じる水着、速く泳げると感じる水着の要素を、瀬戸大也選手や入江陵介選手(イトマン東進)など、契約選手を中心としたトップ選手に聞き取りを行いました。そのニーズに加え、速さにつながるより力強いキックを打つための体の動きの実験や検証を筑波大学と共同で行い、総合して水着のコンセプトを決めていきます。その結果アリーナは、選手が自分の好みに合う一着を選べるよう、サポートするパワーの強いタイプと、足の動かしやすさをより重視したタイプ、2タイプを開発しました。

サポート力を重視した アルティメット・アクアフォースX CP」(写真左)
動かしやすさを重視したアルティメット・アクアフォースX MF」(写真右)

今回は瀬戸大也選手も着用する動かしやすさを追求した「アルティメット・アクアフォースX MF」について詳しく紹介していきます。

薄くて軽い生地の開発

動かしやすさを追求する上で水着と皮膚との一体感が重要になってきます。そのため、わずか約88g/m2という軽さと約0.2mmという薄さながら伸縮性を持たせた独自の布帛素材「アクアフォースFフィルム」を東レ株式会社とともに開発しました。

軽さと伸縮性を持たせた布帛素材「アクアフォースFフィルム」

一筆書きの型紙 ワンパーツ仕様の矛盾

その軽さと生地の伸びを妨げないための最大の特徴がワンパーツ仕様です。身ごろをひとつだけのパーツで構成し、生地の接合部分はお尻から股にかけてのラインのみです。動きにあわせた生地の伸びを縫い目で止めてしまうこともなく、水を含んでしまう糸の使用量を減らすことで水着の軽量化にもつながります。しかし、動かしやすさが重要といっても、生地が良く伸びればそれで良いわけではありません。泳ぐときの筋肉の揺れを抑えたり、体の動きをサポートしたり、部位によっては締め付けが必要な箇所もあります。それゆえ今までの水着は部位によって生地の種類を変えたり、パーツごとの縫い目を利用して生地の伸びを制限したりしていました。

身ごろに切り替えのないワンパーツの型紙

矛盾への挑戦

しかし、今回わたしたちが実現したかったのは1種類の生地を、身ごろ一枚の型紙のみで仕上げ、かつ締め付ける部分と伸びやすい部分を分ける、という挑戦です。一般的に生地は縦、横、斜めでそれぞれ伸縮率が違います。どうすれば思い通りの締め付けの強弱がつけられるのか、生地の特性を考慮し、表地と、よりパワーの強い裏地のそれぞれの型紙を生地のどの部分にどういった角度で配置し、切り抜くのかを考える緻密な作業への挑戦です。

販売する商品と同様の仕様であること

ところでトップ選手は特注品を使用しているというイメージはありませんか?水着に関していえば、全ての大会で着用する水着は大会の半年前から一般で販売されているものでなくてはならないというルールがあります。つまり水着は選手の特注品でなく、市販品である必要があります。そのためには強度や取扱いの面からも一回のレース限りの水着という訳にはいきません。接合部分が裂けてしまったり、接合部分の補強のために圧着するテープがはがれてしまったりということを防ぐため、接合や圧着をする温度、時間、圧力、角度、そして圧着に使うテープの伸縮性や強度を繊細に調整する必要があるのです。これらの作業は、宮崎県にあるデサントアパレル西都工場で熟練の職人と開発担当者がミリ単位での調整を繰り返しながら仕上げていきます。
このように4年間をかけて発想、仮説、サンプル作りと検証を繰り返し、そして選手の感覚を確認するための試着・調整を経てやっと完成形となるのです。

わたしたちの思い

この4年がかりの水着の開発を支えているのは、40年以上水着開発に携わってきたわたしたちの知見と、最新設備の揃った研究開発拠点、そして自社工場の技術とともに、1/100秒を競うスイマーをサポートしたいというひとりひとりの強い思いにほかなりません。
そしてこの思いを胸に、次の4年後に向けた水着の開発がもうスタートを切っているのです。