「ピピッ、ピピピッ・・・・・・」
目を閉じたまま枕元を探ってスマートフォンを手に取る。一瞬ぼーっとして、ここはどこだっけ?という浮遊感に浸る。ハッとして身体を起こし、窓に駆け寄って曇ったガラスを袖で拭く。そして慌てて小屋の玄関まで飛んで行った。
「すぐに着替えて、いきましょう!」
まだ半分夢の中でまどろんでいたところから、わけもわからず慌ててバタバタと準備をした。薄暗い小屋の中でヘッドライトの灯りを頼りに、とにかくバックパックに必要そうなものを放り込んで、早着替え状態で外へ出た。
「わぁあ!すごい!」
思わず声が漏れる。小屋のそばの雪渓を少し登ると眼下には雲海が広がっていた。空は優しいパステルカラーのグラデーションに染まっている。冬のようなキンと冷えた空気はとても澄んでいて、昨日の嵐が信じられないほど混じり気がない。
これは絶景が見れるのでは!?と期待を込めて、靴ひもをギュッと結びなおした。
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斜面を急いで登っていくと、普段見ることのできない景色が広がっていた。
まだら模様の稜線は、残雪期だけ見ることのできる特別な光景。明るくなるにつれてそれが浮かび上がってくる。できるだけ、できるだけ、上へ急いだ。もうすぐ陽が昇る。いつもは苦しい朝の登りも、心が躍って足取りが軽い。
「ほら、見て!」
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昨日、雨風に晒されながら登った栂池のもっとずっと向こうから、陽が昇ってわたしたちを照らす。足を止めて思わず見入ってしまった。太陽はお構いなしにぐんぐん昇る。日が当たるとあっという間に暖かくなってきた。昨日はあんなに寒かったのにね。やっと出番がやってきたマーモットのストームジャケットに着替えて、さらに上を目指すことにした。
白馬大池山荘から船越ノ頭までの最初の登りは「雷鳥坂」と呼ばれている。まさかね、雷鳥が見れたりしてね、なんて話していたら丸くてころんとした姿でハイマツの影からひょっこり顔を出した。慌ててカメラのシャッターを切った。今日はとびっきりツイている。
小蓮華山に至る稜線に出ると、たちまちの上にいるような気分になる。白馬の町は遥か下。昨日潔く途中で行程を変更してよかった。この美しい景色はやっぱり晴れた時に来るべきだよね!なんだかお互い饒舌で、登るペースも速い。
「あれ、槍ヶ岳じゃない?」
真っ青な空にかすかにトンガリ山が見える。北アルプスの名だたる山が一望できた。
じっくり景色を味わいながら2時間ほどかけて、小蓮華山に到着。白馬岳まで行くには、三国境を経て、馬の背を越えていく。1時間30分の道のりだ。往復で3時間。午後からまた天気が崩れる予報だった。昨日の荒れ模様が頭をよぎる。
「よし、ここで引き返そう!」
白馬岳はまた今度のおあずけだ。ちょっと心残りだけれど、きっとそのくらいがちょうど良い。また来る理由になるじゃないか。少しだけ離れたところから白馬岳の逞しい山容を眺めるのもそれはそれで良い。ピークハントをするよりも、晴れた気持ちの良い空の下、気持ち良く終われるほうを選んだ。
そうと決まればあとは下山するのみ。時間に余裕ができたので、最高のロケーションで朝食を取ることにした。そういえば朝から夢中でここまで来たものだから、ほとんど何も口にしていなかった。お腹もグゥ~と返事をする。
紅茶を淹れて、コーンスープにはバケットを浸して食べる。アツアツのスープが身体に染みわたった。お腹も心も満たされて、ルンルンしながら白馬大池へ戻る。徐々に雲が再び稜線を覆い始めていた。
山荘へ戻ると、スタッフのみなさんが出迎えてくれた。久しぶりの晴れ模様。荷揚げへリが飛ぶかもしれない、と荷物の準備が行われていた。標高約2400mの小屋。毎日の生活も仕事も楽ではないはずなのに、とっても明るくて楽しくて山が大好きなスタッフのみなさんに癒された。
さて、荷物をまとめて小屋を後にすると、今度は天気が崩れるまでに下山しなければならない。昨日とはまるで違う景色だ。
ここはこんな風だったんだね、ここは岩が濡れて怖かったね、と振り返りながら歩くのもまたなんだか楽しかった。
雲が広がり、ものの数時間であっという間に空は霞んでしまった。太陽が隠れると肌寒く、身体が冷えないうちにシェルやダウンを着込む。夏はすぐそこだというのに、想像以上に寒かった。
マーモットのシェルやダウンは、軽くてザックに入れてもかさばらないので、今の季節にはおすすめだ。
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山の天気は変わりやすい。残雪、雨、風、くもり、晴れ。
たった2日間でめまぐるしく変わる天気を一度に経験することができたと考えれば、またひとつ経験値が上がったと思いたい。
天狗原に着く頃には栂池は雲の中。かろうじて雨に降られることなく下山することができた。
「白馬岳と相性がわるいのかなぁ」
「そんなことないよ、また来いってことだよ」
すべてがうまくいったわけではないけれど、そんな会話にも暗さはない。貴重な晴れ間を引き当てた満足感で十分なくらいに気持ちは晴れ渡っていた。
雨に遭うことなく下山することができ、がんばったねとお互いをねぎらう。サコッシュに入れていたコインケースが昨日の雨で濡れていないかと心配していた。だって、ご褒美はソフトクリームと決めていた。よかった、買えた!ほんのりとした甘さが旅の疲れを癒してくれた。さぁ、温泉に入って帰るとしますか。
TEXT&PHOTO|中島英摩
Special Thanks|白馬パノラマウェイゴンドラリフト
7月7日。朝だというのにどんより暗い空の下、わたしたちは長野県白馬岳の麓、栂池高原スキー場でゴンドラの始発を待っていた。長引く梅雨。二転三転する天気予報に翻弄されながら、なんとか晴れ間を期待してエイヤッと出発した。ゴンドラリフトの乗り換[…]