日比野菜緒選手が抱く「国際大会」への思い。コロナ禍で変化したテニスとの関わりと、未来への道筋

  • 2020/08/17 (月)
  • 2023/06/23 (金)

2013年に18歳でプロ転向して以来、トップテニスプレイヤーとして世界で活躍する日比野菜緒選手。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、国際大会の延期・中止が相次ぐなど、スポーツ界はかつて経験したことのない事態に直面しています。日比野選手はこの状況を、どう見て、どう感じているのでしょうか。

コロナ禍における気持ちの変化や未来への展望、“おうち時間”の過ごし方など、25歳の素顔に迫ります。

相次ぐ国際大会の延期・中止。そのなかで日比野選手はどう感じたのか

真剣な表情の日比野選手の写真

――新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、国際大会の中止・延期が相次いでいます。率直にどのように感じていますか?

すでに出場が決まってそれに向けて準備していた選手にとっては、私たちが想像できないくらいつらいだろうなと思います。

でもテニスは、まだ誰が出場できるのか分からない状況だったので、私にとってはまた1年チャンスがもらえたと捉えています。

――日比野選手にとって、国際大会はどのような存在か教えてください。

「日本代表」というものには、すごく憧れがありますね。もちろん4大大会も大切ですが、それと同じくらい大きな存在。4年前に初めてリオの国際大会に出場しましたが、やはりメダルが重要なんですよね。

「メダルが取れなかったら、ここにいても面白くないな」って思ったくらい、メダルありきで評価される大会だと感じました。

――国際大会に出場したことによって、ご自身が成長したと感じることはありますか?

体は間違いなく大きく、強くなっていると思います。メンタル面でも、以前は結構ネガティブで、ネットの評価などを見て「私、ダメなんだな」とか一喜一憂していた時期も…。今はそういうことも一つの意見として受け入れられるようになったかな。

――ネガティブな意見を受け入れられるようになったきっかけが何かあったのでしょうか?

兄に言われたことですね。「10の良いコメントが来ているのに、1つ悪いコメントがあったらそれにばかり気を取られているけど、どうして良いコメントを見ないの?」って。

確かに、1つのことに引っ張られてネガティブになっていたので、それからは少しずつ見方を変えました。

悪いコメントのなかにも納得できることもあって、「確かにそれ苦手だな…。練習しよう!」と気持ちを切り替えられるようになりましたね。

「モチベーションを失いかけたことも…」。新型コロナウイルスによって一変したプロテニスプレイヤーの日常

ラケットを振る姿勢を取っている日比野選手の写真

――コロナ禍では練習の自粛などで苦労もあったのではないでしょうか?

ありがたいことに、私が所属しているチームはいろいろな対策をして練習環境を整えてくださっていて、トレーニングはしっかりできていました。

逆にこれだけ長い期間、トレーニングに時間を費やせることってなかなかないので、苦労よりメリットのほうが大きかったかもしれません。

――プラスに転じたわけですね。特に重点的に行ったトレーニングを教えてください。

私は背中の筋肉がトップレベルで戦うにはまだ足りていないので、そこを重点的に鍛えましたね。

レベルの高い選手と戦うとスウィングスピードが上がってきて、ブレーキをかけるときなどに痛めやすいので、鍛えておかないとケガにつながってしまいます。

それに、背中が開いているウェアを着るので、見た目としても筋肉がついているほうがかっこいいですよね。

インタビューに答える日比野選手の写真

――コロナ禍において気持ちの変化はありましたか?

私は以前から、趣味の延長が仕事になったという感覚がとても強かったです。同世代の子たちはみんな就職して世の中のために働いているのに、私は自分の好きなことをやってお金をもらっていて良いのかな、と。

そんな気持ちを抱くなか、コロナの影響で大会に出られなくなり、「試合に出ないテニス選手なんて価値があるのだろうか」と思いました。「こんなきつい練習、意味あるの?」「私たちの存在意義って何?」みたいなことを考え出してモチベーションが下がってしまいました。

でも今の時代、SNSやYouTubeが流行っているので、そういったところで自分の姿を見せていくことも大事ですよね。

知り合いの方に「みんな自粛期間中に、過去のライブやお笑いの動画、スポーツのハイライトを見たりして気分転換しているよ」と言われて、そのとき初めて私たちのやっていることは人の役に立っているんだと気付けました。

――そういった悩みなどはチームの仲間に相談するのでしょうか?

しないですね。やはりライバルでもあるので、弱みは見せられません(笑)。

でもコーチには相談しました。「これだけの時間があって、うまくなれるチャンスは今しかない。自粛が明けたときに誰よりもうまくなっていようね」と言っていただいて、自分の成長に目を向けることで乗り切れました。

コーチの竹内映二氏と日比野選手の写真

コーチの竹内映二氏と日比野選手。

withコロナ時代のプロテニスプレイヤー。未来へ向けてリスタートする日比野選手の視線の先には

ラケットを持って構えている日比野選手の写真

――コロナ禍はまだまだ続きそうです…。日比野選手のおすすめの“おうち時間”の過ごし方があれば教えてください。

ヨガはすごくおすすめですよ!私は自粛期間中に、YouTube動画を見ながらマネしてみるくらいのレベルで始めたのですが、それだけでも体がほぐれて調子が良くなりました。

ゆっくりと呼吸をしたりして、自分に対して良いことをしている気分にもなるので、メンタル的にも安定する効果があるんじゃないかなって勝手に思っています。自分のペースでできるので、どんな年代の方にもおすすめできそう。

あとは料理もしていました。遠征中はできないので、この機会にと思って。最近は、豆苗と厚揚げをオイスター炒めにするのがおいしくてハマっています!豆苗が安いんですよ(笑)。

笑顔を見せる日比野選手の写真

――クラウドファンディングにより、無観客テニストーナメント「BEAT COVID-19 OPEN」が実現しましたね。

実は、この大会を開催するにあたって動いてくれたのは私のコーチです。

私たちが試合をすることができない状況を見て、何かできることはないかと考えて動き出してくれたので、私も大会を盛り上げたいという気持ちが大きかったです。

クラウドファンディングでお金を振り込んでいただく際に、皆さんからコメントもたくさんいただきました。私たちの試合のために多くの人たちが思いを寄せてくれていると思ったら、本当にうれしくなりましたね。

――日比野選手はファンにとってどんな存在でありたいですか?

アスリートとして見てもらいたい、という思いが強いです。

InstagramやFacebookなどはやっていますし、SNSは嫌いではないですが、そこで判断されるよりはコートに立っている姿を見て「元気をもらえた」と言ってもらえるほうがやっぱりうれしいです。

ガッツポーズをして笑顔を見せる日比野選手の写真

――今後の展望を教えてください。

国際大会は延期になりましたが、目標は変わらず、出場だけじゃなくメダルです。自粛期間もしっかり練習できる機会だという前向きな気持ちになれたので、メダルを目指して頑張りたいですね。

それから、やはりずっとテニスにお世話になって生きてきたので、いつかテニス界に恩を返せたらと思います。

プロとして活躍されて、今もテニス協会に携わっている女性の方って少ないです。私がもう少し若かったときに、世界を知っている方にアドバイスがもらえたら良かったなという経験があるので、自分がもっともっと頑張って世界を経験したうえで、引退したらテニス協会で若い選手たちにアドバイスしていけたら良いなと思っています。

 

<プロフィール>

プロテニス選手 日比野菜緒

1994年生まれ、愛知県一宮市出身。10歳よりテニスを始め、2013年18歳でプロに転向。2015年のタシケント・オープンで、日本人女子史上9人目となるWTAツアー初優勝を飾る。2016年にはリオオリンピックに出場。2018年台湾オープンでダブルス準優勝。2019年にはITFカナダ大会・女子ダブルス優勝、WTAツアー公式戦「花キューピット ジャパンウイメンズオープンテニスチャンピオンシップス」でシングル、ダブルス優勝、WTAツアー公式戦「天津オープン」でダブルス優勝など、飛躍的な成長を遂げた注目のプレイヤー。WTAランキング72位、JTA女子シングルス1位(2020年7月20日現在)。

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トレーナー武井敦彦氏
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